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敵わないなんて言わないで

 あれから来る日も来る日も、ナチェラは勝負を申し込んできた。

 毎度私に勝負内容を決めさせるから、私が勝つんだけど。

 そろそろナチェラが勝負内容を決めた方がいいのではと思うのだが。


「最近ナチェラがよく来るそうですね?」


  今日は、ステファンが来ている。

 どこから聞いたのかもわからない情報で私に質問してきた。

 本当にどこから聞いたのだろう。ナチェラが来てるのは言っていないはずなのに。

 まあ、ステファンが情報を聞く場所なんて沢山あるだろうからいちいち気にしていられないのだが。


「えぇ、来られますわ」

「変なことされてませんよね?」

「変なことがなにかは知りませんが、されていませんよ」

「それはよかったです。君に虫がつくといけませんからね」


  私はステファンにとってどういう存在なのか……

 防波堤とかじゃないのかと思ってたんだけど。

 そうじゃないのか?いや、気にしなくていいか。


 その瞬間、扉が開いた。


「勝負だ!」


  ナチェラだった。

 ナチェラが立ってる方を見ると、彼は驚いた顔をしていた。


「な、なんで、ステファンがいるんだ……」


 ステファンがいるのに驚いたのか。

 来る時にはいなかったから、鉢合わせたのはこれが初めてだったっけ。


「なぜと言われても、婚約者に会いに来たのですよ。ナチェラこそなぜユミリアに勝負を申し込みに来るのですか。僕の婚約者ですよ?」


 ステファンは(まく)し立てるように言った。

 婚約者をニ回も言う必要があったのだろうか。

 それに、美少年がニッコリ笑いながら言うのは少し怖いな。


「それはっ、まだ決着がついていないからだ!」


 ナチェラが言う。

 決着……ナチェラの中ではまだついていないのか。

 私が勝負内容を決めてるわけだし、公平じゃないよね。

 それなら……


「ナチェラ様、今日はピアノ勝負といきませんか?同じ曲を弾いて、聴いた人に判断していただくのです」


  これなら、公平になるはず。

 『私』の時は、弾けなかったけど今は少々弾けるし。

 ナチェラだって弾ける。ゲームでそんな描写があったから。


「ピアノか、いいぞ」

「ありがとうございます。では、早速しましょうか」


  私はピアノの前に座り、楽譜を置いた。

 たどたどしく、鍵盤を弾く。

 その音はあまりいいものとは言えないだろう。

 けれど、これが私の全力。したことのないことを、頑張ったのだからそれだけで褒めてほしい。

 そして弾き終わった。


 聴いてくれてた使用人達から拍手が起こった。


「ユミリアはピアノが弾けたのですね」

「まだ全然ですが…一応練習していたので。次は、ナチェラ様お願いします」


  私は椅子から立ち、ナチェラに代わった。

 ナチェラは鍵盤の上に手を置く。

 雰囲気が一瞬で変わる。


 鍵盤を弾く手はとても優しくて、滑らか。

 音も私が弾いていた時とは違って聴こえる。

 まるで違うピアノのよう。


 つい聴き入ってしまう。

 そうして、弾き終わった。


 周りが拍手をする。

 私の時よりも、大きい。


「すごいです。音がとても綺麗で、別のピアノを弾いておられるのかと錯覚するほどでした」


  私も拍手をおくった。


「いつの間にか、そんなに弾けるようになっていたんですね。本当に綺麗な音でした」


  ステファンも拍手をする。

 すると、ナチェラが苦しそうな顔をした。


「うるさい……どうせそんなこと思ってないんだろ!」


  ナチェラが走って外へ向かった。


「ナチェラ様⁈」


  私も外に向かおうとした。


「僕が行きます」

「いえ、今はステファンではないほうがいいです。なので私が行きますわ!」


  私は走る。

 外に出て、どこにいるかを探す。


 彼は、見つかりづらい木の下にいた。


「こんなところにおられたのですか」

「な、なんで来たんだ?」


  ナチェラが不思議そうに見てきた。

 少し泣きそうな顔をしている。


「あんなふうに出ていかれたら気になるでしょう。なにがあったのですか?」

「いつもあいつのほうがなんでも出来た。それなのに、俺のことを褒めてきたんだ。それがムカついてきて、気づいたら走ってた」


  あいつ……ステファンのことか。

 兄弟で、しかも双子だから色々比べられることもあったのかもしれない。


「俺は、あいつには敵わないんだ…運動だって、勉強だってあいつのほうが出来る。いつもいつも俺のほうがダメなんだ」


 ナチェラが言う。

 その声は苦しそうだった。

 ダメ、か。


「ナチェラ様は、ダメなどではないでしょう。それに、ステファンに出来ることがナチェラ様に出来ないのなら、ナチェラ様が出来ることだってステファンには出来ないのです」

「俺が出来ることがあいつには出来ない?」


  私は、思ったことをハッキリ言った。

 出来ないと苦しむ必要はない。

 だって、自分に出来ることが相手は出来ないかもしれないのだから。


「だが、あいつに出来ないことなどないだろう」

「実は、ステファンの弱点を知っているのです」


  私はニッコリ笑う。

 そう、知ったのだ。先日、植物園で作業をしている時にね。


「ステファンの弱点?」


  ナチェラは首を傾げる。


 話してると、声が聞こえてきた。


「ナチェラーどこにいるのですか?ユミリアも、いたら返事してください」


  心配になって探しに来たのだろうか。

 ステファンの声がした。


「今です!」


  私はシュッとポケットから、物を取り出しステファンの前に投げた。


「うわぁ⁈」


  ステファンは驚いた声を上げた。


「なにを投げたんだ?」

「私が作ったミミズのおもちゃですわ!ステファンはミミズが苦手なようなのです。土の下から出てきた時にすごく嫌そうにしていましたから」


  いつか役にたつかもと思って、紙で作っておいたのだ。

 役にたつ日はこないでほしいけど。


「いや、あれはただのゴミだろ」

「失礼な!ゴミではないですよ」

「そんな大声出してたら見つかるぞ」


  はっ、と口を押さえた。

 けれど、もうすでに遅かった。


「おや、そこにいたのですね。ユミリア、これを投げたのは君かな?」


  私の作ったミミズのおもちゃを握りながら、私達を見下ろして言った。


「ひっ、わ、私です…」

「そうですか。それはそれは、貴女のお母様にお話ししなきゃですね」

「そ、それだけはやめて!」


  お母様に言われたら絶対怒られる。

 それは嫌だ!


「ふっ、ははっ」


  笑い声がした。

 ナチェラの声だ。


「どうされたのですか?」

「面白いなと思って」


  面白い?なんのことだろう。


「貴方がそんなに笑うのは珍しいですね」

「ステファンもだろ。滅多に見たことなかったのに、笑うようになったんだな」

「ユミリアは面白いですからね。毎日飽きませんよ」


 私のことだったのか。

 というか、人をおもちゃみたいに……


 まっ、笑ってくれてるならそれでいいか。

 この兄弟も仲良くしてくれるといいな。

 そう、私達のようにね!

 リンはこの場にはいないのだけれどね。

 あとでまた抱きつきにいこうかな。

 嫌がられるのは分かっているけれど、あの目は癖になるのだ。


 断じて、Mなどではないからね。

 勘違いしないで!

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