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23.ユーディ・ランカストの純情①~俺はモデル

ご無沙汰しました

ソウル皇子の護衛騎士 ユーディ・ランカストの回をスタートします


 俺、ヒーロクリフ・タシエは、驚くほどグラマラスで、美しい三人の女性に取り囲まれている。


「おお! とてもいいぞ! 最初はこれだな!」

 そう言ってうっとりとした表情で、俺の胸元に手をかけるのは、パウリー・ランカスト、ソウル第二皇子の護衛であるユーディ・ランカストの姉だ。

 ユーディと似たチェリーレッドの毛先が、ほんのり染まった小麦色の頬にかかり、垂れ目がちな焦茶色の瞳が潤んでいる。

 そして、貴族令嬢にしては珍しいパンツスタイルが、彼女の豊かな体型をより一層際立たせていた。


「いいえ、姉さま! 絶対、こっちよ!」

 そう言って俺の右腕をぐいと引くのは、こちらもユーディの姉であるティリー。

 若葉色の瞳に薄茶色の癖毛が、柔らかい印象の一方で、少し吊り上がった丸い猫目と日に焼けた肌のそばかすが、彼女の活発さを表しているようだ。

 引かれた腕が、白いフリルのブラウスの中にある豊かな胸に挟まれて、俺は不覚にも、どきんと心臓が跳ね上がる。


「何を言ってる、お前たち? ちっとも分かってないな。 こいつに似合うのは、これだろ?」

 そう言って、少し胸元のはだけてしまった俺を、強い腕でバックハグ――いや、羽交い絞めにするのは、ユリアン・ランカスト、ユーディの長姉だ。

 流れるように真っ直ぐな長い黒髪を一つに束ね、ユーディと同じ切れ長の翠の瞳に、艶めいた唇。

 ふあぁ~、ゼロ距離からとてもいい匂いがするぞ。

 身体にぴたりと沿うジャケットを着た彼女の、背に当たるボリューム感に俺は身を固くした。


「わ、分かりましたからっ!! じゅ、順番にお願いしますっ!!」

俺は身をよじって、なんとか声を張り上げた。





 さて、俺は今、ユーディと結愛と一緒に、ランカスト侯爵邸に来ている。


 前回の『アイ活会議』で、ソウル皇子陣営の頭脳であるハロルドに、『衣装作りの適役』と言われたのが、ユーディの姉たちだった。

 彼女たちは、ユーディと同じく騎士をしながら、騎士向けの服を作る店の経営もしているというのだ。


 そうして初めて会った彼女たちは、ハリウッドのアクション女優並みの美女だった。

 それだけではなくて、彼女たちは最初からフレンドリーで聞き上手で、だから、アイドルのこと、パフォーマンスのこと、新年の宴でのステージのこと、そのための衣装のことを、彼女たちの「うん、それで?」という相づちに合わせて、次々に説明していった。


 そんな俺の横では、同席した小柄な結愛が終始にこにことしていて、反対隣では、ユーディが大きな肩身を小さくして座っていた。


「君たちの言いたいことは、よ~~く分かった!! 少し、待っていろ!」

 俺がひととおり話し終えた後、よく響くユリアンの声を合図に、侯爵家のメイドたちによって運び込まれたのは大量の衣装。

 男性もの、女性もの、色取り取りに、小物類もずらりと並べられた。


「す、すげぇ・・・!! 俺、ライブの衣装でも、こんなにたくさん並ぶの、見たことねぇよ!」

「はあぁぁぁ、どれもこれも、なんて素敵なお洋服!!」

 と、並んだ服を次々と手に取る俺と結愛を見て、ユリアンは豪快に笑い、

「なあ、いいだろう!? 試しに着てみるか? 私たちが、手伝ってやろう!」

 そうして、俺たち三人は、飛んで火に入る夏の虫のごとく、あっという間に取り囲まれてしまったのだった。


 途中、ユーディが

「ちょっと、待ってくれ、姉さんっ!?」

と騒いでいた声も、

「「「ユーちゃんは、黙ってなさい!!」」」

と一喝され、あのいつも無表情だったユーディが、赤くなったり青くなったり、可哀そうなほどだったが・・・。


 ――って言っても、俺だって、助けてあげられる状態じゃないから。

 ごめん、ユーディ!





 そして何着目の着替えだろうか、胸元の空いた生成りのシャツに、ゆったりとしたワークパンツという、この世界においてはかなりラフともいえる服を着て衝立から出ると、ユリアンが感嘆したように声を発した。


「ああ、君は何だって、よく着こなすんだな。」


 その言葉が思いのほか嬉しくて、俺は頬が緩む。


 そうだな、俺はこういうのには、慣れてる。

 王子様みたいな正装も、セクシー系の騎士服も、可愛い系の普段着も、派手なのだって地味なのだって、俺には着こなせる自信があるんだ。


 だって俺は、前世でも『見せる仕事』をしていたから。

 ライブの準備や、アルバムの収録、雑誌の撮影などで、用意された衣装を着て、どうやったらもっと自分がよく映えるか、って常に考えていた。

 『魅せること』は、俺のライフワークみたいなものだったから。


 「ありがとうございます! とても嬉しいです!!」


 そう礼を言うと、衣装の着崩し具合や俺が選んだ装飾品類を、「なるほど、いいな。」と傍で観察していたユリアンは、ふっと笑った。


「私たちもユーディも、身体が大きいだろう? だから、似合う服も限られてな。こうやって、色々試せるのは、私たちも嬉しいんだ。それでも、少し前までは、ユーディもつきあってくれていたんだが、最近は避けられていてね。」


 ユリアンはそう言って、部屋の隅に立つユーディを横目で見ながら、俺の肩にぐるりと腕を回す。

 なんだろう?と背の高い彼女を見上げて目が合えば、彼女はすっと頬を寄せ、俺の耳に口元を近づけた。


「――あいつ。ユーディなんだけど、なんとかならないだろうか? 私たちにも原因はあるんだけど、特に女性の前では委縮してしまってさ。」


 見れば、ユーディは、二人の姉に着せられた服に、窮屈そうに眉をしかめている。

 結愛が笑顔で何か話しかけても、眉間に大きな皺を刻んで、すっと横を向いてしまった。


 あれは萎縮とは、ちょっと違う気もするけど。


「う~~ん・・・。何か溜め込んじゃってる感じ、でしょうか?」

「そうなんだよ!! 分かるか!? なんで、あんなに頑なになってしまったんだろうな。ほんのちょっと前までは、すごく可愛くて、ほんと素直ないい子だったんだぞ!?」


 ぐっと両肩を掴まれてきらきらした目で同意を求められても、どうしよう。正直、返答に困る。


 だって、ユーディだろ? いつも無口で険しい顔をしてるし。

 可愛いったって、俺にはよく分かんねぇ!!

 ってゆうか、ユリアンさんて、ブラコンなのかな?

 いやいや、そうじゃなくても、こんなに思ってもらえてるのに、お姉さんにあんな態度じゃ駄目じゃん、ユーディ。


 ぶつぶつ呟いて、う~~んと再度うなったその時、俺の肩に乗るユリアンの腕にぶら下がるように、小さな手がかかった。

「ユリアンさま? ヒイロさまはみんなのヒイロさまです! 私も混ぜてくださいっ!! あっ、ヒイロさま、そのお洋服もとってもイケてますね! さすが、私の神っ!! さあ、次は、これを着てください!」


 それは、白シャツに短パンにサスペンダーと、少年のような姿をした結愛で、黄金色のきらきらしい衣装を抱えて潤んだ瞳で俺たちを見上げていた。

 そのすぐ後ろには、パウリーとティリーがいて、にまにまと笑っている。


 相変わらずの結愛らしい発言ではあるけれど、でも、これは・・・。


「「ぐっ・・・・(かわ)!!」」


 俺は、勢いのままにその派手な黄金衣装を受け取って。

 そしてユリアンは、結愛の前ですっと膝を折る。


 片膝をついて縋りつくように結愛を見上げるユリアンは、まるで、淑女に誓いを立てる騎士のようだ。


「君たちの動きやすくて見栄えのする服!!――――ぜひ私たちに作らせてくれ。そして、その服を着て、お披露目会をしよう!!」


 ユリアンが感極まった声で請い願い、それに、結愛とパウリー、ティリーがあっという間に意気投合して、急遽、ファッションショーの開催が決まったのだった。

読んでいただき、ありがとうございます!

ユーディの回では、女子多めの登場予定です

その分、恋愛展開も加速するかな?

7話分、ぜひお楽しみください

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