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5:怖すぎないか…?

「子供の時の服なんか、もう全部捨てたりあげたりしちゃってるわよ…?」


 家族から届いた悲しいお手紙に、涙が滲みそうになる。

 え、俺やっぱり役に立たないじゃん。クロアちゃんに嘘つくことになるけど、もういっそ古着屋さんで買ってきちゃダメかな。バレないよね?ね?


 と思ったが、手紙で事情を説明しておいたのが良かったのか、妹がいらない服を送ってくれるらしい。子供用ではないけれど、妹は小柄だし、女の子は成長早いからもうすぐサイズも合うでしょうとのこと。


 ちなみに、9歳か10歳くらいかと思っていたクロアちゃんは12歳だった。子猫でも人型でも小柄だし、性格も素直で可愛らしいから、なんだか幼く見える。


 ともあれ、少しは役に立てそうでホッとした。

 トウワコクでの上司に、社内便に混じらせてナガセさんのと一緒に荷物をこっちに送ってくれない?とお願いしてみたら、娘持ちの上司はすんなり承諾してくれたので、運賃も自腹ゼロ!やったね!持つべきは話のわかる上司だ。


 必要な段取りをほぼ終えて、あとは現物が届くのを待つだけ。クロアちゃんの喜ぶ様子を想像するだけで、とても楽しくなる。

 それを出勤してきたナガセさんを捕まえて話していると、ちょっと難しい表情をされてしまった。


「あのさ、考えてたんだけどね、子供が急に服もらいましたって持って帰ったら、親はびっくりするわよね」

「あー、確かに」


 しかも俺たちなんか、出会って数ヶ月の外国人だ。クロアちゃんが俺たちのことを家族にどう説明しているのか、そもそも話しているのかさえわからない。


「一応挨拶行っといた方がいいですよね。俺、クロアちゃんに都合聞いてもらってきます」

「ん、お願いね。できれば、店に来てもらえる方が安心なんだけど」

「そうですねー、とりあえず夕方に話してきます」


 今日は多分子猫スタイルでくるから、まともな会話になるかはわからないけど。

 とりあえず、こちらの希望は伝えてみよう。






「シルウェン・ルーヴと申します。いつも妻のマキがお世話になっております」

「カ、カナト・ササマキと申します。こちらこそ、奥様にはお世話になっております」


 無表情なイケメンに丁寧に挨拶されてオロオロしていると、ナガセさんが呆れた表情でこちらを見やった。


「ちょっと、店の外で待つ約束じゃなかった?」

「挨拶だけしたら外で待ちます。何かあれば呼んでください。呼ばれなくても危険だと判断したら、介入させていただきます」

「はいはい、もうすぐ時間だから邪魔しないでね!」


 ピピっと犬?っぽい耳を震わせると、ナガセさんの旦那さんはこちらに会釈して職員用の方の出入り口から出ていった。


「え、と?」

「ごめんねー、なんかあの人クマ獣人は信用ならないからとか言って、勝手に心配してこっちにきちゃったのよ」

「はは、そうなんですか…」


 そう、あの日から数度のやり取りがあり、今日は店が終わったくらいの時間に、クロアちゃんのお父さんが来てくれることになっている。


 獣人の子は両親どちらかの特徴を継いで生まれてくるので、猫獣人のお父さんがクマ獣人でも別におかしくはないのだが、小さなクロアちゃんからは想像できなくて聞いた時には驚いたものだ。

 ちなみに、ヒトと獣人の間に生まれる子供もどちらか一方の特性を継いで生まれるので、ヒトの専売特許である魔法を使える獣人、なんてチートな生き物は存在しない。


「えっと、クマ獣人ってなんかあるんですか?接客した時はなんとも思わなかったんですけど」

「んー。馬鹿力だから、ヒトに慣れていないと感情昂ってる時とかうっかり骨折させたりするんですって。相手に悪気がなくてもね」

「マジっすか…」

「ま、それはクマ獣人に限ったことではない気もするけど、力が強い分確率が高いってことなんでしょ」


 心配性で困ったものだわ、と言うナガセさんだが、新妻を心配するいい旦那さんじゃないか。


「ちなみに、旦那さんはなんの獣人なんですか?」

「オオカミなんですって。あの人尻尾ないタイプだから、人型だとよくわかんないわよね。獣型は全身フサフサで可愛いわよ」


 ふふっと笑うナガセさんは、なんだかんだ文句を言いつつ幸せそうだ。

 ちなみに、結婚したナガセさんの本名はマキ・ナガセ・ルーヴになるが、職場ではみんな結婚前のまま、ナガセさんかマキさん呼びだ。


「カナト!マキー!」


 と、ナガセさんの新婚オーラに地味に当てられていると、クロアちゃんの元気な声と共にお店のドアが開けられた。


「あ、クロアちゃんいらっしゃい。あれ?お父さんは?」

「もう来るよ」


 たたたっと店の中に入ってきたクロアちゃんは、そう言って視線を今しがた入ってきたドアへと向ける。するとその視線の先に、ぬっと大きな影が現れた。


「うおぅ」


 がっしりと太く筋肉質な巨体、鋭い目つき、引き攣れた頬の傷痕。俺なんか指先で摘んで放り投げてしまえそうな強者オーラが、ガラスドア越しにもひしひし伝わってくる。驚きのあまり、思わず変な声が出てしまった。


 え、前見たことあるクマ獣人ってもっと小柄だったのに、クロアちゃんのお父さん怖すぎないか…?これなら、ナガセさんの旦那さんが心配するのもわかる気がする。


 そんな風に内心ビクビクしている間に、ドアを開けてお父さんが入ってきた。

 そして、二人で立っていた俺とナガセさんにギロリと視線を向けて、野太い声で問いかけてくる。


「あんた達が、カナトさんとマキさんか」

「は、はいっ、そうですっ」


 緊張のあまり上擦った声が出てしまったが、クロア父はそれを気にすることなくこちらに近づいてくる。

 思わず後退りしそうになる体を、根性でその場に留める。が、近づくと余計その巨体の威圧感を感じて、正直めちゃくちゃ怖い。


 けれど、次の瞬間、お父さんはその巨体を窮屈そうに折り曲げて、ペコリとこちらに頭を下げたのだった。


「コイツのこと、礼を言う。手間かけさせたようで、すまなかった」




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