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脳筋少女シヴィ、辺境の魔物を倒しまくっていたら将軍に!? 〜地位も恋も手に入れたい少女は今日もアルマゲドンを撃ち込む!〜

 



 とある国の魔法学園に通う黒髪の少女――シヴィは、十八歳の誕生日を迎えたこの日、厳かな雰囲気を醸し出す教会の前で、とてつもなく張り切っていた。

 それは今日という日に関係している。


 十八歳の誕生日に教会で『神託』を得られるからだった。

 神託は、その人の職業を左右する。

 魔法学校に通う生徒は、必ずと言っていいほどに、魔法属性特化型の固有魔法を手に入れられるからだった。


 基本的にどの属性の魔法も使えるのだが、魔法属性を持つ者は、その属性の魔力消費がとても少なくて済む。そして、効果は平均の倍近く上がる。


 シヴィの魔法属性は『聖』だ。

 聖属性は、とても珍しく、癒やしの力に特化しており、学園中の生徒や教師から羨ましがられるそんざいであった。

 そして、聖属性の固有魔法を得たあかつきには、試験なしで国営の魔法省で働く事が出来る。

 いわゆる『国家公務員』だ。


「絶対に、聖の固有魔法ください! 聖の固有魔法ください! 聖の固有魔法ください!」


 シヴィは教会の神像の前で、仁王立ちで両手を天にかかげ、神に願った。

 神への願い方は、自由であり、心さえ籠もっていればいい、と神官に言われたからである。

 

『貴女は…………元気がよいので、攻撃系の固有魔法がいいでしょう』

「わー! ありがとうございますっっ!」


 ターンアンデッドなどのアンデット系を浄化する魔法などは一般に存在しているが、固有魔法はとても希少だった。

 シヴィは取得した固有魔法の名前と効果を見て、とても喜んだ。

 飛び跳ねるほど、喜んだ。




 シヴィの固有魔法は、神官、両親、学園、を驚かせた。

 報告を受けた国が、老将軍にシヴィを迎えに行くよう命令する程の効果を持っていた。


「…………もう一度、説明してくれるかな?」

「はい! 聖の固有魔法で【アルマゲドン】です!」


 【アルマゲドン】は、天空から拳大の隕石を光の速さで降り注ぐものだった。

 使用者が悪と判断する物・者が対象。

 一日の使用制限は、無限。


「神が、元気がいいから、と?」

「はい!」

「そ、そう、か――――」


 シヴィは国軍に迎え入れられ、国が進めている『魔境攻略作戦』という辺境での任務に着くことになった。

 国軍も『国家公務員』なのでシヴィは大満足だった。

 シヴィの両親も、彼女が大人しく治療院などに入れる気がしていなかったので、ほんの少し心配ではあったが、基本的には諸手を挙げて喜んだ。


 魔境攻略作戦の最前線に送られたその日、先輩方から実力を見たいとの声に応えて、シヴィは魔境にひしめく魔物たちに、【アルマゲドン】を喰らわせていく。


「うりゃぁ! アルマゲドーン! どりゃぁ! アルマゲドォォォン!」

「「……」」

「どうっすか! 合格ですか!?」

「お、おぉぉん。ごうか、く……だ」

「やったー! あ! ドラゴンだ! うりゃぁ! アルマゲー、ドーン!」

「「…………」」


 シヴィは、持ち前の明るさと、脳筋と、固有魔法で、とても楽しく『国家公務員』ライフを満喫した。

 



 辺境に来て二年、彼女は『デストロイヤー・シヴィ』という、本人的には超カッコイイ! 二つ名を手に入れることとなる――――。




 ◇◆◇◆◇




 シヴィは悩んでいた。

 魔境攻略作戦に参加して五年。

 国から英雄の称号を与えられる程の功績を挙げ、老齢の将軍から副将軍に指名された。が、それは特に気にしていない。


 シヴィがいま一番気にしているのは、彼氏がいないことである。

 同期の女子たちがどんどんと結婚していく。

 何なら男子たちもどんどんと結婚していく。

 取り残された気分になり、気落ちが激しくて戦闘にもやる気が出ないのだ。


「……あるまげどん」


 前線にある砦の防壁にイスを置き、脚を組み肘置きに頬杖をつく。

 やる気なさげにフイッと指を動かし、固有魔法【アルマゲドン】を撃つ。適当に。

 それでも攻撃の威力は下がらないし、命中もする。

 だからこそ誰も注意できなかった。今までは。


「シヴィ副将軍、真面目にやってください」

「はいはい、あーるまーげどーん」


 天空から隕石が降り注ぎ、飛来してきていたドラゴンに全弾命中。

 どう転んでも当たる。

 当ててはいけない人、いけない物には、絶対に当たらない。

 それが聖属性所以(ゆえん)の凄いところでもある。

 

「副将軍――――」


 最近シヴィの部下に着任したセラフィーノ。

 いままで彼女の周りにはいなかったタイプだ。

 細身で物腰も柔らかく、薄青の髪とオレンジ色の瞳が特徴的だった。

 彼は固有魔法は持ち合わせていなかったが、とても頭のいい男だった。地位も割と高いとかなんとか言われているが、シヴィは覚えていない。

 学園では魔法の研究に力を入れていたらしい、ということだけは覚えていた。なぜなら、その研究は『詠唱と心理的影響』。


 そんな彼に、一緒に固有魔法の解析をしないかと誘われ、暇だったシヴィは両手を挙げて乗った。


「あ~るまげぇぇどぉ〜ん」

「凄いですね。歌っても出るんですか……」

「出るよー。超小声でも出るんだよねぇ。謎」


 略すとどうなるか?

 【ドン】 ―― 子供のこぶし程度の石がひとつ降ってきた。


 無詠唱だと?

 【……】 ―― 何も起こらなかった。


 厨二病的詠唱だと?

 【我が目覚めし聖の力よ、我を妨げるものすべてを消滅させよ、天空より降り注げ! アルマゲドン!】 ―― 引くほどに威力が増加した。使うのなら、ここぞというときのみにしようと誓った。

 

 二人で何ヶ月も様々なパターンを検証した。


「ねぇねぇ、最近【アルマゲドン】の威力上がってない?」

「……確かに。毎日見ているので気づきませんでしたが…………言われてみると隕石の大きさが…………って、今のでは出ないんですか?」

「え、出ないよ? 出そうと思ってないし」

「っ――――!」


 セラフィーノが慌てて今までの検証結果を確認しだした。

 そして、これからはもうちょっと別の方向から研究したいと言われ、特に異論はなかったのでシヴィは了承した。

 暇な毎日がまた楽しくなりそうだと思う程度だった。




「は? はぁぁ!?」

「ですから、今から抱き合いましょう」


 ―――――だだだ抱き合うとはぁぁぁ!?


 恋愛経験値ゼロのシヴィは、『抱き合う』という言葉に脳がパンクしそうだった。


「ほら、はい」


 ぽすんとセラフィーノの胸に収まる。

 シヴィは顔が真っ赤になって、息も絶え絶えになっていた。


「はい。じゃあ、詠唱してくださいね」

「………………アルマゲ、ドンっ!」

「いたっ!」


 シヴィは踵で力いっぱいセラフィーノの足を踏みつけた。

 乙女心を踏みにじった罪は重いのだ。

 セラフィーノが蹲っている間に、近くにいた部下たちに大型の魔獣が来たら呼んでと言い残して部屋に戻る。

 

 ボスリとベッドに倒れ込む。

 なぜこんなに胃が重たいのか、シヴィにはよく分からなかった。


 結局、この日は誰も呼びに来なかった。

 



 ◇◆◇◆◇




 この数年、魔境攻略作戦という名前ではあったものの、砦や辺境の村を襲ってくる魔獣を倒すだけだった。

 国王が崩御し、代替わりが起こった。

 それから三ヶ月後、新国王から国土の拡大を図る為に魔境攻略を進めるようにとの命令が下った。

 

 この作戦はかなり無謀なものだった。

 シヴィがいるからこそ立てられたもの。

 そして、シヴィがいたとしても、死者が半数以下は出るだろうと予想されていた。

 シヴィは、その予想を絶対に覆してみせると誓った。


「――――さて。行きますか」

「はい」

「いや、セラフィーノは留守番ね」

「は?」


 セラフィーノの戦闘力を考えると、連れてはいけないと思った。

 口論になったが、彼に口で勝てるはずもなく。結局、前線に連れて行くことになってしまう。


 襲いくる魔獣たちを隊員たちは自らの力で倒していく、セラフィーノ以外は。

 猿型の魔獣に一斉に飛びかかられ、他の隊員は対応できていたが、やはりセラフィーノは違った。


「危ない! ドン!」


 略式詠唱で小さな隕石を降らせ、魔獣に襲われそうになっていたセラフィーノを助けた。


「……ありがとうございます」


 悔しそうにしながらも礼を言うセラフィーノに、申し訳ない気持ちになる。


「その、セラフィーノはさ、頭脳戦得意じゃん」

「……はい」

「私の側で、どう攻略していくか、指示してよ」

「っ……はい」


 悔しそうだったセラフィーノの顔が、みるみるうちに精悍になっていった。




 数週間に及ぶ攻略作戦。

 隊全体が疲弊していた。

 シヴィは初日からずっと先頭で戦い続けていたこともあり、誰よりも疲れているはずなのに、休みを取らないでいた。


「そろそろ仮眠を――――」

「まだ休まなくていい」

「もう目的地直前なんだ! いい加減に寝ろ!」


 セラフィーノに腕を掴まれ、副将軍専用のテントに押し込まれた。

 ベッドにボスリと投げ入れられ、珍しく「キャッ」と叫んでしまう。

 シヴィは、自分らしくない言葉が自分から出るのが許せなかった。きっと笑われると思った。が、セラフィーノの反応は違うものだった。


「……っ、すみません。お願いですから、眠って下さい」


 頬を撫でられたあと、手でそっと目元を覆われた。こうされては、目蓋を閉じるほかない。


「副将軍の属性魔法で疲れを感じにくいのはわかります。ですが、精神は疲弊します。それを睡眠でリセットしてほしいんです」

「…………私は、誰も死なせたくない」

「解っています。全員が、シヴィ副将軍のお気持ちを、しっかりと胸に抱いています。絶対に、誰も死にません。だから、休んで」

「……うん。ごめん、寝るね」


 次の瞬間には、シヴィはぐっすりと深い眠りに落ちた。


「シヴィ……良い夢を」


 テントから出たセラフィーノは隊員たちに指示を出す。

 シヴィの睡眠を妨害しないために。

 シヴィを悲しませないために。


「誰一人、死ぬことは許さない」

「「はっ!」」




 ぶわりと水面から浮上するような感覚と共に、夜営テントのベッドから起き上がったシヴィは、慌てて辺りを見回した。


「おはようございます」

「っ!? おはよ……え、ずっとここにいた?」


 ベッド横のイスに座り、優雅に足を組んで本を読んでいるセラフィーノ。

 シヴィは寝顔を見られたのかと思うと、妙な恥ずかしさからなのか、頬が熱を持った事に気付いた。


 ――――熱い。


「さぁ、そろそろ片付けますか」


 それなのに、セラフィーノは何でもないような態度でテントから出ていく。

 それを見てシヴィはモヤモヤとしっぱなしだった。

 昨日、なんだかセラフィーノと近付けた気がしたのに、と。


 シヴィは知らない。

 彼女が寝たあと、隊員たちに的確な指示を飛ばし、様々な魔獣を屠り、彼女の睡眠を守りきったことを。

 彼女のテントに誰一人近付けず、セラフィーノが夜通し彼女を守っていたことを。




 何も知らないシヴィはモヤモヤとしていた。

 モヤモヤのままに攻略予定地に到着。

 そこで巨大なエンシェントドラゴンが三匹出現した。


「三匹だと!?」

「生活域が脅かされてるからだろうね」


 隊員たちの驚きを無視し、シヴィは冷静に分析する。

 この場はセラフィーノに任せて大丈夫だろう、と。

 共に戦い続けたことで、各隊員の癖や能力は把握している。隊員たちとも強い絆が生まれている。


「みんな、しばらく任せていい?」

「「はいっ!」」


 総員で戦闘にあたりつつ、シヴィは厨二病的詠唱を始める。


「我に目覚めし聖の力よ、我らを妨げるものすべてを消滅させよ。天空より幾筋もの隕石を降り注げ! アルマゲドン!」

「……凄い」


 皆が降り注ぐ隕石群を見上げる。

 ぽかんとするセラフィーノ。

 ドヤ顔のシヴィ。




 予定していた行程を終わらせて砦に戻ると、大歓声で迎えられた。

 

 戻って一週間もしないうちに、王都へ呼び戻される。

 国王より褒められ、将軍への昇格を受けた。

 老齢の将軍は嬉しそうに笑っていたので、シヴィはホッとした。ほんの少し、彼から役職を奪ったのではと心配していたから。

 彼がいなければ、シヴィはここまで上り詰めることはなかったからだ。


 宰相やら文官やらが何か報告をしていると、国王から褒美をもらえる話になった。

 

「その方も随分と良い年齢になった。そろそろ、結婚は考えないのかな?」

「まぁ、できれば?」

「ふむ。相手はいないのだろう?」


 なぜ断定で言うのか、とシヴィはかなりイラッとしたが、事実ではあるので否定はしなかった。


「王太子は君の大ファンだ。どうだろう、茶の席を設けてみないか?」


 国王から王太子との結婚を仄めかされた。

 しまったなー、と堂々と顔を顰めるシヴィに国王は苦笑いを隠せずにいた時だった。


「陛下、彼女は私の監視下にありますので」


 何故かセラフィーノが割り込んできた。

 焦るシヴィだったが、国王はなぜか了承し、褒美はまた後日度いうことで解放された。




 謁見室を出てパーティー会場に向かいながら、シヴィは隣を歩く薄青い髪を持つ男を見た。

 出会った頃より、少し精悍になったような気もする。


「セラフィーノ?」

「貴女の無謀さを受け入れられるのは、私くらいですからね」


 ツンと顔を背けているが、頬が少し赤いのが見える。


「……国王陛下の言葉って、遮って大丈夫だったの?」

「まぁ…………息子なので」

「は!?」


 ――――衝撃の事実!

 

「いえ、みんな知ってましたよ」


 慌てて近くにいた他の部下たちを見ると、ブフゥと吹き出された。

 第六王子だと言われ、シヴィは、王様めちゃんこ子供いたんだ、などと全く関係のない感想を言った。

 そのせいでセラフィーノの機嫌は急降下。

 戦々恐々とする部下たち。


「……そういうことで。覚悟、してくださいね?」


 ――――どういうことで!?


 恋も安定の職業も地位も手には入れたけど、何だか予想外の方向。

 でもまぁ、【アルマゲドン】とセラフィーノのがいれば、大概大丈夫だなと思い、笑顔になるシヴィだった。


「さ! 夜会のご飯食べまくろ!」

「夜会のご飯を食べまくる人、初めて見ましたよ」

「へ? あ、これ美味しいよ」

「はいはい」


 セラフィーノは仕方なさそうに笑って、シヴィの横に並ぶ。

 それは、彼女が将軍の職を辞するまで続いたという。




 ―― fin ――




閲覧ありがとうございます!


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ぜひ、ぜひぜひぃぃ!(土下座)

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