セシルの心
俺の名前はセシル・リライト。
宰相の息子であり、一人の妹がいる身だ。
俺の妹の髪はとても綺麗な赤色をしている。
その髪をあろうことか、呪われた子だと揶揄してくる令嬢もいるのである。
妹は、そのせいで心を閉ざし部屋に篭りきるようになってしまった。
俺は、妹が二度とそんなことを言われないようにと、必死になって否定し続けた。
だが、それが仇になってしまったのだ。
『妹のためにあんなふうに頑張るだなんて、可哀想』
そんなふうに言われた。
俺は、妹の、カイラのためなら頑張れた。
それなのに、周りの人にはわかってもらえなかった。
俺たち家族は、コソコソと陰口を言われるようになった。
若くして宰相になった父へのやっかみもあるのかもしれないが。
それからカイラは、ますます部屋から出てこなくなった。
家族に迷惑をかけたくないからと。
迷惑だなんて思っていないというのに。
ある時、カイラがお茶会に行くと言った。
父に、人に慣れるためにも……と言われたらしい。
カイラのことだからわかるが、きっとこれ以上心配をかけたくないと思ったのだろうな。
俺は無理しなくていいと思うが、本人が行くと決めたのなら聞かないだろう。
カイラは少し強情なところがあるからな。
お茶会から帰ってきたカイラは、とても浮かれていた。
これまで見たことないような笑顔だった。
なんでも、とても優しい令嬢に会ったのだと言う。
二人の令嬢に詰め寄られていたところを助けてもらったのだと。
その令嬢の名前は、ユミリア・シスカ。
シスカ公爵の一人娘、か。
我儘で自分勝手な人だと聞いていたが、違うのか?
まあ、噂だからな。
妹を助けてもらったのだから、お礼を言いたいな。
いつか会えるだろうか?
数日後、ユミリア様が家に来るとカイラが嬉しそうに言っていた。
俺もお礼を言えると、楽しみにしていたのだが……
あいにく、熱を出してしまった。
カイラには、気にするなと言ってユミリア様を屋敷に呼んでもらった。
それから数日経ち、あちらの屋敷に行くというので、俺もついていった。
俺がついていくと邪魔になるかもしれないと思ったが、そうするしか会えそうになかったからだ。
そうして、屋敷の中に入りユミリア様に会うと、俺を凝視していた。
女性に、見られることはよくあったが、あからさまなのは初めてだ。
やはり邪魔だったのだろうか。
そんなことを考えながら俺は挨拶をした。
彼女も挨拶を返してくれて、ユミリアと呼んでくださいと言われた。
そして、いつも話しをしているという部屋につれていかれた。
そこに入ると、ユミリアは少し待っていてと言って出ていった。
その間にカイラに、ユミリアは優しそうな人だな。と言うと、そうでしょう?と笑って言われた。
カイラがよく笑うようになって良かったと、そう思う。
少しして、ユミリアが誰かをつれて戻ってきた。
どうやら、俺の話し相手としてつれてきてくれたようだ。
義弟で、名前をリンというのだそう。
それから俺たちは、それぞれで話し出す。
リンとは、ユミリアのことについて話した。
妹に危害をくわえるような人間じゃないというのは、一目でわかったが、どういう人なのかが気になったからだ。
案外、面白い人なのだと知った。
自分で、土を耕し植物を育てていると聞いた。
令嬢がそんなことをしているだなんてと、とても驚いた。
そうしていると、時間が経ち帰る時間になり、カイラは先に馬車に乗った。
俺は、ユミリアと話したいことがあり、残る。
俺は、妹のことをどう思っているのかと聞く。
大切な友達だと言われたので、ほっとした。
そのあと、ユミリアがこう言った。
「セシル様は、妹想いですね。それに、あんな可愛らしい妹さんがいて、ご兄妹を大切にしてくださるご両親がいて……正直、羨ましいですわ」
俺は、そんなこと言われたことがなかった。
羨ましいだなんて。
可愛い妹がいて、羨ましいなんて言われたことなかった。
可哀想だと、そう言われてきたからな。
だから思わず聞き返したのだ。
本当に羨ましいのかと。
「羨ましいですよ。私の家族も、最高ですけどね!」
ユミリアはこう言った。
自分の家族も最高だと言う彼女の笑顔からは、目が離せなかった。
自分の意見も言ってくれたから、お世辞じゃないとわかった。
俺の家族が羨ましいと本当に思ってくれているのだと。
この感情はなんだろうか。
初めて感じたものだ。
この気持ちを知る日はいつかくるのかもしれない。
だが、今はまだわからないな。
知った時に、俺はどうなるのだろうな……
知りたいとも思うし、知りたくないとも思う。
いずれは知ることになるのだろうが。
きっとこの気持ちはしまっておいた方が良いものだと思うのだがな。




