5
竜王誕生の地は今、その五分の一の領土が廃墟と化していた。辛うじて国としての原型を留めているものの、国民は明日の生活で手一杯という程に追い詰められている。その原因は全部蟲にある。大繁殖した蟲が作物を食い荒らし、飢饉が流行っているのだ。
「取り敢えず、報告してくれる?」
聖竜国、中央第一区。その中心に聳え立つ塔からは、第一区の全貌が見渡せる。その最上階の王座に腰掛けるこの国の王は紅の御髪を持つ美しい青年である。問いかけられた竜兵団第三隊隊長はその姿に惚けながらも、口を開いた。
「ハッ。第二十六区に区長を捕縛に出兵したところ、区長であるシリウス様の姿は既にありませんでした。城内地下室からリグゼル様が身体を欠損し、倒れておりましたので保護をしました」
「ブランが?」
「はい、ブランシュ・リグセル様です。一命は取り留めましたが、両足とも足首まで蛆によって喰われ、両目も同じような状態でした」
「ふうん」
ブランシュ・リグセル正妃候補の一人である。ブランシュが幼い頃から交流のあるはずの国王はブランシュの身に起きた悲惨な出来事について、これっぽっちの関心も持っていない。
「少しはご心配なさったらいかがですか」
竜王の気のない反応に、傍に仕える秘書官が苦言を呈す。
「してるさ。でもそれ以上に今使える駒が減ったことが問題なんだよ」
竜王はため息を吐いた。
「ブランシュの事は残念だけど候補から外してくれる?そもそも…いや。シリウスのことは分かった。娘が居たはずだよね?捕縛できた?」
「いえ、地下通路が非常に入り組んでいまして時間がかかるかと」
「…あの塵屑に娘がいたのですか」
秘書官はシリウスのことを嫌っている。アレは化け物であり、王国の害悪でもある。
「アルヴァ…とか言ったかな。シリウスの実の娘なんだけどね?なんでも蟲を操れるとか」
「蟲をですか…」
「食害をどうにかできるかと言ったら無理なんだけどね。一人で広範囲に分布する蟲を止めるのは無理だろうし」
三番隊隊長は言いにくそうに追加も報告をした。
「それと…リグゼル家から正式にシリウス・アングラレークとその娘であるアルヴァに対して嘆願が来ておりますが」
正妃候補のブランシュ・リグセルの歴史ある生家である。
「…まあ、僕に取り入るパイプだもんね。民が飢え死にしている中で自分達は安全だと思えることが不思議だよ。頭にウジでも湧いてんだろーね」
「…原因は未だ不明ですよね」
「いや、ある程度は見当ついてるよ。蟲の王様ベルゼビュートによる蟲達の狂乱だろう」
「それは……あり得るのですか」
聖竜国には強大な魔物が三体いるとされる。その中の一体が蟲の王ベルゼビュートだ。古代書物に古くから登場するいわば行ける伝説であり、ある書物には蟲達の狂乱により一国が滅びた描写もある。
「そいつにシリウスの実子を当てようと思ってる。そうだな、ブランシュには兄がいたよな?」
「はい。竜兵隊2番隊隊長ですね」
「これに私兵じゃなくて、竜兵隊2番隊も動かしていいから生きたまま捕縛しろって命令しといて。利用し終わったら煮るなり焼くなり好きにしていいよって」
読んでくださりありがとうございました。