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義弟ができた

「今日からこの子を養子に迎えることとなった。リンという。ユミリア、君からも挨拶を」


  お父様がそう言って見せてきたのは、栗毛で可愛い男の子。

 いつかくるとは思っていたけれど、今日だったとは……

 少年の名はリン。今日からリン・シスカとなった。

 いわずもがな、攻略対象だ。


 いわゆる病みキャラである。

 シスカ家の分家で育ってきた彼だったが、両親は兄弟のことばかりを可愛がり彼のことを見ようとしていなかった。

 その結果、兄弟が彼に嫌がらせをするようになった。

 ある日、嫌がらせを受けていた時に魔力の暴走が起きて兄弟は傷つけられる。

 両親はそのことに激怒し、彼のことを家から追い出した。


 そこをシスカ公爵。つまり、お父様が引き取ったということだ。

 制御できなかった苦痛は自分自身が一番感じているはずなのに、追い出されるだなんて……

 シナリオを読んだときは、製作者の鬼!と思ったかな。


「そういうことだから仲良くするようにね」


 はっ、話を聞いてなかった。

 ついリンのシナリオを思い出してしまっていたから。

 お父様はすることがあるからと、応接間から出ていった。


 この場には、不安そうに目をキョロキョロさせている、リンと私だけ。

 この子の不安はどうしたら解けるのだろうか。

 

 とりあえず自己紹介か。


「初めまして、ユミリア・シスカですわ」

「ぼ、僕はリンです。よ、よろしくお願いします」


 彼は震えながらお辞儀をした。


 前の家で怖いことにあっていたのだろう。

 こんな小さくて可愛い子が、どんな目に遭っていたのか。

 それはゲームでの知識しかないから詳しくは分からない。


 けれど、この子を守りたい。そう思った。

 『私』にも弟がいたから。小さくて可愛い弟が。

 『私』と二人で必死に生きてきた、そんな弟が。

 重ねるのは悪い気もしてしまうけれどね。


「ねぇ、リン。少しだけ私についてきてくれるかしら?」

「は、はい」


 リンは小さく頷いた。

 私はそのまま植物園に向かった。

 植物園というのは、私がイサと一緒に埋めた植物。主にパンジーなどが埋まっている。

 まだ芽ほどしか出てないけど、見せたかったんだ。

 それにイサが育てていたのは色とりどりで綺麗に咲いているからね。


「リンは植物は好き?」

「植物、ですか…穏やかな気持ちになれるので、好きです」


 彼は、ふわっと笑った。

 やっと笑ってくれた!と私は嬉しくなった。

 それに穏やかな気持ちになれるというのは私と同じだ。


「そう、じゃあ連れてきてよかったわ。それと、敬語はいらないわ。怒ったりしないから」

「わかりました。ユミリア様」

「様ではなく、義姉(ねえ)さんと呼びなさい。」

「わかった、義姉(ねえ)さん」


 また姉呼びをされる日がくるだなんて…

 弟が増えたみたいだ。『私』の弟はあの子だけだけれど。

 ユミリアの弟はこの子だものね。


「それでいいのよ。さぁ、この植物達はどう?綺麗でしょう?」

「うん、すごく綺麗。ここの植物は誰がお世話してるの?」

「イサっていう庭師よ。最近では、私も埋めたのよ。ほら、ここら辺は芽が出始めたばかりでしょう?」


 私は自分が苗を埋めた辺りを指差した。

 すると、リンは驚いた顔をして


義姉(ねえ)さんが⁈」


 と、言った。

 驚くのも無理はないか。

 令嬢が土いじりだなんて珍しいよね。


「そうよ。あっ、そうだ、リンって魔力がすごいのよね?私、見てみたいわ!室外だし水魔法も出せるわよね⁈」

「だ、出せるけど、制御できないから…」

「大丈夫よ!きっと!」


 私みたいな魔力の少ない人の魔法じゃなくて、ちゃんとした魔法が見てみたい。

 リンが出した水が多すぎて水圧で押し潰されそうだったと兄弟が言ってたみたいだけど実際そうかわからないし。

 そうなるとは限らない。


「わかった。やってみる…」


 リンは頷いて、魔法を使った。

  リンが使った魔法は、水が竜のように天へと昇っていきそうになっている。


「すごい!触ってみたいわ…」


 私はその水に近づいていく。

 そして手を伸ばして…


義姉(ねえ)さん!危ない!」


 私はリンの忠告を聞かずに、水の中に手を入れた。

 そしてそのあと「義姉(ねえ)さん!」と叫ぶ声が、何度も聞こえてきた。



 数時間後、私が目を覚ましたのはベッドの上だった。


「あれ、私…」

「ユミリア、目が覚めたか。どうやらリンの魔法に触れて、水圧に耐えれなくて眠ってしまったみたいでね。リンが泣きながら私に助けを求めにきたんだよ」


 お父様が言った。

 そうか、私が忠告を聞かなかったから。

 って、あれ?


「リンは、あの子はどうしたの?」

「ユミリアを傷つけてしまったことで、自分の魔力は人を傷つけてしまうから……と部屋から出てこないんだ」

「そんな!あの子のせいじゃないのに!私が忠告を聞かずに魔法に触れたから…」

「私もそう言ったのだが、ご飯も食べずに閉じこもっているんだ」


 リンがそんなに思い詰めてしまっただなんて。

 あの子はなにも悪くないのに。

 私が自分の好奇心で触ってしまっただけなのに。


 それに、ご飯も食べずに?

 そんなの絶対ダメだ!


「お父様、私リンのところに行ってきますわ!」

「えっ、ユミリア⁈」


 私は、屋敷の中を走った。

 あとで怒られることは承知している。

 今は、急ぎたいから仕方がない。


 待っててね、リン!

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