8:魔法って
「ササマキさん、また魔液が足りなくなってしまって…」
「ありゃ、でも最初に比べるとだいぶ効率よくなってきてますよ。コレばっかりは慣れなので、経験積むしかないですね」
はい、と追加の魔液を渡すと、いつもありがとうございますと代金を渡される。
念の為多めに作っておいてよかったと、内心ホッとした。
目の前にいるミナさんは、珍しくビスリーで生まれ育ちかつ、獣人に育てられたヒトだ。
ヒトは魔法を行使する能力を持って生まれるとはいえ、流石に使い方を教わって育たないと魔法など使えないのだ。考えてみれば当たり前のことかもしれないが、魔法に囲まれて育った身としては、その事実に直面した時新鮮な驚きを感じた。
生活魔道具に用いられるのは固定魔法と呼ばれる魔法で、モンスター等の素材を魔力で調合しながら作る魔液を使い、魔法陣を描いていくものだ。描く際も魔力を通しながら効果を定着させていくので、それなりの魔力コントロールが必要になる。魔力が少なすぎると効果が定着しなくて魔液を消費するだけだし、多すぎると魔力が漏れて効率が悪くなる。
そんな彼女は、健気にも片想いの人にプレゼントを作りたいのだと、大人になってから魔力の使い方を学んでいる。
最初に来店した時にはどうなることかと思ったが、作り始めた「ひんやり涼しいを維持できるスカーフ」は、なんとか完成に近づいているようで、指導した身としては嬉しいかぎりだ。
「あとほんの少しで、最後まで描けるんです。完成したら、大丈夫そうか見てもらってもいいですか?」
「ええ。でも途中まではうまくいってましたし、問題ないとは思いますよ。自信持ってください」
「ありがとうございます」
嬉しそうに笑う顔は、ハッと目を引く可愛らしさがある。こんな人に片想いされるとか、一体どんないい男なんだろう。ぜひモテるコツを伝授していただきたい。
そんな風に内心相手の男を羨んでいると、ミナさんがあの、と言葉を紡いだ。
「ササマキさんには、ほんとうにお世話になりました。魔法って、もっと簡単に使えるものだと、ろくに使ったこともないくせに思ってたんです。まさか一年近くかかるなんて、思ってもいませんでした」
「トウワコクでは子供の頃から魔法を学ぶんです。基礎も学べていなかったことを考えると、一年でこれだけできるようになったのは、すごいと思いますよ」
「うぅ、ありがとうございます。でもササマキさんがいなかったら、作り始めることすらできなかったと思うんです。魔液も特別に作ってもらってますし。
だからもし、私に力になれることがあれば、遠慮なく言ってくださいね!恩返しさせて欲しいんです」
小さな握り拳を作って意気込む彼女に、思わず笑みが浮かぶ。
「そうですね、じゃあ何か思いついたら…」
と、言いかけてハッとした。
「ミナさん!」
「!?はいっ!」
急な大声にびっくりしたように目をまんまるにする彼女に、ずいと近寄る。
「今度休みが合うとき、買い物に付き合ってもらえませんか!」
そう、是非ともご指導いただきたいことがあるんです!
「うわぁ、なんかキラキラしてますね。ミナさんいなかったら俺、店に入ることすらできなかったかもしれません」
「女の子!って感じですもんね。確かに男の人は入りづらいかも…」
ミナさんに連れてきてもらったのは、女性用のアクセサリーや小物、化粧品などを売っている雑貨屋だ。
いつもナガセさんに抜け駆けされている俺だが、ビスリーで過ごせるのもあと1ヶ月ちょっと。最後にクロアちゃんに喜んでもらえるプレゼントをしたいのだ。
だが自分のセンスに自信はないし、そもそもいいお店も知らない。ナガセさんに聞くのはなんだか癪だし、と思っていたところに、ミナさんからのあの言葉。甘えるしかない!
「んー、どれもかわいいですね。あ、ネコのヘアピンとかある」
「かわいらしいですね!でも相手の子は12歳でしたっけ。なら少し背伸びしたい年頃ですし、長く使えるように大人っぽいものでもいいかもですね」
「なるほどー」
今のクロアちゃんは、THEカワイイみたいなのでも喜んでくれそうだが、年齢を考えるともう少し大人っぽいものでもいいかも。
「うぅ、髪留めも首飾りもバッグも色々あるなぁ。ミナさんは、こういうの何を基準に選ぶんですか?」
「んー、単純に自分の好みかどうか、ですね。その子が普段身につけてるものから好みを推測すると、ハズレが少ないと思います」
そう言われると、悩んでしまう。
「その子、こういうアクセサリー類ほとんど持ってないと思うんですよ。お母さん早くに亡くしてて、兄弟も男ばっからしくて。でも、可愛くなりたいって…」
「そう、なんですか。なら、高いもの1つ買うより、手頃なものを色々詰め合わせるのってどうですか?んっと、この辺のポーチみたいなのに、ヘアピンとか首飾りとか、手鑑みたいなちょっとした小物とか、色々詰めたら楽しそうだと思うんです」
「あ!それいいかも!」
「あと口紅も、なんか大人になった気分を味わえるのでおすすめです」
「そういえば、妹も母親の勝手に使って怒られたりしてたなぁ」
「ふふ、若い子だとほんのり色づく程度でいいので、この辺りから選ぶといいですよ」
「ミナ先生、ありがとうございます」
「少しはお役に立てたようで何よりです」
少しどころか大助かりだ。
それから二人で、あーでもないこーでもないと言いながら、ポーチと中に詰めるアクセや小物を選んで、なんとか満足いくものが完成した。
一つ一つは子供のお小遣いで買える程度のものでも、数が増えると最終的には結構なお値段になったのだが、クロアちゃんが喜んでくれるだろうと思うと、それも全然気にならない。
きっと、何度も魔液を買いに来ていたミナさんも、同じように相手が喜ぶ顔が見たくて頑張っているんだろう。魔液の消費が嵩んだせいで、通常の何倍もの手間とお金がかかったそれを、相手の人が喜んで受け取ってくれるといいなと願う。
お礼を言ってミナさんと別れて。
帰り道に改めてビスリーの街並みを眺めて歩きながら、もう終わりが見え始めたここでの生活に、悔いが残らないようにしたいと思った。