AI小説で儲ける方法
「お前、まだ自分で小説を書いているのか?」
久しぶりに会った友人に馬鹿にされた。彼とは小説投稿サイトを通じて知り合った。書き手仲間の一人だ。
僕は馬鹿にされて少しばかり困惑していた。何故なら、彼は今も頻繁に小説を投稿しているからだ。だからそう言ってみると、「俺は自分では書いてないよ」なんて言って来る。ゴーストライターを雇ったのかと思ったのだけどどうも違うらしい。
「AIだよ」
と、彼は言った。
「AI?」
「そう。大体のストーリーや設定を指定すると、AIが自動的に執筆をしてくれるんだよ。指示すれば、文体までその通りに仕上げてくれるんだぜ。わざわざ人間が書く必要なんてない」
「へぇ」とそれに僕。正直に言うと、彼が何を言っているのかがよく分からなかった。いや、もちろん、AIに小説を書かせて楽をしているっていうのは分かる。でも、どうしてそんな事をする必要があるのかが分からなかったのだ。
「いや、小説を書くのが楽しいだよね? それをAIにやらせてなんか意味があるの?」
だからそう訊いてみたのだ。すると彼は「は?」と大きな疑問符を伴った声を上げたのだった。
「AIにやらせた方が楽だからに決まっているだろうが」
どうにも話が噛み合わない。それからしばらく話をして理解をした。彼は小説を投稿してユーザーからのポイントを得て、承認欲求を満たしたり、出版して金を稼ぐ事を目的にしていたのであって、小説を書く事自体を楽しんでいた訳ではなかったらしい。
僕は小説を書く事自体を楽しんでいるから、彼とは根本から目的が違っているのだ。
因みに、彼のように行動の外に動機がある事を“外発的動機づけ”と呼び、僕のように行動自体に動機がある事を“内発的動機づけ”と呼ぶ。
「もしかして、最近君の小説がポイントを稼ぐようになったのってAIを利用しているから?」
そう尋ねてみると、彼は「その通りさ」と得意げに答えた。
「AIに執筆させて余った時間を宣伝活動に充ててるんだ。お陰で、流行りも迅速に取り入れられている。
俺は賢くAIを使って賢く稼ぐよ。これからはAIを巧く使った人間が出世する時代なんだからな」
彼の投稿している小説は高ポイントを稼いでいて、ランキング上位に入っている。そろそろ出版の声がかかってもおかしくない頃だ。凄いな、なんて思っていたのだけど……
僕は少し考えると、
「確かアメリカの著作権局が、AIの創作物は著作権登録の対象外とするって決定を下したよね? 日本もいずれ同様の決定をするかもよ?」
そう訊いてみた。しかし彼は特に気にかける様子も見せずにこう答える。
「それ、別にAIの創作物で金を稼いじゃいけないって話じゃないだろう? なら、関係ないよ」
まあ、確かにその通りだ。AIの創作物はコピーされても文句を言えないってだけ。しかも、小説投稿サイト界隈では、既にコピーみたいな作品ばかりになっているし、今更感がかなりある。
「どちらにしろ、僕はAIは使わないよ。僕は創作自体を楽しんでいるんだから。金を稼ぐのが目的じゃない」
そう言った僕を、「そうかい」と言って彼は呆れた様子で見つめていた。
それから5年程の時が流れた。僕は久しぶりに彼と会っていた。
「しかし、巧くやりやがったよな、お前。そういう魂胆だったなら、俺にも教えてくれよ」
そう彼から羨ましがられた。何故かと言うと、僕がAIのお陰で毎月5万円程も稼げていたからだ。断っておくと、僕はAIを使ってなんかいないし、そもそも出版もできていない。更に言うと、出版に成功しているのは彼の方で、AIに執筆させた小説が商業作品として世に出ている。
「いや、こんな事になるだなんて、少しも思っていなかったんだよ」
と、僕は応える。彼は疑わしそうに「本当か~?」と言って来た。
CDやMD、DVDなどの販売価格には、著作者に支払う為の金額が含まれているのを知っているだろうか?
これら記録媒体を用いれば、容易に著作権を持った創作物の複製が可能だ。当然ながら、著作権者は損失を受ける。その代わりにそのような著作権料が支払われているのだ。
そして、なんと、AIについてもこれと同じ様な取り決めが為されたのだ。AIの創作物で利益を得た場合は、その5%ほどを著作者に支払わなくてはならない。
問題は、AIはWeb上に公開された創作物を取り込んでいる点だった。
もちろん、Web上に公開された創作物の著作者に自動的にお金を支払うなんて事はできないから、申請者のみという事になるのだけど、その為には煩雑な手続きが必要で、個人で公開している場合はかなり難しい。ただし、小説投稿サイトに登録しているのなら、運営が代わりに行ってくれるので、振込先口座を登録するくらいしか手間がかからない。もちろん、手数料として何割かは取られてしまうのだけど。
まあ、つまりは、僕はそのお陰で毎月著作権料を受け取れる立場になっているのだ。
もちろん、創作物なら何でも良いという訳ではない。真っ当なオリジナリティのある創作物でなければ認められないのだけど、僕はそのような作品を長年に渡って投稿し続けて来たから十分にその資格があるのだ。
「本当に巧くやりやがってこの野郎~。俺なんて、さんざん宣伝をがんばって出版したのに50万くらいしか稼げなかったんだぜ」
彼が悔しそうにそう言った。
それを聞いて、僕は“なんだかな”と思ったりしていた。
もし、こんな制度ができたとしても、少なくとも文章じゃ、そんなにお金は稼げないと思いますけどね。