義弟が『弟』だった?
翌日、まだ日が出ていない時間にコンコンと聞こえた。
こんな時間になんだろうと、ベッドから出て扉を開ける。
「義姉さん、おはよう」
「リン、おはよう。こんな時間にどうしたの?とりあえず入って」
扉を開けたら、いたのはリンだった。
部屋に入ってもらい、机と同じところにあった椅子を動かして座らせた。
ブランケットも置いてあったので、それをリンにかけた。
「ありがとう、京香姉」
「いいのよこれぐらい。って、え?」
さっき、この世界の人は知らない名前が出た気が……
「やっぱり京香姉なんだ」
リンは笑った。
私をそうやって呼ぶのはあの子しかいない。
「まさか、雅?」
「うん、そうだよ。久しぶりだね」
雅とは『私』の弟の名前だ。
まさかとは思ったけど、本当にそうだなんて……
もう二度と会えないと思ってた。
実際、姿は違うのだけど。
「うっ、雅…」
「京香姉、これじゃ昨日と逆だね」
雅、いや、リンは泣いてる私の頭を撫でた。
「そうだね…ねぇ、雅はいつ私だって気づいたの?というか雅も転生したの?どういうことなの?」
「わー質問攻めだね。ちょっと待ってね」
こほんっ、と一泊おいた後に話し始める。
「えーと、まずね僕は転生?したみたいだね。京香姉が死んじゃって少しした頃、『僕』は車に轢かれそうになってた小さい子を助けたんだ。それでそのまま…ははっ、かっこ悪いよね」
「そんなことない!自分が危ないかもしれないのに、突っ込んでいくのはかっこいいよ!ただ、自分の安全も確保してよ?」
「京香姉ならそう言うと思った。なにをするにも、自分も相手も笑えるように、だもんね」
「うちの家訓だね」
久々にこんな話ができて嬉しい。でもその反面、雅が死んでしまっていたということに驚いた。
最後に子供を守って……優しい雅らしいのだが。
私がいなくなってから雅はどうしてたのかな。やりたいことはできた?
幼い頃から両親が仕事でなかなか家にいなくて、二人でいるのが当たり前だった。
雅はいつも私のためにご飯を作ってくれたし、好きなものについても聞いてくれた。
無理させてるんじゃないかとずっと不安だったから、自由にできてたならいいな。
「京香姉?考え事?」
「あっ、ごめん。なにか話してた?」
「ううん、なにも」
危ない危ない。考え事をする時は周りの声が聞こえなくなるのだ。
だから人前ではあまり深く考え事をしないようにしている。
「えっとね、いつ京香姉だって気づいたかなんだけど、さっきなんだよね。記憶が戻ったのも京香姉に説教されたからだし」
「そうだったの⁈それまでは、なにも覚えてなかった?」
「うん。なんかこの言葉前にも聞いたことあるな〜って思ってたらぼんやりと思い出してきたんだ」
そんな感じで思い出すことあるのか……
なんか拍子抜けというかなんというか……
「ん?というか私あんな言葉言ったことあったっけ?」
「あるよ。食事と睡眠は絶対にとれ!って何回も言ってくれたからね」
「あー言った?かも…」
リンはすごく笑っていた。
笑ってほしいと、守りたいと思った子がまさか『私』の『弟』だったとはね。
予想外だけど、想う気持ちは変わらないから、何回でも笑わせてみせるよ。
「京香姉、ありがとう。僕の話を聞いてくれて。それと、今の僕を救ってくれて」
「救っただなんて大層なことはしてないよ。ただ、一緒に笑ってたいそれだけだから。だから、また一緒に遊ぼうね雅。いや、リン」
「うん、京香姉。いや、義姉さん」
ここからはまた、ユミリアとリンに戻る。
今の家族に怪しまれないように、振る舞う。
二人の時は、こうやって話すと思うんだけどね。
「じゃあまたあとでね、義姉さん」
リンは手を振って、部屋から出ていった。