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14.第1回アイ活企画会議(指輪/可動式小型動力)

「いや~、久々に笑った~~。ところで、その後、どうなったの?」


 俺らの話を聞いてひとしきり大笑いした後、イスが興味津々といった様子で、俺とシューに聞いた。


 イスこと、イス・ド・メルゼィは、皇弟でもあるメルゼィ公爵の一人息子で、ソウルによく似た顔立ちの青年である。

 俺がヒーロクリフに転生したって気づいたあの日、『王子様落ちの上品紳士』だと思った、ソウル陣営のもう一人のイケメンだ。(2話参照)


 イスは、害も癖もなさそうなクリーンな見た目に反して、面白いものと変わったものが大の好物らしい。


「いや~、僕の人生って、暇そのものでねぇ。」


 高貴な血筋に穏やかな美貌、使い切れないほどの財産だってあるに違いない公爵家の跡取り。

 一言で言っても、『恵まれている』はずなのに、イスは、いつもどこか退廃的な物言いをする。


「毒にも薬にもならない高貴な血筋って、意外に何にもできないものなんだよ?」


 毒でも薬でも、好きなものになればいいじゃないか。

 と、俺は思うのだけど、弱小伯爵家の俺には分からない高位貴族特有のしがらみでも、あるのかもしれない。




 少し前に俺が煎れた紅茶を不味(まず)そうに(すす)るシューをちらりと見て、俺は声のトーンを落とした。


「それがさ、捕まる覚悟もしてたんだけど、皆、寝室から出た俺らを、遠まきに見てるだけでさ。屋敷を出ようとしたら、ダイナー侯爵が慌てて出てきたんだよ。」


 あの後、颯爽と廊下を歩くシューを先頭に、俺はちょっとびくびくしながら、その後ろについていった。


 誰かに止められることもなく、玄関ホールまで辿り着いたシューが「帰るから開けて」と言うと、屋敷のフットマンは、戸惑った様子でドアに手をかけた。

 その時、背後の階段上から声が聞こえたんだ。

「シュー!! 行かないでくれ!! 頼む!!」


 振り向くと、涙と鼻水をだらだらと流したダイナー侯爵が、転がるように駆け寄って、シューの黒い上着にしがみついた。


「私が悪かった! もう、こんなことしないから! 私を許してくれ! 契約とか言わずに、君のために、ちゃんと舞台も用意しておくから・・・。お願いだ!!」


「・・・何を、いまさら。」

 冷ややかな視線で見下ろすシューを見て、ダイナー侯爵は、ぽっと顔を赤らめた。


「ああ! シュー。君がいつも、震える声で、はい、と言ってくれたから、――――愛してる君にそう言われて・・・そう、つい、欲張ってしまったんだ。あんな怪しげな指輪になんて、手を出さなきゃよかった!」





「指輪?」

 イスが、怪訝な表情で問う。


「うん。次の日に、ハルたちが事情聴取に行ったんだけど、何でも『同意の指輪』ってのを使って、気に入った子に「同意」をさせて、言うことをきかせていたらしいよ。あの夜、(大豆弾があたって)壊れちゃったみたいだけど。」


 チラリとシューを見ると、シューは紅茶が渋かったのか、ぺろりと舌を出していた。

 そして、俺らの視線に気づくと、渋い表情のままにぷいっと横を向く。


「最初はそうでもなかったんだけど、あの人に名前を呼ばれると、身体が冷たくなるんだ。言うことを聞かなきゃいけない気分になって、同意してたのは、ほんと。俺は、『そう』なっちゃうのは、自分のせい、って思って・・・。」


「そんなことない! 同意したら何してもいい、だなんて、そんなの絶対にダメだ!」

 俺が大声でシューを遮ると、シューがふるりと笑うから、俺は心がぎゅんとする。


 ああ、ほんと、可愛いんだから、シューは。

 勘違いする貴族らの気持ちもちょっとだけ分かるんだよな。


と、天使のシューには聞かせられない内心の俺の横から、イスが、身を乗り出した。


「へぇ、言うこと聞かせる道具とか・・・、面白いものがあるんだねえ?」

「ですよねぇ、俺もそう思います。まさかの魔法道具とか?――ファンタジーすぎ!!」


 俺があははと笑ったところで、結愛がタイミング良く、分厚い書類の束を抱えて部屋に入ってきて、話に割り込んだ。


「な~~に、言ってるんですか? ヒイロさま。」

「だよなぁ。いくら異世界転生したんだって、魔法なんて、あるわけないって・・」

「いえ、あります。魔法なら、っていうか正確には魔術ですけど、普通に。」

「・・・は?」


 結愛は、ソファの間にある少し大きめのティーテーブルの端に、持って来た書類の束を置いて、部屋の隅――山になりつつある『結愛の発明品置場』から、『ピアノキーボード擬き』を持って来た。

 そして、裏返して隅角をパカッと開けると、見慣れた小さな円柱を取り出す。


「これ、分かりますか?」

「ああ。乾電池だろ?」


 結愛はにこっと笑うと、ぽんと手を打った。


「はい。そのとおり。そもそもですね、乾電池とは、前世地球ではマンガン乾電池のことを言います。その仕組みは、酸化還元反応によって放出されるエネルギーを、電流による電気エネルギーとして取り出すことであり、乾電池の場合の化学構造式は、(-)Zn|ZnCl2aq,NH4Claq|MnO2・C(+)で表され・・・

<以下中略>

・・・で、化学反応式の代わりに、物質中の魔素を雷電系の力に変える魔術式を組み込んだ装置がこれ! 可動式小型動力の最新作なんです!!」



 ここまで、およそ50分。

 授業約1時限分。

 ユメちゃん先生――。


「この世の原理が『魔素と魔術式』って知った時、もう私、前世以上に、心が打ち震えて、それで色々・・・」

「ユメちゃん! もう、大丈夫。よ~く、分かった!」


 俺が手の平を向けて遮ると、結愛は、物足りなげに口を開けたけど、ほんとごめん。

 シューたちだって、呆然としてるからね。


「ほんとですか? まだまだ、ぜんぜんこれからなのに!」

 そう言いつつも、拒否る俺に、結愛は渋々、テンションを下げる。

「じゃあ、最後にもうひとつだけ・・・。私は馴染みがあって使いやすい雷電系が主流ですけど、もちろん魔術式によっては、空気中の魔素を炎系や氷系の力に変えることだって可能です。そして、『同意の指輪』にも――、ある魔術式が使われていたんです。」


 声のトーンを落とす結愛に、俺らは身を寄せ、そして、至極真面目な口調でイスが問う。

「それは――、どんな魔術式?」


「それが・・・、あの日拾った指輪の残骸を研究してて、魔術式の刻印を見つけたところで――! 初めて見る魔術式だったんですよ!? それなのに、ハルさまに資料ごと、回収されてしまって・・・!! 残念の極み――!!!!!」


 両手を合わせて高々と突き上げて嘆く結愛に、息を詰めていた俺らは、ふうぅ~~と一斉に息を吐いた。


 あの瞬間に指輪を拾って研究まで? 何をやってるんだ、この子は?


 俺とイスとシューは、三者三葉、複雑な表情で、悔しがっている結愛を見た。


「・・・まあ、でも、それで、良かったんじゃないか? なんとなくだけど。俺たちが、知らない方がいいことだって、きっとあるよ。」

 俺がなぐさめると、結愛はぐすんと鼻をすすり、「きっと、そうですね。」と顔を上げる。


「えっと・・・。じゃあ、魔術談義はこのくらいにして、改めて、アイドル活動の第1回企画会議を行いましょう。」


 そうして結愛が、さっきテーブルの端に置いた分厚い資料に手を伸ばした、ところで・・・。


「えええ――!!? 僕、もう、今日は疲れちゃったよ。」

 イスが、さっきまで身を乗り出していた上半身をソファに投げ出し、反対の悲鳴をあげた。

「俺も!」

 シューもそれに便乗する。

「そうだな。また、今度にしようぜ?」

 俺も釣られて言うと、結愛は不機嫌そうに頬を膨らませた。

「もう! こんなんじゃあ、永遠に企画が進まないです!!」


 色白の肌が、張りのあるピンクに変わる。

 その色づいた頬につい魅入ってしまった俺だが、女の子の不機嫌さは早めに解消するに限る。


「まあまあ、ユメちゃん、あとで、ちゃんと俺が話を聞くからさ。こうやって、シューもイス様も加わってくれたんだし、今日のところは、もう少しゆっくりしようぜ。」

 俺が片目を瞑ると、結愛は、頬を一段階染め上げた。


「うう・・・、ほんとですね? 分かりました。でも、代わりに、ヒイロさまにお願いがあるんです!」

「ん? 何?」


 結愛は、手元に持ったままのピアノキーボードの一角を指さして、もじもじしながら言った。

「ここに向かって、何か一言、お願いしますぅ。たとえば、ですが、『かわいいね』とか『アイしてるよ』とか・・・どうですか?」


「え?」


 嫌な予感はする・・・


 だけど、今日の結愛には、色々と我慢してもらったから――、きらきらの上目使いに負けて、俺は結愛のオーダーどおり、キーボードに向かって――、囁いた。


 それが終わると、顔を真っ赤にした結愛は、素早く機械の上のネジを回して、鍵盤を押していく。


 すると、『かわいい』『愛してる』『かわいい』・・・。

 俺の声が、音階になって部屋に鳴り響いた。


「ひぃ。」

 なんだ、この羞恥プレイ。


 よく晴れた暖かな昼下がり、皇宮の第二皇子ソウルの執務室横控室――

 今や俺たちの溜まり場となったそこでは――――


 ぐったりと頭を抱える俺の横で、シューとイスは「またか、懲りないな」と苦笑いをし、そして、「やった!! ヒイロさまの生ボイスを超ゲットですっ!!」と喜ぶ結愛が、ソファの周りで右腕を突き上げていた。

今回も読んでいただき、ありがとうございます

次回から新話を展開します


ちなみに、シューは、かろうじて未遂です

ほっ

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