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46.フェルメント帝国の秘宝⑭ 〜事の顛末

約半年ぶりの更新話です

 結愛の屋敷を出て、朝から胸いっぱいな俺は、浮かれた足で皇宮へと出勤だ。


 ほんとはまだ一緒にいたかったけど、俺には報告しなきゃいけないことがたくさんあるし、結愛はカトレット店に行かなきゃと言っていた。


「行ってらっしゃい。」と、恥ずかしそうに笑ってくれた結愛を思い出すと、つい頬がゆるっと緩んでしまう。


 かはーー!! 新婚、かよ!? ほんと、可愛い、かよ!?


 馬車門から入って、メルゼィ邸への馬車を回してくれた馬丁に昨日のお礼を言って、中庭にいた令嬢たちに笑顔で手を振る。


 ああ、今日はなんていい日なんだww!!


 執務室前に立つ馴染みの守衛兵と昨日のことを少し話して、それからドアを開けると、けれどうらはらに、室内にいたのは、疲れの色が隠せないソウルとハロルドだ。


 いや、ほんと、だいぶお疲れのようだな。


 さっき守衛兵の話では、昨日、俺がイスを追ってこの部屋を出た後、色々と大変だったらしい。


「ヒーロクリフ殿が出て行かれた後、ですか? しばらくして、ソウル殿下に付き添われて、ルシアナ皇女殿下が退室されました。そのすぐ後に、カトレット店からユーディ殿の部下が、おいでになりました。とても、慌てた様子で・・・。」




-------------------------------------------------


「ユーディが、ひとりでカトレット店の犯人のアジトに向かった、だと!?」

 閉めたドアの向こうから微かな声、ハロルド殿の低い声が、何故かするりと耳に届いた。


 カトレット店の暴動のことは聞いていた。

 ソウル殿下の護衛隊長でもあるユーディ殿が、この数日不在なのはそのせいだ。

 そして、この部屋の守りが手薄になるからと、一般兵士の中で年長の自分が、いくつかの情報が与えられ、ここに配置となっていたが、その情報のひとつが、このことだった。


 光栄なことだけれど、何かあったら自分には手に負えないし、ユーディ殿には早く戻ってきて欲しい。

 そんなことをずっと考えていたから、『ユーディ』という名に、耳が反応してしまったのだ。

 

 ユーディ殿はお強いが、たった独りで乗り込むなんて、大丈夫なのか?

 話の先が気になって耳を寄せたが、その先は『騎士が』とか『イス様が』とか所々の単語しか聞きとれない。


 隊長が、どうか無事でありますように。

 心ばかりだが祈ろう。


 だがその時ドアが開き、なぜか「君、ちょっと。」と呼ばれたのだ。

 どきどきしながら、普段入ることのない場所に足を踏み入れる。


 すると、明るい室内には、対照的に顔を曇らせたハロルド殿が、上着を羽織り、長い髪を高い位置でぐっと結い直していた。


「あぁ、君。私は出かけるから、ソウル殿下がお戻りになったら、伝えてもらえるか? イス様がカトレット店の犯人の情報を掴み、それを聞いたユーディが、1人でそのアジトへ向かった。騎士らを応援に送ったが、私も現地に向かうと。

 ―――あぁ、それと、私たちが不在の間に、イス様かヒーロクリフが来たら、逃さず引き止めてくれ。」


「はっ、承知いたしました。」


 しがない一兵卒が、こんなに大事な役を賜るなんて、これは責任重大だぞ!




 ドアの前で緊張しながら、誰もいない部屋を守る。

 ―――ひどく長い時間だ。



 

 途中、シュー殿が来られて(シュー殿には伝言はなかったな)、

「やあ、みんな、いないの? だったら、俺、あっちにいるから。」

と、するする執務室の隣、控え室へと入ってしまった。


 そして、またドアを守る。


 ―――のどかな昼下がり

 控え室からは、微かに楽器の音が聞こえていた。




 慌ただしくなったのは、ソウル殿下がお戻りになってからだ。


 ハロルド殿の伝言を報告していたちょうどそこへ、ユーディ隊長の続報を持った騎士が駆け込んできた!

「単身アジトに突入したユーディ様が、実行犯の男を確保いたしました!」


 どうやら数十人もいる相手を一網打尽だったらしい。

 さすが、隊長だ!!!


 それからもどんどん続報が入ってくる。


 ハロルド殿が実行犯とピソラ商会の密約書を発見、

 実行犯らの妨害工作の阻止に成功、

 ピソラ商会の店長捕縛、

 ピソラ店で禁制品の一部を発見。


 次々に舞い込むそれらの情報に、お一人で対応されるソウル殿下、

 さすが、鋭敏と言われる皇子殿下だ。

 そして、執務室のこの慌ただしさに、控え室から出ていらしたシュー殿、

 意外にも、いくつかの書類作業を慣れた様子でこなされている。


 そうだ!

 自分も、お仕えしているこの素晴らしい方々をしっかりお守りせねば!



 そして、またドアを守る。

―――扉越しの活気を感じながら。




「あのう。」

 そんな自分に声をかけるひとりの女性が・・・。

 皇女宮の制服を着た若い女官、初めて見る顔だ。


「すみません。ルシアナ皇女殿下からお詫びの品をお持ちいたしました。皇子殿下にお目通り願えませんでしょうか?」

 美しい装飾の箱と赤と金の混じった皇家の封蝋が付いた封書を持ったまま、とても恐縮そうに、彼女は頭を下げる。


 う~~ん。

 中は、今それどころではないのだがな・・・、可哀想に、間が悪いことだ。


 でも、彼女もそのまま帰るわけにもいかないのだろう。

 居心地が悪そうに、体を小さくして立っている。


 仕方ないかと室内に取り次ぐと、ソウル殿下は忙しい中すぐに封書を切って読み、箱の中身を確認して、眉頭に深い皺を刻んだ。

「―――分かりました。姉上に、こちらも申し訳なかった、とお伝えください。ですが、こちらは過剰なご配慮です。・・・・・悪い、シュー。」


「ん? なに? ソウ様。」

 呼びかけに手を止めて、書類の束を抱えてきたシュー殿―――、その耳元に、ソウル殿下は何かを囁くと、こう言った。

「使者殿。こちらのお礼に、この者を同行させるので、ご案内いただきたい。」


 にこりと微笑んだシュー殿に、遣いの女官は顔を赤らめ、そして二人は廊下の奥へと消えた。



-------------------------------------------------


「―――それからしばらくして、ユーディ隊長が無事お戻りになられて、自分は持ち場を交替しました。執務室ではまだまだソウル殿下の仕事は終わりそうにないご様子で・・・、たぶん今朝までずっと詰めておられたのでしょう。とてもお疲れのようです。」

 それが守衛兵の話だった。


 そう言いつつ、あいつ、なんか嬉しそうだったな。

 あいつにとっても、昨日はいい日だったのか? 俺と同じ、だな!!


 一瞬また今朝の結愛が頭を過って、頬が緩んだ。

 ―――と、そんな場合じゃない、やべぇ。

 部屋の中央、どんよりとした空気は、ましにましている。


 ・・・・・はぁ、よっしゃ。


 俺はむんと口を引き締めると、ソウルの執務机の前に立つ。

「申し訳ありません! 昨日は、私に任せていただいたのに、イス様にお会いすることはできませんでした。」


「・・・そうみたいだな。昨日、ユーディから話は聞いている。」

 ソウルは大きくため息をついて、辛そうに眉を寄せた。


 でも、ごめん、ソウ様! これだけじゃあ、ないんだ。


 俺は、昨晩結愛から聞いたカイル・デリートのこと、それからイス様のことを報告した。

 それに、どうしてイス様が、ここを離れようとしたのか、も。

 つまり、『自分を守るためにソウルが悪意に晒されたくない。』そうイス様が言っていた、ということをだ。



「・・・そうか。」

 俺の話を聞いて、震える声でそう言ったソウ様は、どこか泣きそうにも見える。

「そんなことを、あの子が考える必要は、ないのに。・・・俺が、頼りないから。」


 違うよ、ソウ様、そうじゃない。

「イス様は、ソウ様のことを守ろうとしているんだ。ソウ様と同じように!」


 お互いがお互いを大切に思い合っているんだ。

「―――だから、イス様は、絶対に、またここに、戻ってきます!!」


 言い切る俺に、ソウ様はアイスブルーの瞳をぱちぱちと瞬いた。

 まるで日の光を浴びた氷のようにきらりと揺れる瞳だ。


「お前は・・・、なあ、ヒーロクリフ。お前は、メルゼィ邸まで行ったんだろう。だったら、事情は察したはずだ。あの子は―――」

 くっと、また眉を寄せたソウ様に、俺はにかっと笑う。

「大丈夫です。俺は、イス様のことを知ることができて、ほんとうにいい一日でした!!」

 とっても、疲れたけどな!


 ぺこりと大きくお辞儀をすると、頭上から、また大きな吐息が聞こえた気がした。

 うん? ソウ様、安心したのかな、それともあきれたのか?


 そうっと見上げると、ソウ様の綺麗な笑顔があった。

 よかった! と、俺も、にっと笑う。

 そして、その隣では、ハロルドがこほんと咳払いをした―――。


「あ~~、ところで、ヒーロクリフ。」


 え、なんだろ? なんか、やな予感・・・。


 ハロルドは、にこりと上品な笑顔を作って言った。

「カイル・デリートの情報、とても助かったよ。私たちも、昨日、カトレット店襲撃の犯人から、デリートを訴追する証拠を手に入れたんだ。でも、少しピースが足りなくてね。今の情報を追加で出せば、すぐにも宰相から認可がおりるだろう。それほどに大きな情報だ。」


 なんだ、なんだ。お褒めの言葉じゃん。よかったぁ。

 さっそく、結愛にも伝えないとな。


「―――――ということで、ソウ様と私は、これから陛下の元へ行く。だから、お前はその間・・・、ん? なんかさっきから、にやけていないか?」

「い、いえ、気のせいです。」

 俺は、頭に浮かんだ結愛の笑顔を、そうっと横にどけた。


「・・・そうか。だったら、話を戻そう。我々がいない間、お前には、昨日の一連の資料の整理を頼みたい。」

 

 ん・・・? 資料の整理・・・?


 ハロルドはひどく窪んだ目をにこりと更に窪ませ、自らの執務机の前から、一歩大きく横にどいた。

――――そこには、大きく積まれた紙の山が!!!


「ひぃっ、・・・まじか~~~っ!!?」

 俺は頭を抱えて奇声を上げる。


 昨日と今朝、俺が結愛の家でゆっくりと浸っていた幸せの皺寄せが、まさかこんな形で戻ってくるなんて、思ってもみなかった。

毎度読んでいただき、ありがとうございます。


あっっっっっっっつい、ですね~~~!!

頭が飽和しそう、ですね、ほんと。


さて、次話より、終盤に向けて動きます。

更新はゆるゆるいたします。

ぜひ最後までお楽しみください

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