7:可愛い生き物
クロア父の持ってきてくれたクリスタルビーの巣蜜は、服を送ってくれたそれぞれの実家や、協力してくれた支社、本社にも送って、とても喜ばれた。今度お父さんにお会いした時に、改めてお礼を言っておかないと。
ちなみに、ナガセさんと一緒に食べてみたが、期待を裏切らない美味しさだった。一口含むだけで幸せが溢れるあの味は、きっと一生忘れられないだろう。
肝心のクロアちゃんはというと、あれから姿を見せておらず、「変身して登場するから待っててね」という可愛いお手紙だけがそっと店前に置いてあった。きっと贈った服を着てきてくれるのだろうと、ナガセさんと楽しみに待っていた。
「カナト!マキ!」
しばらくして。
俺とナガセさんが店番の日に、クロアちゃんは待ち構えていたかのようにお店にやってきた。
「あー!クロアちゃん、髪切ってる!かわいいねぇ。そのスカートもよく似合ってるよ」
「ほんと?かわいい?」
「ほんとほんと。前も可愛かったけど、ますますかわいい!」
「やった!」
パッと、花が咲くように笑ったクロアちゃんは、美容院で切ってもらったのか綺麗なショートボブになっていた。
尻尾あり獣人用に直された短めのスカートがとてもよく似合っている。
「本当、クロアちゃんかわいいわよ。そんなかわいいクロアちゃんに、私からのプレゼント」
そう言うとナガセさんは、いつのまにか手に持っていた小さな花のついたヘアピンをクロアちゃんの髪につけた。
「ほら、似合ってる」
そして鏡を見せてあげると、クロアちゃんの頬が嬉しそうに上気する。
「わ、嬉しい!マキ大好き!」
「ふふふ、私もよ」
「…」
くそぅ!ナガセさんズルいいつの間にそんなアイテム用意してたの抜け駆け許せないーっ。
嫉妬に狂った目でナガセさんをガン見していると、ふふっと勝ち誇ったように笑われた。
うう、悔しいけど勝てる要素が何もない…。経験不足なこの身が辛い。
がっくりしていると、クロアちゃんが上目遣いでこちらをチラリと見た。
「服、たくさんありがとう。とっても嬉しかった。この間は泣いちゃってごめんね」
ナガセさんに抱きつきながら、そんな健気なことを言うクロアちゃんに、思わず頬が緩む。
「俺も、言うタイミング悪くってごめんね。あと数ヶ月、仲良くしてくれると嬉しいな」
「うん。…マキも、帰るの?」
今度はナガセさんの方を見上げるクロアちゃんに、ナガセさんは笑顔で答える。
「私はこっちの人と結婚してるし、今のところ引越しの予定はないわよ」
「ホント⁉︎嬉しい‼︎」
ぎゅーっとクロアちゃんに抱きつかれるナガセさんに、またしても敗北感を抱きながら二人にチラチラ視線を送っていると、やがてナガセさんに満足したのかクロアちゃんがこちらへ来てくれた。
「カナトも大好き」
そういって抱きついてくれるクロアちゃん以上に、可愛い生き物がいるだろうか。
「俺もクロアちゃん大好きだよおぉぉ」
情けない声を上げる俺に、ナガセさんの呆れ果てた目が冷たく刺さるけれど、今だけは気にしないことにした。