夢?
「戸松!ぼーっとしてないで仕事しろ!!」
上司の、声?
「は、はい!すみません!」
「ったく、お前のせいで遅れるんだからな!!全体に迷惑かけたくねえならちゃんとしろよ!!!」
上司が大声で怒鳴る。
私は、仕事をしていた。
そのはずなのに、パソコンの前にいるのがとても久しぶりな気がする。
なぜだろうか。
そんなことを気にする暇はない。
私は仕事をしなければならない。しなければ、また上司に怒鳴られる。それは嫌だ。
私は、パソコンのキーを叩き始める。
やはり、懐かしさを感じる。
この違和感はなんなのだろう。
私はなにをしていたのだろう。
考えても思いつく節はない。
ただただ違和感だけが、私の心をざわつかせる。
そんなことを思いながらも私はキーを叩き続けた。
結局終わらなくて残業をすることになったが。
上司は先に帰るのに、私は遅い。
だからまた嫌味を言われた。もっと早くやれと。
いくらなんでも、理不尽だ。仕事量が多いから仕方がないというのに。
今だったら誰か手伝ってくれるのにな。ステファンとか……
ん?今ってなんだ?それにステファンって……
「京香どうしたの?」
「え?なっつん?なんで…」
「なんでもなにも、今私と話してたでしょ」
「そ、そうだっけ?」
私はさっきまで仕事をしていたはずでは?
目の前にはなっつんがいる。
なっつんは嘘はつかないだろうし。夢でもみていたかな。
「ね、京香。私の勧めたゲームやってる?」
「それが仕事が忙しくて、できてないんだよね」
「もーーやってよ?もうね、攻略対象達が本当にカッコいいから!」
なっつんが、身を乗り出して言ってくる。
「うん。やってみるよ」
「絶対だよ?あーでも、私はあまりヒロインが好きじゃないかな」
「え、なんで?」
「だってなんか純粋すぎるっていうかさー媚びってるみたいでさ」
なっつんが笑って言ってる。
けれど、私はそれが嫌だなと思った。
だって、自分の大切な人の悪口を言われたと思ったから。
私はまだゲームをプレイしていないし、ヒロインのことも知らない。
それなのに、そう思った。
「そんなことないよ!マリカは本当にいい子で!」
私は座っていた椅子から立ち勢いよく言った。
マリカ?あれ、私はなんで名前を……
「京香」
なっつんが微笑んでいる。
「少しの間だった。けど、貴女と話せて良かったよ。由香はさ、頑張りすぎちゃうところあるよね。そういう時にはちゃんと周りに相談するんだよ」
「な、なっつん?どうしたの?そんな最後の別れみたいな…」
なっつんの、深刻そうな顔を見てそう感じた。
もう会えないような、そんな感じがする。
「最後だからだよ。京香のいる世界はもう違う。貴女は、ユミリア・シスカ。それが今の貴女の名前。そうでしょ?」
なっつんがそう言った瞬間、私の姿が変わった。
濃い赤茶色の髪の毛で、髪の長さも長くなっている。
私は、ユミリア・シスカ。
『マジラブ』の悪役令嬢。そうだった。全て思い出した。
私が今しなければならないことも。
「なっつん、教えてほしいことがあるんだけど!」
「大丈夫、言わなくても分かってる。会長がマリカを閉じ込めているところは——」
なっつんが私に教えてくれた。
「ありがとう!」
私がそう言った瞬間、足場が崩れていく。
もう時間がないのだろう。
これが、本当に最後だ。
「なっつん、私の親友でいてくれてありがとう!」
最後は笑って別れる。
一回目の最後には、会うことができず終わってしまったから。
一番伝えたかったことを、言った。
遠ざかる意識の中で、少しだけ聞こえた。
「こちらこそありがとう。貴女なら、シェルド・モールトの心も救えるはずだよ。アルミネに、してくれたようにね」
と、言っている声が。




