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 空が明るくなって来た。俺は雲が紫に染まっている様子を仰向けに見ていた。


 それほど時間は経っていない。頭の中を整理したかったのだ。刺された傷からは血が溢れていたが、今は固まっていた。頭がクラクラする。貧血なのかもしれない。


 夢ならいいのに。何度か思ったソレを性懲りもなくまた考える。そうでなければ大掛かりなドッキリとか。だが、ナイフで肉を割いた時の感覚が手にこびりついて、夢ではないと主張している。


 俺はゆっくりと起き上がった。昨日は雨だったのだろうか、地面は緩く、背中はじっとり湿り、髪も泥がついていた。


 いやでも目に入る死体。目を見開き、顔を歪めた姿。苦悶の表情は、俺を責めているように感じる。


「…」


あなたが悪いんだ。


正当防衛、だろう。人を殺そうとしたんだから。俺が被害者のはずだ。仕方がなかったはずだ。


 自首すべきだろう。スマホを無意識のうちに探してため息が出る。さすがは文明の利器、依存しまくっていることを再確認させられつつ、そんなものはないという事実に頭を掻きむしりたい衝動に襲われる。


 ここはいったいどこなのか。警察に連絡を取る為にも、母親に連絡とる為にも、スマホは必要で。俺は途方に暮れてしまった。


 いや、逆にチャンスなんじゃないか。遺体さえ無ければ警察は動かないと聞いたことがある。どこかの刑事ドラマで日本の行方不明者は年間数万人いるというのを見た。ここには俺以外誰も居らず、俺が殺したと知りようがない。


 俺にはそうしなきゃいけない理由もある。うちの家は貧乏で女手一つで母さんは大学まで行かせてくれた。返済しなきゃいけない学費。俺が刑務所に行ったら?前科がついたら?大学は退学する羽目になる。就職も上手くいかないだろう。母さんに迷惑かけたくない。


 ああ、俺の平凡で平穏で平静な日々が、ひどく恋しい。死体、否このこと自体どうすればいいのか。俺は自分の体を見て、何度目か宙を見上げた。触ってみればわかる、本物である。


 そして俺がいる場所はどこかということ。ここは日本なのだろうか?女と言葉が通じなかったことを鑑みるに外国だろうか?あの服装はどういうことだろう。過去にタイムスリップしたとか?この体は?別の誰かに成り代わったのか?人体実験?性別転換?


 次々浮かんでくる疑問に首を振る。大事なことはそこじゃ無い。元の生活に戻れるか、否か。


――無理だろ。


それが正当防衛だったとしても、人一人殺しておいて、何も変わらないはずがない。


 頭に渦巻く未来。報道陣に取り囲まれ、嘆く母親の姿。


(いつく)は悪い子じゃないんです、何か事情があるはずなんです』


高校時代の友達。


『いや、こんなことする奴には見えませんでした』


近所の人。


『小さい時は大声で挨拶してくれるいい子でした。なんでこんなことになったのか』


映される大学。批判するコメンテーター。


俺は怖かった。逃げたかった。積み重ねてきたものが全部崩れる瞬間から。努力が無に帰すその時から。母さんが泣き崩れる姿から。


 隠し通す。絶対に。


それが俺が決めた覚悟だった。

見て頂きありがとうございました。


主人公

青葉慈あおば いつく

年齢 19歳

性別 男

好きなもの 母の手料理

嫌いなもの 父親


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