王子の心情
僕の名前は、ステファン・マウロ。
この国の第三王子だ。
最近兄達に、婚約者ができたため僕にも婚約者を、という声があがっている。
正直、僕は興味ない。それに飽きてもきた。
自分の娘に一度でいいからと会ってほしいと言ってくる人たちにはね。
いずれは婚約者も決めなければならない。
だが、まだ動物達と遊んでいた方が有意義な時間になる。
けれど、昨日、シスカ公爵に娘に会ってほしいと言われた。
僕は、気が乗らなかったが、今後の付き合いを考え、承諾した。
シスカ家のご令嬢といえば、あまりいい噂は聞かないものだ。
我儘な方だと他のご令嬢から聞いたことがある。まあ、あくまで噂だから気にしてはいないのだが。
実際会うのだから今そんなことを気にしていても仕方ない。
そして本日、シスカ公爵が娘を連れて城に来た。
令嬢……ユミリア様は僕を見るなり
「ぷっ、なんですの?そのダサい服は!王子なのだからもう少しマシな服を着たほうがよろしいのではなくって?」
と、言い放った。
その時点で、噂通りの方なのだと察した。
父親やお付きの人が困った顔をしているのにも関わらず、僕にそんな言葉を言えるのだから。
帰っていただきたい気持ちにもなった。
けれど、そんな気持ちを悟られないように僕はニッコリと笑った。
自分の顔の良さは自覚しているので、その武器は存分に使わなければ。
そして、最初の予定では庭を案内するはずだったが、僕が大切にしている動物小屋に案内した。
そこに来て、自分で世話をしていると説明するとユミリア様が
「自分で世話?こんな獣臭いのに⁈信じられませんわ⁈使用人に任せないんですの?それとも任せられないのかしら?」
と、ニヤッと笑い言った。
その表情に、バカにする気持ちが滲み出てる。
本人は隠そうとしたのかもしれないけど、隠すことなんてできてない。
むしろそれで隠せると思ったのが驚きだ。
すると、僕が世話している牛がユミリア様の顔を舐めた。
そしてユミリア様が倒れられた。
お付きの人が、慌てていたので救護室に連れて行っては?と提案をして連れて行ってもらうと、高熱を出されていた。
ユミリア様は強制送還されることとなった。
内心、心配する気持ちともう帰ってもらいたかったから良かったという気持ちがせめぎ合っていた。
自分の黒い部分が分かるようで少し気持ち悪かった。
数日後に、ユミリア様の体調が良くなったと聞き、お見舞いに行った。
怪我をさせた責任を取らなければならない。
額に怪我ができたとなれば、社交界でユミリア様が不利になってしまい婚約者ができない。
そうならないためには、僕が責任を取り婚約者とならなければ。
まぁ、僕にとっての防波堤ともなってもらえればいい。
そうしてユミリア様に会うと、随分雰囲気が変わっていた。
なんというか、明るくなった?
それに、怪我について謝ると、逆に城の方々に謝りたいと言われた。
怒鳴られることも覚悟していたのに、この変わりようはなんだ?
責任を取るので婚約者になってもらえないかと、申し込んだ時なんて、なにも聞いていない様子だったのに、「はい」とだけ言っていた。
少しだけ興味が湧いてきた。
あの我儘な感じだった令嬢になにが起こったのか?
正式に申し込みに行く時に、観察してみようか。
今日はシスカ公爵家に正式に婚約者になってもらえないかと言いに行く。
あの令嬢がどんな反応を見せてくれるのかが、少しだけ楽しみだ。
着いたのだが、今は魔力の訓練中で外にいるとのことだった。
彼女がする魔力の訓練というものが気になったので、見せてもらうため、案内してもらった。
すると、そこにいたのは、自分がこの間着ていたような作業服で土いじりをするユミリア様だった。
この間散々バカにしてきたはずなのに、どういうことだ?と思い、なにをしているのかという意味で「これは?」と聞いた。
彼女は考えた様子を見せた後
「水魔法を強化するには、水を沢山使うことが必要かと思いまして」
と答えた。
僕はその答えに思わず笑いそうになり、堪えるために肩をプルプルと震わせた。
そんな理由で土いじり、植物を育てようだなんて……
斬新すぎる。
僕は笑いを堪えながら、顔を上げ笑った。
ユミリア様はホッとしていた。僕が怒っているとでも思ったのか?
先日話した令嬢とは人が違うように、ころころと表情が変わるものだ。
僕が笑いそうになるだなんて久々の感覚だった。
この人なら、僕も退屈しなくてすむのかもしれない。
そう考えながら、僕はユミリア様に跪いて、手を差し出した。
「正式に僕の婚約者になってください」
と言うと、またなにも考えていないような感じで「はい」と言われた。
そんな様子が少し面白くて、手の甲にキスをした。
彼女は、驚いていた。
自分が言ったことさえ覚えてないだろうな。
ああ本当に面白い。
ユミリア・シスカ。僕が興味を抱いた数少ない人。
これから彼女をもっと知っていきたいと思った。
それが、僕のこの気持ちの始まりだったのかもしれないな——