記憶を思い出す
私はブラック企業で働くOL。どこでもいるオタクでもある。
今日はやっとの思いで勝ち取った休暇を謳歌中。
睡眠も食事もろくに取らずゲームしかしていない。
普段からどちらもろくに取っていないのだが。
今は、とある乙女ゲームをプレイ中だ。
まあよくある魔法学校で繰り広げられるラブロマンス…というか若干コメディな気もしてくる。
一応、悪役令嬢とのやりとりを見るところ、シリアスのようだ。
なんとしてでもこの休暇中に終わらせようと死に物狂いで頑張った甲斐があった。
ついに最後の攻略。卒業式でのエンディングでどうなるのかが分かる。
ちゃんと結ばれたみたい。ヒロインの言葉にはグッとくるものがある。
「やっと、やっと終わった…」
私の意識はそこで途切れた。
というのを今、この瞬間思い出した。
牛に顔を舐められたことに驚き、ドレスで足をつんのめってしまい地面に頭を打ったこの瞬間に。
死に物狂いでとは言ったものの、本当に死んでしまうとは思っていなかった。
私はシスカ公爵家の一人娘として甘やかされ、我儘に育った。
今日は父と共にお城に来ていた。そして、年が同じな第三王子に庭を案内して貰う予定だったのだ。
王子は白髪でおだやかな緑色の目で、作業服を身につけていた。
私はそんな王子の服装を馬鹿にした。
けれど、王子はニッコリ笑って私を庭……ではなく動物小屋につれてきた。
ここの動物は自分が世話をしているのだと、嬉々として紹介された。
もちろん私はそれも高笑いして馬鹿にしたのだが。
あとは、知っての通り牛に舐められた。
ここまで考えておいてなんだが、やっぱり二十三年分の重みはキツい。
私の脳は完全にシャットアウトされた。
「ユミリア様ー⁈」