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4:世界一

 あれからクロアちゃんは、たまに人型でも店に来てくれるようになった。


 大体俺とナガセさんが店番でかつ人が少ない時に人型で、そのほかの日は子猫姿で現れることが多い。

 子どもなのにちゃんと周りをみて動いてくれているようだ。可愛いし賢い。言う事なし。


 少しずつ自分のことも話してくれるようになったのだけど、可愛いって言ってくれたのカナトだけ、の意味を聞いた時は、とても悲しくなった。


「父ちゃん、可愛い服とかわかんないの。女はあたしだけだし、父ちゃんも兄ちゃん達もガサツでおおざっぱだから、あたしもそれがフツーだと思ってたけど。女なのに男みたいだって友達に言われて、まわり見たら、確かにそうだなって」


 悲しそうに、耳がぺしょりと伏せられているのが切ない。


「でも、なんか今更オンナノコっぽくとかわかんないし。父ちゃん達に聞いてもわかんないし。あたしには似合わないのかなって。でもカナトが、かわいいって言ってくれて、うれしくて。あ、あたしやっぱり、かわいくなりたいなって、なんかそう思っちゃって」


 でもね、とクロアちゃんが尻尾を揺らす。


「あたし産んですぐ、母ちゃん死んじゃって。父ちゃん一人であたし達育ててくれててさ。服も兄ちゃんたちのお下がりなんだ。だから、一人だけかわいい服買ってって、言うのもなんか嫌でさ」

「クロアちゃん…」

「でもさ、獣型だと服とか関係ないじゃん。カナトたくさんかわいいって言ってくれたし。だから、ついつい獣型でここ来ちゃうんだ」


 へへっと笑うクロアちゃんは、健気すぎてこちらが泣きたくなってしまう。

 思わずがばっとクロアちゃんを抱きしめて叫ぶ。


「クロアちゃんはかわいい、世界一可愛いよ。俺が保証するからああぁっ」

「こらっ」

「いてっ」


 情けない声で叫んでいると、ナガセさんにパコっと頭をはたかれた。


「セクハラはお姉さん見過ごせないわ」

「しまった!ついクロアちゃんの可愛さに理性が…」


 ぱっとクロアちゃんを離すと、ナガセさんにじとりと睨まれる。当のクロアちゃんはそのやりとりが面白かったようで、ケラケラ笑っている。


「ねぇ、クロアちゃん。私や家族のお下がりでよければ、女の子用の服があるからいる?実家にあるから、取り寄せに少し時間かかっちゃうけど」

「えっ!」

「えっ!」


 クロアちゃんと二人でナガセさんを見つめる。


「いい、の?」

「いいわよ。なんとなくとってあるだけで、誰も着ないしね。あ、でもヒト用だから上はともかく、尻尾がね。お直しの方法、一緒にお勉強しようか。お裁縫できれば、男の子の服でもちょっとしたアレンジとかできるかもしれないし」

「わぁ、マキ、だいすき!」


 よっぽど嬉しかったのか、クロアちゃんがナガセさんにぎゅっと抱きつく。その頭をよしよししてあげてるナガセさん。ずーるーいー!

 嫉妬に狂っていると、さらに間が悪くお客さんが来てしまった。


「いらっしゃいませ〜」


 二人は取り込み中なので、俺が接客に行かねば。


 くそう、男に生まれたこの身が憎い。いや、まてよ。俺にも妹がいるじゃないか!服くれないか聞いてみよう。

 本当はビスリーで買う方が楽だし送料とか考えると安いかもだけど、きっとそれはクロアちゃんが受け取り辛くなってしまうだろう。


「あの、冷蔵庫が冷えなくなっちゃって。6年くらい前に買ったやつなんですけど。買い替えた方がいいんですかね」

「6年でしたら、もうそろそろ寿命ですね。修理よりは新しく買い替えられる方が費用的にもご負担が少なくなりますよ」


 お客さんの対応をしながら、頭の中ではクロアちゃんに喜んでもらう方法を目まぐるしく考えている。


 ナガセさんに負けてられない。俺だって、やる時はやる男だ!




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