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長編小説に初めての挑戦です。エタらないように気を付けます。
週一投稿します。あとに引けん。ううう。
これは彼女の罪の話であり、俺が受けるべき謂れもない罰の話である。
目を覚ますと暗闇が広がっていた。ベッドから落ちたのだろうか、背中に固い感触がある。勘弁してほしい。若干左手を動かすと腕に筋肉痛のような痛みを感じる。俺は右利きで、特に何か酷使した覚えが無い。スマホを探すために暗闇の中、床に手を這わせる。
今日は土曜日だが、母は早くから休日出勤だったはずだ。
スマホがない、近くにベッドもない。いつもは、寝相が悪いせいか何処かに行ってしまうスマホをすぐに見つけられるように保安灯を点けて寝ている筈だが、部屋は暗い。そして、なんとも言えない臭い。ここは俺の部屋…だよな。
膝と手で体を支え、四つん這いになる。スマホを探しライトを点けるためだ。暗く何も見えない部屋を照らして、様子を知りたい。しかし、先に壁に手が当たったので、スマホで明かりを点ける事は諦め、部屋の電気を点けるために立ち上がった。
また違和感を覚える。寝る前と着ている服が違う。寝る前は短パンに上は肌着だった。今は裸足だが、脹脛に布が当たっている。長袖であり、何故か手袋していた。
——ピチャッ、ガコッ
「…ぅ」
「ワッ」
どろりとした粘性のある生温かい液体が素足を濡らす。グニャっとした感触の後、硬い何かが足の甲に当たった。暗闇の中、視覚情報がないうえでのこのハプニングは俺を心の底から驚かせた。
——カチッ
壁にあるスイッチを押したらしい、途端に部屋が明るくなり目が眩んだ。
「うわああああああああああっっ」
ぽっかり空いた二つの空洞と目があった。床に薄ピンクのドレスを血に染めた少女が血塗れで倒れている。さっき蹴ったのは恐らく彼女の顔面だ。途端に襲ってくる強烈な血の匂い。あまりの気持ち悪さで胃の中のものを吐き出した。吐瀉物をぶち撒けた先は部屋の角である。下を向いた時、部屋の床には大きな円の中に小さな文字やよく分からない記号が書かれていることに気づいた。
視界の下端に写ったのは自分の体。フリルがふんだんに使われた黒いドレス、ざっくり開いた胸元から見える谷間である。
「…え?」
何で、こんなもの着てるんだっけ。この体はなんだ。作り物か何かか?口元を拭い、口端についた吐瀉物を拭う。唇を掠める何とも言えない硬い感触。例えるならカブトムシのような硬さと土の匂い。吐瀉物のついた濡れた黒い手袋を見れば。
「っっうへええあッ」
手袋を外し、迷わず壁に投げた。手袋にはびっしりと蟲が貼り付き、所狭しと胴を揺すっていた。よく見ずに条件反射で手袋を投げつけたが、黒くて小さく、カメムシを小さくしたようなフォルムだった。
「うっわ、キッショ!!」
慌てて、口元を手で払う。蟲が付いた訳ではなかったが、硬い感触が残っていて気持ち悪い。
思わず、見つけた死体のことが頭からすっぽ抜けた。暫くして落ち着くと、もう一度改めて見て、うへえ、と口から空気が漏れた。
少女の死体は金髪はバラバラに切られ、血の海の上に散らばっていた。本来目玉があるべき場所はぽっかりと空洞が空き、血が溢れて涙と混じっていた。両足が足首から下がなく、断面はギザギザで白い何かが蠢いていた。窪んだ眼孔も同様で、よく見ると蛆虫のような生き物が赤色の肉に紛れて見え隠れしていた。
「…ぅ、ぅー、…ぁ゛〜」
少女が口からゴキブリを吐きながら呻いた。唾液でテラテラ茶色く光りながら、ゴキブリはカサコソと地面を這う。
「ひぃッ」
生きてる…!
蛆虫に塗れ、殆ど虫の呼吸である少女。この少女は死んでいるわけではなかった。この死んだほうがマシだろう状況でも生きている。死体だと思いこんで感じていた生理的嫌悪は消えることなく、凄惨な姿で生き続けている少女に言い知れぬ気味悪ささえ感じていた。
どうすればいいのだろう。理解不能な現象が起こりすぎていて収拾がつかない。今、俺は知らない部屋にいて、女になって、何故かドレスを着ている。部屋には、瀕死の少女とその口から吐き出された一匹のゴキブリとカメムシがこびりついた手袋があった。
本当にどうしたらいいのだろう。俺は元来優柔不断なところがあるが果断に富んだ人間でもこの状況を乗り切る術を思いつけやしないだろう。
逃げたい。
俺はこの部屋の扉を見た。他に窓もなく、扉もなく、この部屋を出入り口はこの扉だけだ。
そもそも俺は医者でも何でもないただの大学生である。医学部に入学したとかならともかく、俺は眼鏡をかけた地味な文系男子である。どうにもできない。
「誰か…」
俺はここから出ることに決めた。助けを呼ぶしか、できることがないからだ。俺がここにいようが何にもならない。そう言い訳してこの不気味な場所から立ち去りたかった。
扉を開けると、廊下があった。足が濡れていることもあってか、石畳の床は冷え切っていた。上から慌ただしく音が聞こえる。右手には階段、左手には扉があった。
——ガチャッ
ドアノブが開き、現れたのは女性だった。
倒れていた少女もそうだったが、西洋人のような彫りの深い顔立ちで、綺麗な人だった。服装はドレス。胸元はパックリ空き、きらびやかなネックレスが光る。短剣のようなものを腰に提げている。女性は、蔑んだ目でこちらを見ると、話しかけてきた。
『……』
分からない。何か言っている、しかし何語か分からない。知っている言葉は、ヘルプミー、ボンジュール、カムサハムニダくらいである。口にしてみたが、どれも乏しい反応は得られず、女性は苛立たしげに何か言っていた。
俺はすっかり途方に暮れた。しかし、少女を見せるために、彼女の腕を引っ張ろうとした。
――パシッ
汚いものでも近づけられたように女性は手の甲を叩く。
「ちょ、何するんですか!こんなことしてる場合じゃないのに!」
思わず怒鳴ると、女性は顔を平手打ちした。
え?なんで平手打ち?
日常生活で平手打ち、というより暴力を受ける機会がない俺は茫然とした。女性は大人しくなった俺の二の腕の服を掴み、引っ張っていく。俺はなされるがまま、女性の後へついて行った。
手の甲と頬はじんじんと痛んでいた。
毎週土曜日(日曜日の朝には投稿していると思います)には投稿します。読んでいただきありがとうございました。