心に空いた穴
僕の名前はシェルド・モールト。
学園では生徒会長をしている。
最も、生徒会長になればその立場を利用できると考えたからだが。
僕の心の乾きは潤わない。
なにをすれば潤うのかもわからない。
幼少期に、母を失った時から心にぽっかりと穴が空いたようなのだ。
僕には、闇の魔力がある。この世界では禁忌だと恐れられているものだ。
思い返せば、その時からか。
僕が僕ではなくなるような、そんな感覚に陥ることがあるのは。
その原因が闇の魔力であるのならば、僕は一生このままなのかもしれないな。
それとも、誰かがこれを治してくれるのだろうか。
僕の心に空いた穴を塞いでくれる人がいるのだろうか。
できるものなら、してみてほしいものだ。
そんなことを考えていたある日のことだった。
面白いと思う人物に出会ったのは。
僕と同じ歳で、生徒会のメンバーであるセシルがよく話す人。
その話を聞き、僕はその人にとても興味が出ていた。
だから、話しかけたのだ。
その人の名は、ユミリア・シスカ。公爵家の娘。
僕は、公爵家の娘なんて、高位であることを盾にして踏ん反り返っているだけだと思っていた。
だが、彼女は違った。
僕が紅茶を淹れると、ありがとうと言った。
正直そんなことを言われるとは思わなかったのだ。
淹れてもらうことが当然だと考えていると思っていたから。
そして、彼女は言った。
柔らかい風に包まれているようだと。
僕にそんなことを言ったのは二人目だった。
一人目は母だ。久しぶりに、母のことを思い出すことができた。
けれど、また暗い気持ちに包まれた。
僕は、一体どうしてしまったのだろうか。
母のことを思い出せたのは、喜ばしいことなはずなのに。
そのはずなのに、僕の心に渦巻くのは、黒い感情だ。
このまま、制御できなくなる前に誰か、誰か……
止めてくれ——
それからというもの、自分を動かすのは憎悪の感情だけだった。
ユミリア・シスカへの憎たらしい気持ちが止まらず、令嬢の心を操り彼女を陥れようとした。
それは未遂に終わったのだが。
僕の表情を見た彼女に気づかれた。僕が騒動を引き起こしたのだと。
マリカ・ローネに。
彼女は僕の元にまで来て、僕を言及してきた。
僕は闇の魔力を使い、彼女を丸め込もうとした。
けれど、彼女は光の魔力を持つ者。
闇の魔力とは対角にある。そんな彼女には、僕の魔力は効かなかった。
仕方がないので、魔力は使わず、力で眠ってもらうことにしたのだ。
そうした時には、もう僕は僕じゃなくなっていた。
数日経った時、マリカがいなくなり心配しているユミリアを見つけた。
僕はそんな彼女に声をかけた。バレないだろうと慢心していたからだ。
彼女は、僕が思っていたよりずっと鋭かった。
僕のわずかな表情の歪みを、彼女は見逃さなかったのだ。
彼女には闇の魔力が効いた。
だから、眠ってもらった。
限界まで目は覚めない。
そう、そのはずだった。
それなのに、なぜ……
二、三日しか経っていないはずなのに、起きているのか。
そしてなぜ僕の前に立っているのか。
理解が追いつかなかった。
僕ならば、自分を殺そうとした相手に会いたいとは思わないから。
彼女の行動は、僕には理解不能であった。
だから、なぜ来たのかと聞いた。
すると、彼女は、僕から殺気を感じなかったから。そして、会長は優しいから。と言う。
僕はその発言にまた理解ができなかった。
僕が優しいわけがない。
女性二人を手にかけようとした。
そんな僕が優しいわけがない。
それなのに、彼女は頑なに僕を優しいと言う。
僕に友人になってほしいと言う。
僕にそんなことを言う人間はいなかった。
いつも上辺だけの付き合いで。計画に使うだけの存在で。
そんな僕に、友人になってくれだなんて……
僕は、利用価値のない人間のことはあまり好きではなかった。
関わろうともしなかった。
それは、闇の魔力に飲み込まれていた今までの僕。
そんな僕を彼女は救ってくれた。
彼女が僕と友人になりたいと言った時、僕の心に空いた穴が埋まった気がしたのだ。
僕が本当に欲しかったものは、他愛のない話をできる友人だったのかもしれないと、一人で納得した。
そして、僕に渦巻いていた憎悪の感情は、完全にとは言えないが薄れたのだ。
誰かに止めてほしい。誰かに僕の心を潤してほしい。
そんな僕の願いを救ってくれた。
貴女は僕を救わないと言っていたけれど、間違いなく僕を救ってくれた。
罪は償いきれない。
貴女にも危害を加えてしまった。
それでも、貴女の友人にしてくれると言うのなら、僕は罪を償い続ける。
ユミリア・シスカ。貴女のためになら、僕はなんだってしたい。
そう思える人に僕は、初めて出会うことができたのだから。




