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違和感

 食堂から出て少し歩いた頃。


「ユミリア様、ご無事ですか?」


  アルミネが問いかけてきた。


「みんなが来てくれたから無事よ。ありがとう」


  私は、みんなに笑いかけた。

 本当、来てくれて良かった。

 一人だけだったらあの場を切り抜けることはできなかっただろうから。

 それにしても——


「随分タイミングがよかったのだけれど、どうして?」


 私はそれだけが疑問だった。

 ゲームの時は、最初からいたのだからまだ分かる。

 だが、今回は最初にはおらず途中から扉を開けて入ってきた。

 なのにタイミングがピッタリというのはどういうことなのだろうか、と。


「それは、会長が仕事はもう終わりだと言ってくださったので。そして、食堂に行けばユミリアがいると思ったからですよ」


  ステファンが答えた。


「そう。会長が……」


 あの人か……私がこの間から怪しいと思っている人物。

 確証はない。いくらタイミングよくみんなを仕事から解放したとしても、確証ではない。

 どうにも怪しいと思わざるを得ないが。


「あれ?セシルはどうしているの?」


  私はこの場にセシルがいないことに気がついた。

 彼も生徒会のメンバーなのだから、仕事は終わっているはず。


「お兄様なら、先程の騒動を引き起こした方ヶ(かたがた)にお話を聞いております。なにかを聞き出すのならお兄様が適任かと思いますから」


  カイラが微笑んで言った。

 カイラの言う通りかもしれないな。

 セシルのあの顔なら、なんでも聞き出せそうだ。

 あの令嬢達がなぜ私に糾弾してきたのかは、私も知りたい。

 私がなにか悪いことをしていたのなら、謝りたい。


「皆様、私少し用があるので……」


 黙っていたマリカが言葉を発した。


「私もついていきましょうか?」

「いえ、私だけで行きます」


  覚悟を持ったような目をしている。

 この目をしたマリカは、きっとなにを言っても聞かない。

 用がなにかは分からないが、それほど重要なことなのだろう。


「わかったわ。気をつけてね」

「はい」


  マリカは一礼して去っていった。

 嫌な予感がする。なにもないといいのだが。


 時間が経ちセシルが戻ってきた。


「どうだった?」

 

  ナチェラが問う。


「全員答えてはくれたのだが、誰一人として覚えていないとのことだ」


  セシルがそう答えた。

 誰一人覚えていない?

 そんなことがありえるのか?


「覚えていない、ですか」


 ステファンが俯いた。が、なにかを思いついたように頷いたのに私は気づいた。

 他は気づかなかったみたいだけれど。

 あとからなにを思いついたのか聞いてみるか。


「ああ。あまり有益な情報は得られなかった」

「それがわかっただけでも、十分ですわ」


  そのあと話をしてから、授業が始まるからと戻った。

 教室に戻っても、マリカはいなかった。

 授業が始まっても、戻ってこない。


 用事とはなんだったのか……

 やはり私もついていくべきだったかと、後悔した。



 それから二、三日が経ってもマリカは学園に顔を出さない。

 彼女は、なにかに巻き込まれてしまったのか?

 彼女は、無事でいるのだろうか。

 心配だ。ゲームでもこんなことはなかった。

 これは、私がいるから生まれた特異点なのかもしれない。

 もしそうなのであれば、これは私の問題でもある。

 これは、現実。ゲームではない。

 友人が危険なことに巻き込まれているのであれば、私は助けに行きたい。


 私は相談をするため、ステファンの自室に来た。


「ステファン、マリカが帰ってこないのは何故だとお考えですか?それと、誰一人覚えていないと聞いたときなにかに気づかれていましたよね?それはなんですか?」

「質問が多いですね…隠したつもりだったのですが、気づいていましたか」


 ふむ、とステファンは頷く。

 そして口を開いた。


「貴女は、闇魔法というものを知っていますか?」

「禁忌の魔力…人を絶望の淵に追いやることで得る魔力……ですね」

「優しい表現ですが、間違ってはいませんね。その魔力の中には、人の記憶を操るという魔法も存在します」


 ステファンがそう言った瞬間、私の背筋に悪寒が走った。

 考えたくもない。けれど、ステファンが言いたいのはそういうことだ。


「もしかして、マリカがその闇魔法関係のトラブルに遭っている、と?」

「僕は、そう考えています。ですが、そうではないと信じたい」

「私だってそう思いたいですわ」

「そうですよね。その可能性もあり得るというだけの話ですので。ですが、仮にそうだった場合のことも視野に入れていてください」


 私は頷いてステファンの部屋から出て女子寮に戻った。

 ここ数日、不安でベッドに入ってもろくに寝ることができない。

 明日になってもマリカがいなかったら……

 怖い。私のせいで、なにかが起こっているのだとしたら。

 そう思わずにはいられない。

 自分が行動を変えてしまったから。

 自分が原作のまま行動していたのならば。

 マリカに危険が及ばなかったかもしれない。

 関わるべきではなかったのかもしれない。

 そんな考えを頭にぐるぐる回らせながら、眠った。



 翌日、学園には早く行った。

 でも、教室に入る気になれずブラブラと歩き、目に入ったベンチに座る。

 そうしつつ空を見上げていた。

 空は綺麗で、私の不安などかき消すようだ。

 不安はなくならないのだが。


 上を見上げていると、人影が見えた。

 その人が声をかけてくる。


「なにをされているのですか?ユミリア様」

「会長⁈」

「そんなに驚かなくても…」


 シェルド・モールド。その人が前に立っていた。

 会いたいようで会いたくなかった。


「す、すみません。物思いに(ふけ)っていたものでしたから」

「マリカさんのことでですか?」

「はい」


  私は頷いた。


「数日戻っていないということですから心配ですよね。きっと大丈夫だと思いますよ」


  私を励ます言葉。そのように聞こえるが、そうではないと思った。

 白々しい。そう感じた。

 これはただの勘なのだが。

 信じたくないが、会長がそうなのだろう。


「会長ですよね?マリカを外に出していないのは」


  会長の眉がぴくりと動いた。


「どうしてそう思うんですか?」

「会長の顔が笑っていたからです。マリカのことを心配だと言うのに笑っている。それはおかしいと思いました」

「気づかれてしまいましたか。意外と聡いですね」

「マリカはどこにいるのですか?答えてください!」


 私は会長に聞く。

 力がこもり、勢いよくなってしまった。


「そんな簡単に答えるわけないじゃないですか。それに、マリカさんは僕の秘密を知ってしまったのですから」

「秘密?」


  会長の秘密?それはなんだ?


「はい。それにしても、貴女も残念ですね」

「ざんね、ん…?」


  私の意識が遠ざかっていく。


「かい、ちょう…なにを?」

「なにも言わなければ良かったのに。本当、残念です」


  会長がニッコリ笑うのが見えた。

 そして、私は倒れた。

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