27.ユーディ・ランカストの純情⑤〜俺のこの気持ちは
こんばんは!
パリオリ、見てますか!?
逢七の推しは、柔道です(もう終わるけど。。)
特に、男子81kg級の永瀬選手がとてもかっこよかったです
試合を始める前と終わった後の、凜とした様子がたまらないです
みなさんの推しは何ですか?
ルシアナ殿下一行が宮殿奥へと消えるのを見送って、俺は、ユーディの前へと歩み出た。
そのまま立ち去ることはできなかった。今の出来事がどうしても気になってしまったから。
「今の方、第一皇女のルシアナ殿下だろ? 知り合いなんだ? ユーディ。」
「・・・・あぁ。」
宮殿の奥を振り返りながら言う俺に、まだ心ここにあらずといった様子で立ち上がると、膝を払いながら、ユーディが言う。
ユーディは、ルシアナ殿下と一体どんな関係なんだろう?
もしかして殿下のことが好きなのかな。
ユーディの険の取れた少年のような横顔を見て、そう思う。
・・・だけど、そしたら、ユメちゃんは、どうなるんだろう?
俺が口を出せることじゃないけど、さ・・・。
ついと木陰に視線を移すと、嬉しそうに微笑む結愛と目が合った。
「ヒイロさま!」
たたっと駆け寄ってくる結愛に、俺はもう条件反射のように、自然に頬が緩んでしまう。
「ヒイロさまもお仕事ですか?」
「う、まあ・・、そんな感じかな。えっと、ユメちゃんは、ユーディと、大事な話?」
無邪気に尋ねてくる結愛に、つい言葉が詰まった。
「えっ!? ええと・・・、まあ、そうですね・・・。」
すると、今度は結愛も視線を泳がせて、にこにこした笑顔が、急に居心地の悪そうな作り笑顔になる。
なんでだ!? ・・・なんで、否定しないんだ。
「あの、ユメちゃ・・・。」
「カトレット嬢。」
そこへ、ユーディの言葉が重なった。
「すまないが、話はもういいか? 俺はもう戻る。」
ユーディが割って入ってくれて、助かったかもしれない。
口に出そうになった不安をなんとか留めていると、
「あ、はい、ユーディさま、ありがとうございました! さっきのこと、どうか、どうかよろしくお願いします。」
一方の結愛も、ほっとした様子で、にこりと笑うと、大きく頭を下げた。
そんな結愛に、ユーディも律義に深い礼をして、背を向ける。
隣にいる結愛が、去って行くユーディの大きな背中を幸せそうに見つめていた。
ああっ! 俺、何やってんだ。
これじゃあ、俺、ただの邪魔者じゃん!
ここに来てしまったことが悔やまれて、ぎゅっと固く目を閉じた。
やがて、隣にいた結愛の動く気配がして――――、ゆっくりと瞼を上げると、数歩先で、彼女が振り返って、にこりと笑っている。
「ヒイロさま、こちらです。」
結愛はそう言って庭園の奥へと俺を誘う。
俺は結愛の後ろをとぼとぼと数歩遅れてついていく。
日本とは違う、からりとした空気のフェルメント帝国の夏は、屋外でも過ごしやすい。
色濃く茂る樹木の下に設けられたいくつかの東屋には、この日も、強い日差しを避けた令嬢たちが集まり、おしゃべりに興じている。
そんな令嬢たちの横を通り過ぎると、彼女たちは、扇を広げて、ひそひそと噂話を始めた。
その中には、今では俺の話し相手となった令嬢もいて、扇の奥から興味深げな瞳を俺に向けては、ひらひらと扇を揺らしては、すっと前に送る動作を・・・・。
・・んだよ、もう! がんばれ、応援してるって!?
俺は、後ろ手に「分かってる」のサインを出しながら、少し距離が空いてしまった結愛を追いかけた。
そんな俺らの向かう先、庭園の奥のスペースは、人も疎らだ。
――――そういえば、ここって、最初にユメちゃんと出逢ったところじゃないか。
青い空に向かって小さな弧を描く噴水を望むベンチに、俺らは、出逢った日のように二人横に並んだ。
そうすると、自然とあの日のことを思い出す。
あの日、ここで落ち込んでいた俺に声をかけてくれた彼女は、俺にとっては救世主だった。
だけど、アイドルとファンていう前世の意識が強くって、最初はありえないくらいの距離感だったなぁ。
それでも、一緒に「アイドル活動をプロデュースしよう!」って意気投合したんだっけ。
うん。
あれから一緒にアイドル活動の話をしたり、事件に立ち向かったり、彼女の実家に行ったりして、俺とユメちゃんだって、めちゃくちゃ距離は近くなってる・・・と、思う。よし。
俺は膝上の拳をぐっと握り込んで、結愛の方へ身体を向けた。
「なあ、ユメちゃん、ユーディに何を頼んでたんだ? 俺にできることは何かあるか? 手伝うよ。」
今の俺にはこれがせいいっぱい。
ほんとは俺を一番に頼って欲しいけど、そんな権利はないから。
だけど、結愛はきょとんとした顔をして、それから首を大きく横に振った。
「そんなことを言ってもらえるなんて、とっても、嬉しい! でも、大丈夫です! ユーディさまにOKをもらえましたし、ヒイロさまは、楽しみに待っててくださいっ!!」
「えっ・・・、なんでだよ?」
嬉しそうに白い頬を上気させながらも俺のことを即拒否する結愛に、またそんな言葉が口をついて出た。
俺のあまりの即答に、結愛は大きな黒糖色の目を更に丸くしている。
しまった! 俺・・・!!
咄嗟に、右手で口を塞いだ。
ファンの子に、こんなこと・・・。
いや、ファンなのか? 違う、仲間か!?
開け広げに何でも言ってたユメちゃんが、急に他人行儀なことを言うから、か?
俺は、ひどく困惑していたのかもしれない。
「ヒイロさま?」
「へっ!? いや、近っ!! ・・・・あ、ごめんっ!!!」
結愛が黙ってしまった俺を心配して、覗き込むようにすっと顔を寄せてくるのにびっくりして、つい、両腕で彼女を押しのけてしまった。
すると、思った以上に力が籠ったのか、小柄な彼女はふらっと後ろに倒れ――、
慌てて支えようと伸ばした俺の腕とベンチの間に、結愛がいる!?
心臓が、ばくんと鼓動した。
えっ、どうして、なんだ、これ!? なんで、こんなことになってる!!
俺は、頭の中が、ますますパニックになって、身体が固くなる。
半分横倒れみたいになってる結愛の顔は、彼女の髪に覆われてよく見えない
・・・ってか、よく見たら、ダメだ!!!
なのに、視線はますます、結愛の姿に吸い寄せられて、固まっていく。
「・・・ぷっ。」
その時、腕の間の結愛からそんな声が聞こえた。
―――へっ・・・笑って・・・?
「あ、あは。やだ、ヒイロさま! サービスですか? ――これって、特大ファンサービスですかっ!?」
「えっ・・・・。」
くるりと仰向けになって、うっとりと微笑む結愛と目が合う。
「はあ・・・まるで、スチール写真みたいですね。」
その言葉に力が抜けて、は~と息を漏らして身体を起こすと、結愛も、よいしょと口にして、自ら起き上がる。
「君は・・・。」
「ん? なんですか?」
「――君にとっては、俺は、やっぱりアイドルなのか・・?」
まだうっとりした表情のまま、胸元に手を当てて、「推しの腕ドン・・・♥」と、ぶつぶつ言っていた結愛に、俺がぽつりと漏らすと、彼女は力強く頷いた。
「ええ! もっちろん! あたりまえじゃないですか!? ヒイロさまは、ずっと、『私の最推し♥』です!!!」
アイドル時代に女の子からそんなことを言われたら、きっと俺は純粋に喜んだだろう。
そして、「ありがとう!!嬉しいよ!○○ちゃん!」とか、「俺も愛してるよ!」とか、「これからも応援ヨロシク!」とか、めっちゃいい笑顔で返事をしてたと思う。
だけど、結愛からそう言われると、嬉しいよりも先に、寂しさを感じてしまうのは・・・、俺はいったい、彼女に何を求めてるんだ・・・。
俺、ほんとうに、やばいかもしれない。
ユメちゃんのために何かしようとか、それだけならまだいいけど、俺が一番ユメちゃんと近いはずなのにとか、そんな気持ちを持ってしまっていることにとまどって、俺はもう一度、自分の口元を右手で覆った。
―――そんな日があってしばらく後、俺たちは、ファッションショーの日を迎えようとしていた。
読んでいただき、ありがとうございます!
ヒイロの純情も、なかなか、いいでしょう!?
――――さあ、ユーディの回も、ここから終盤へと向かいます
オリンピックに気を取られて、進みが遅くなりがちですmm