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3.アイドル活動のススメ ~ まず、そこからか・・。

「アイ活? なんだ、それは。」

 ソウル殿下は大きな執務机の向こうから、不機嫌そうに、俺を睨んだ。


「よく聞いてくれました! アイドル活動、略して『アイ活』。――『アイドル』とは、女の子たちの夢と希望、『押し』です。

 この人がいれば生きてて楽しい、この人推せるなあ~、そんな生きがいとときめきを与える夢のような存在なのです。その活動といえば、まずは、パフォーマンス――歌とダンスです!」


 身を乗り出して、身振り手振りに力説するが、ソウルは、俺と距離をとるようにのけぞった。


「俺には、お前が何を言っているのか、全く意味が分からない。」

「えっ? 一体どこがでしょうか?」


 こんなに力説しているというのに、優秀と評判のソウル殿下なのに、一体何が分からないのだろう?


「全部だ。『アイドル』の定義とやらが、まず意味不明だ。それに歌とダンス? どういうことだ?」

「歌って踊れるアイドルですよ?」


「?? 俺が歌って踊るのか? 歌は劇場で聴けばいいだろう。シューが歌うなら、まあ別だろうが・・・。それに、踊る? 俺の立場だと、舞踏会では少しは踊らざるを得ないが・・・、ああ、そうか。舞踏会に顔を出すと、令嬢たちがまとわりついてくるな? そういうことか? それなら、却下だ。」


「!!!?」

 俺は、愕然として頭を抱えた。


 ――うっかりだ。

 そういえば、そうだ。

 歌とダンスの種類が、違う。


 ヒーロクリフの世界では、歌と言えば劇場のオペラか、サロンの演奏会。

 ダンスと言えば、舞踏会の、社交ダンスか――!!

 前世日本のグループアイドルのパフォーマンスとは―――、それは、違う。


 見たことがないものを、理解しろというのは、無謀か・・・?

 うお~~い。一体、どうすればいい。

 俺が見せればいいのか?


「俺が言うアイドルのパフォーマンスとは、もっと自由で楽しいものです! 

・・・・・。

 仕方ありませんね。それでは、不肖、ヒーロクリフ、一芸、披露させていただきます!!」


 俺はそう宣言して、『アルテミア』のデビュー曲、リズム感強めの『アウトブレイク』を、振付をつけて歌った。


 転生した身体でも、一度覚えた動きはちゃんと出来るんだな。


 俺は、サビのメロディー、あの大ヒットを生んだ一節にさしかかる頃には、ノリノリで腕を回し、目の前の観客であるソウルに、挑むように手を伸伸ばす。


「♪ さぁ、戦いの火蓋を切ろうぜ。俺たちの時代が、今始まる~♪

(DanDan)」


 そして間奏に入るところまで歌うと、俺は、ふぅと息を整え、額の汗を拭った。


「いかがでしょう? ソウ様。これが、アイドルの歌とダンスです。

 ――――あ、あれっ?」


 ソウルは、腕と脚を組み、冷ややかな表情をしていた。

 その右後ろに控える片眼鏡イケメンは、菩薩のように目を細め静かに俺を見下ろしている。

 窓辺の上品紳士は、持っていた本から視線を上げ面白いものを見たみたいな顔をしているものの、後ろを振り向くと、ユーディの背後に隠れたシューの眉間には、顔に似合わない深い皺が入っていた。

 まるで、うっかり(ゴキ)を見つけてしまった時のようだ。


 ああっ、せめて失笑でもいいから、何かリアクションが欲しい・・。

 ボケさえ許されない空気じゃんか。


 空気か・・・。ああ、確かに俺は空気を読まなかった。

 空気の読めない俺なんて何の役にも立たないって、『ヒーロクリフ』が焦ってる。

 そんなこと、言うなよぉ。俺って、そんなじゃねぇだろ?

 まだ、ちょぴっとばかり、早かっただけだってば。


「・・・・まあ、いい。ご()()だったな。」

 二人の俺がせめぎ合って黙ってしまったのを、俺がひどく凹んでると思ってか、ソウルはそう言って、こほんと空気払いをした。


 あああ~~!

 身内に対しては、ほんとソウ様はやっさしいんだよな~~。

 『ヒーロクリフ』がきらきらと目を輝かしている。

 だけどなぁ・・・。


「だが、やはり、却下だ。ただでさえ、まとわりつく者たちが煩わしいのに、好んでそんなことをする意味が分からない。それに、目立つことは危険だ。」


 これだもんな。

 女性嫌いというか、他人を信用しないというか・・・。

 ヒーロクリフに対しても、最初は、これでもかってくらいに冷たかったもんなぁ。だけどさ・・・。


「俺は、こう思うんです。俺たちが、頑張れば――、その姿を、人は、女の子たちは、認めてくれます。俺たちのことを、理解して、応援してくれます。そうして、俺たちの存在を喜んでくれる女の子の笑顔は、今度は、俺たちの力になるんです。それに、好きなことで満たされた女の子たちの作る世界は、とても優しくて・・・。」


 アイドル『陽』の力説を、ソウルはじっと見つめていた。

 けれど、静かに目を伏せる。


「・・・お前が、そんなにフェミニストだとは、知らなかったな。俺には、とても、そんな綺麗ごとは、考えられないが、・・・そうだな。そんなに女性が好きだと言うなら、『アイ活』とやらは、お前の好きにしてみるといい。だが、くれぐれも、俺に矛先が向かないようにしてくれ。ハル、あとは頼む。」


 ええっ、それじゃあ、何も変わんないじゃん。


 思わず反論しようとする俺を、さっきまで横で傍観していた、紫髪にダークレッドの瞳をした片眼鏡イケメン。「えっ、私が?」と小声で口走った後、しぶしぶ「かしこまりました。」と、俺の上着を引きずって部屋の出口へと向かった。


 そんな彼、ハルことハロルド・イゼンブルも、また、高位貴族の子息である。

 現宰相であるイゼンブル侯爵の第二子で、国きっての切れ者と、評判が高い。

 記憶によると、優秀な兄弟は、兄は皇太子殿下の側近、ハロルドは皇后のもう一人の子である第四皇子の側近に内定していたが、本人の希望でソウル殿下の側近となった。

 そこに、どんな思惑や派閥調整があったのか、さすがのヒーロクリフにも調べがつかなかったようだが、今ではもはや、ソウル陣営で欠かせない人物だ。


 ハロルドは、出口付近の壁際に俺を直立不動にさせると、両腕を組んで俺を見据えた。

 そして、一語一語、区切るように言う。


「お前の、熱意だけは、認められたようだ。が、抽象的が、すぎる。いつものお前なら、そうではないだろう。何か考えがあるのなら、少しでも実績を上げてからだ。まずは企画書でも作成して、私に提出しろ。何よりも、今日の、お前は、不敬がすぎる。改めろ。話は、それからだ。」


 ハロルドが、ユーディに目配せをすると、ユーディはドアを開けて、軽々と俺を押し出した。


「はっ、かしこまりましたっ! 企画書ですね? 必ず、必ず、持ってきますからねっ!! 絶対ですよ!」

 閉まっていくドアに向かって叫びたてる。


 そして、ドアが閉まったところで、はたと思考が止まった。


 ところで、企画書? なんだ、それ?

 そんなの、作成どころか、見たこともねぇぞ。

 困った・・・。

 俺はそんな、がっつり書類仕事、したことねぇ。

続けて読んでいただき、ありがとうございます

次話も、どうぞ


【あとがき小話】

『ひいろ』の所属した『アルテミア』は、月の女神『アルテミス』を、心持ち男性っぽい響きにしようと思って、ス→ア にしました

でも『アルテミア』で調べてみたら、なんか、変な生物でした(あるある)

飼育セットもあるんだって

へぇー

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