乙女ゲームの世界と気づく
私はベッドに寝転がった。
まさか私が婚約とは……しかも七歳の子と。
ステファン様にとって責任を取るとは婚約のことだったのか。
貴族の常識はよく分からないものだな。
あれ?そういえば、『私』が最後にしていた乙女ゲームにもステファンというキャラがいた気がするのだが。
確か、第三王子だった。何気に一番攻略に苦労したものだ。
『ステファン・マウロ』は畑作りや動物が好きで貴族っぽくなくて、実は腹黒で、ヒロインにだけちゃんと感情をみせるところが良かった。
あのルートで大変だったのはなんといっても、王子と幼少期に婚約者になった悪役令嬢。
王子のことを散々馬鹿にしていたのに、地位は渡したくないとかでヒロインに嫌がらせばかりしていた。
ヒロインをさっそうと救ける攻略対象はカッコよかったが。
あの悪役令嬢は、国外追放が一番優しい刑だったな。
他の刑については言いたくもないくらいだ。
あの悪役令嬢の名前は……そうだ、ユミリアだ。
私と同じ名?第三王子との婚約……
まさか、まさか!
私はすぐさま手鏡を取り出し、自分の顔を見た。
そこに写っていたのは、濃い赤茶色の髪、吊り上がっていて鋭い青色の目。美人ともいえるかもしれないが、全体的にキツい印象を与える。
間違いない。
この顔はゲームの悪役令嬢『ユミリア・シスカ』そのものだ。
「う、うそでしょー!!」
私の絶叫は屋敷中に響き渡った。
そのせいで、また医者に診てもらった方がいいのではと言われていたのは別の話である。
さて、私が『ユミリア・シスカ』ということは、この世界は乙女ゲーム『マジカルラブ』通称『マジラブ』の世界ということになる。
『マジラブ』は、魔法学校で繰り広げられる話であり、光の魔法という珍しい魔法を所持した女の子が入学したところから物語が始まる。
攻略対象は全部で五人おり、一癖も二癖もある。
そんな攻略対象の荒んだ心を照らし出し、幸せになる…平たく言えばそんな感じである。
そう、つまりは、攻略対象も全員いるということだ。
一人は『ステファン・マウロ』性格はさっきの通りで、魔法は土。
二人目は『リン・シスカ』魔法は水。
私、ユミリアの義弟になる子だ。栗毛の癖っ毛で、可愛い目をしている。けれど、前の家での扱いやシスカ家での扱いに精神的に疲れてしまい引きこもりに。魔法学園には入らなければならないので仕方なく入り、そこでヒロインに心を救われる。思わず泣きそうにもなった。
ちなみにここでのライバルキャラもユミリアである。
三人目は『バルド・ハスティ』魔法は火。
騎士団長の息子であり、硬派な男。いつも真剣な目をしている。自分は臆病で脆く、騎士という器ではないと言ったら、ヒロインに励まされて惚れる。正直一番攻略しやすかった。ライバルキャラはいない。
四人目は『ナチェラ・マウロ』魔法は雷。私の推しである。ツンデレだったからだ。ステファンの双子の弟で第四王子。少しだけ吊り上がった目をしている。運動も勉強も平均でなにかと兄達に比べられてきた。それをヒロインの温かな言葉でそのままで良いと思えるようになった。
ライバルキャラは婚約者の『アルミネ・グラシエリ』この令嬢も可愛くて好きだ。
最後に『セシル・リライト』魔法は風。
二歳上で宰相の息子。なにも興味がないという目をしている。妹がおり妹のために頑張っていたのに理解されなかった。そんな嘆きをヒロインが包み込み心を救った。
最後だったのであまり私の記憶には残ってない。
ライバルキャラは『カイラ・リライト』彼の妹だ。
攻略対象はこの五人。
もう一人隠しキャラというものが存在したらしいが、私には分からない。二日間でなんとか全員分クリアし終わっただけでも良しとしたい。
これからの対策をどうしていくかを考えなければならない。
なぜならユミエラは、破滅するエンド以外が見当たらないからだ。
つまりはステファンの婚約者になってしまった時点で、もう始まってしまっているのである。
私の破滅への道が……
とはいえ、私は原作が好きだ。
なので、原作の通りに物語を進め、なおかつ自分が破滅をしない道を自ら作ればいい。
だって今は私がユミエラなのだから。
「ふっ、ふふっ、やってやるぞー!」
私は両手を高く上げ意気込んだ。