第四王子が来た
私は今日も早く起きて外に出ている。
「義姉さんも毎日よくやるね…」
眠そうに目をこすりながらリンが言った。
「リンだっていつも私を手伝ってくれるじゃない。眠いなら寝てていいのよ?」
「好きでやってるからいいんだよ」
「そう」
私は魔法で植物に水をかけながら言う。
リンがしたくてしてるなら、私が止める権利はない。
姉想いのいい子に育ってくれて嬉しいし。
「ユミリア様ー!」
エマが慌てた様子で走ってきた。
「どうしたの?ステファンなら、いつものようにこちらに来て貰えばいいじゃない」
いつもなら植物園のほうに来るのだから、わざわざ呼ぶ必要もない。
エマがこんなに焦る必要もないはずだ。
「ステファン様ではないのです。第四王子の、ナチェラ様が来られたのです!応接間にお通ししておりますので、急いでください」
第四王子が⁈なぜ私のところに……
そんな話はなかったはずなのに。
それより、早く行かなければならない。
「わかった。着替えたらすぐに向かうわ」
「お手伝いします」
エマが私の部屋までついてきて、着替えを手伝ってくれた。
あまり、正装はなれていない。けれど、王子の前だから仕方ないな。
そして応接間に向かい、入った。
そこには、ソファにふんぞりかえっている第四王子……
ナチェラ・マウロの姿があった。
「遅かったな」
フンッと効果音でもつきそうなふうに、彼は言った。
推しが、私の推しが目の前にいる!
口調もゲームのままだ。それに、幼少期だからもちろんだけど身長が低い。可愛い!
私は悶える心を隠し、微笑む。
「申し訳ありません。少し身支度に時間がかかってしまい。それで、本日はどのようなご用でしょうか?」
ナチェラと接点はつくっていないのだから、屋敷を訪れるような用はないはず。
それなのに、なぜ来たのか?
私はそれだけが気になって仕方がない。
「お前、俺の婚約者を誑かすな!」
と、ナチェラは立ち上がって私に向かってビシッと指をさしてきた。
「婚約者とは、アルミネのことでしょうか?」
「そうだ!」
「誑かしてなどいませんが?」
というか、誑かすって……
ただ楽しく話しているだけなのに。
「嘘を言うな!」
「嘘を言っているわけではありませんが」
「アルミネと会っても、お前の話しかしないんだぞ⁈いつもいつも、ユミリア様がーとか言うんだ!」
アルミネはそんなことばかり話しているのか。
それと、推しにこう言うのはためらうんだけど……
「貴方のお話がつまらないのではないですか?」
と、ズバッと言った。
「つ、つまらないだと…」
ナチェラは、ショックを受けたような顔をして、ソファに座り直した。
「えぇ、面白い話なら、誰もが耳を傾けたがります。ですが、アルミネがそうしないということは貴方の話がつまらないのでしょう」
私はさらに追い討ちをかける。
ナチェラは、プルプルと震えている。
さすがに言いすぎて怒らせたか?
「じゃあアルミネはお前の話は聞くのか⁈」
「いつも楽しそうに聞いてくれますよ」
私はニッコリ笑った。
「……勝負だ!勝負をしろ!俺が勝ったらお前をアルミネには近づけさせない」
「それは少々横暴ではありませんか?けれど、そのお話、お受けいたしますわ」
「言ったな⁈また来るからその時覚悟しとけよ!」
ナチェラは立ち、そのまま出ていった。
「お嬢様、お受けしてもよろしかったのですか?」
「勝負がどのようなものかは、分からない。でも、そうしないと納得なさらない様子だったから」
「つまりは、早く帰っていただきたかったと」
「そういうことになるわね」
エマは、はぁ……とため息をついた。
推しは好きだけど、あんなにちょろいとは思わなかったな。
挑発したらすぐに乗ってきてくれたし。
それに、なかなかいい悪役ムーブも出せていた気がする。
また来るって言ってたけど、いつ来るのだろう。
勝負ってなにするのか。少しワクワクしてきた。