リンの苦悩
僕はリン。今日からリン・シスカとなった。
両親に見向きもされず、兄弟からは嫌がらせを受ける日々。
ある日、いつもの嫌がらせが途端に怖くなり、抵抗をしたら魔力が暴走してしまった。
そして僕は家を追い出されたが、そこをシスカ公爵に拾われて今に至るということだ。
今は、シスカ公爵がユミリア様に僕を紹介してくださっている。
ユミリア様はこの屋敷の一人娘。
最近どこか様子がおかしいというのは聞いた。
確かにそうみたいだ。さっきから一言も話さず、黙っている。
そうして、シスカ公爵…お義父様は出ていかれた。
すると、ユミリア様が口を開いた。
「初めまして、ユミリア・シスカですわ」
と、挨拶をされた。
僕もすかさず挨拶をしたけれど、少し震えた声が出てしまった。失礼のないようにしようと思って、体がこわばってしまったのだ。
そのあと怒らせてないか不安になっていたけれど、ユミリア様が
「私についてきて」
と言われた。
僕はどこにつれていかれるんだろうと思いながらも、ユミリア様の後ろをついて歩いた。
着いた場所は、植物がある場所だった。
すごく綺麗な場所。
「リンは植物好き?」
と聞いてくださった。
僕がぼーっと見てたから気にさせてしまったのかもしれない。
穏やかな気持ちになれるので好きです。と言うと、笑って
「それなら連れてきて良かった。それと、敬語はなしでいい」
と言われた。
敬語をなくすなんて、失礼だとも思ったけれど、ユミリア様から言われたことなので多分いいのだろう。
それに義姉さんと呼んでとも言われたので、そうするようにした。
「わかった義姉さん」
話してたら、義姉さんがここら辺の植物は自分で埋めたんだと、紹介してくれた。
令嬢が土いじりなんて聞いたことがなかったから、すごく驚いた。
そのあと、水魔法を見せてほしいと言われ、最初は傷つけてしまうからと渋った。
けれど、きっと大丈夫と言われたので、使った。
暴走はしなかった。
それなのに、怪我をさせてしまった。
僕のせいだ。僕が危ないって言わなかったから。ちゃんと止めてれば、義姉さんは傷つかずに済んだかもしれないのに…
僕は食事もとらずに部屋に閉じこもった。
誰かを傷つけてしまう力を持つ僕は、誰とも関わらない方がいいと思ったから。
「ごめんなさい、義姉さん…」
ぽそっと口から出た言葉。
その言葉を出した後、どんどんと扉を叩か音が聞こえた。
開けなさいと、何度も言う義姉さんの声。
でも、開けるわけにはいかなかった。
だからこそ、鍵だって2本もって閉じこもったんだ。
僕が開けない限りは誰にも開けることはできない。
そう思ってた。
それなのに、義姉さんは入ってきたんだ。
扉を蹴破って……
そうしたあとに、すごく痛そうにしていたけれど。
僕の方を向いて一言言いたいことがあると、深呼吸をした。
「ご飯は食べなさい!元気に生きるために必要なのは、睡眠と食事と健康な精神なのよ!!その中で特に必要なのが食事よ!わかったわね⁈」
たったそれだけ?と拍子抜けした。
それだけを言うために、扉を蹴破って僕の部屋に入ってきたのか……と。
それにこの言葉はどこかで聞いたような気がする。
突如、僕の頭に一つの記憶が流れてきた。
僕の前世?僕は雅という名前だった。
京香という姉がいて、いつも僕のために一生懸命だった。
姉と話す時間が僕にとっては一番大事だったんだ。
さっきの言葉はその姉が言ったものにとても似ていた。
もしかしてこの人が京香姉なのかと思った。
そのあと、義姉さんは、扉が壊れていることに怒ったお義母様につれていかれた。
僕は少ししてから眠った。
けれど、どうしても確かめたくなって、みんなが起きてくる前にと義姉さんの部屋に向かった。
義姉さんは僕を部屋に入れてくれた。
寒いからと、ブランケットもかけてくれた。
僕はカマをかけるために
「ありがとう、京香姉」
と言った。
すると、京香姉と言ったことには触れず、これぐらいなんともないと言ったあと、え?と固まっていた。
僕はそれで確信を持った。
京香姉なんだっていう確信を。
そのあと僕が死んでしまった経緯を話すと、かっこ悪くなんてないって否定してくれた。
それがとても嬉しかった。
それに、もう二度と会えなくなって、京香姉が働いていた会社を恨んだりもしたのに、また会えた。
それが、本当に嬉しいんだ。
もう姿は違うけど、僕の大事な姉であることは変わらないし。
僕は京香姉に、僕を救ってくれてありがとうって言った。
京香姉は大したことじゃないって言ったけど、僕にとっては大したことだ。
リンって呼ばれたことから、僕は今は違う人生なんだって実感した。
それは京香姉もだ。
だから僕は義姉さんって呼んで、その場を後にした。
もう少し話したかったけれど、これからは沢山話せるはずだから。
今はこれだけで我慢しておくね。