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79 定例会 第一議題

テーブルを強く叩いた勢いで立ち上がったエミリアは眦をこれ以上ないほど釣り上げて叫んだ。


「なにをおっしゃってるの?!その件に関しては当家とヴァンヘイデン家の間で解決済みなのよ、私とウィリアムが結婚することで両家に一切の遺恨はない、と!それをここで議題に上げるなど、一体どういうおつもり?!」


それには静かにマリアンが反応した。


「エミリア様とウィリアム様の結婚に関しては根も葉もない噂と、ヴァンヘイデン家から報告がある。それに確かウィリアム様は伴侶を迎えたばかりと聞いている」


「その通り、ウィルはエミリア嬢との結婚を望んではいない。それでエックハルト殿のことを流すつもりもない。そもそも我らに結婚の概念もなく、伴侶を迎えたばかりなのに妻を娶るという感覚も持ち合わせてはおらん。ヴァンヘイデン家としてはアイスラー家に物申すつもりがある。ウィルの伴侶である大輔どのをエックハルト殿は拉致したうえ監禁し、さらに己のものにしようと画策した。ウィルはそれを助けにいったまで。不幸なことにエックハルト殿は亡くなられてしまったが、それとこれは問題が違う。もともと掟では伴侶に手を出すものには死を、とある。なんら間違ったことはしていないのだから、アイスラー家との縁戚を必要とはしない。むしろヴァンヘイデン家としては2度と関わって欲しくないのがアイスラー家だといっても過言ではない」


アランがよく通る声ではっきりと言い切り、エミリアを無表情に見つめた。

あまりにも冷たい眼に、いきり立っていたエミリアがひっと息をのんだ。


「よって、ここで議題に上げられる理由も意味も私には理解できない。どういった意図あってのことであろうか」


ぎろりとクレモンを睨み、わざとらしくため息を大仰に吐いた。

さすがは好戦的なアラン様だ、とゴードンは表情にこそ表さないまでも内心では手放しで褒めていた。


「あれでなかなかアランはやるよ。威厳を放ったら私よりもよほど人を納得させられるだけのものを持っているから、任せるのが一番だ」


不安に思って出かける直前に問うた際の、答えた己の主の言葉が耳に蘇る。


「ヴァンパイアの掟ではそうかもしれないが、この会の…」


言いさしたクレモンの言葉を遮るように手を振ったアランは恐ろしく美しい、かつ見たものを竦み上がらせるような老獪な微笑みを向けた。


「面白いことを言う。ヴァンパイアの掟はヴァンパイア同士のもの。そしてこの会の基本理念に、互いの種に干渉しない、とあったはず。クレモン殿はそのことをいかに思し召しか」


周囲を見渡し、アランは続けた。


「もとより、この会は、よりよく人の中で生きていくために、各種が情報交換を目的として現在の形になったはず。それを何故このように我が一族を(あげつら)うかのようなことをなすのか、理解に苦しむ。是非とも説明をしていただきたい」


静かな抑揚なのに、恐ろしいほどの威圧感を発したアランに呼応するようにケンジが声を上げた。


「僕たちにも、言いたいことがあります」


突然の参戦に、クレモンの眼が白黒する。

さすがにケンジの横槍に驚いたのか、マリアンすら眼を見開いて彼を見た。


「うちの若い子たちがやたらと凶暴化する事件が頻発しました。悩んだ僕たちはサー・ウィリアムに相談しました」


場が見事に騒めく。

ゴードンはそういうことにしたのか、と思ったが、この場ではじめて知ったとわからないように感情を押し隠した。アランに至っては薄く笑って、余裕の表情を浮かべている。


「というのも魔術師が関与しているようだったからです」


これにはクレモンが慄いて、椅子から滑り落ちそうになった。


「凶暴化した子たちの中にはヴァンヘイデン家のヴァンパイアを襲ったことが原因で命を落としたりもしました。その子たちの背中と、ほかにも凶暴化して人を襲っていた子たちの背中に焼き印が見つかりました」


ケンジは声を張り上げて言い切ると、クレモンを睨みつけた。


「魔法陣です」


一瞬にして会場の空気が凍った。

だれも言葉を発することができない。逸朗から結婚を断られた事実にショックを隠せなかったエミリアでさえ、ことの重大さに口を鯉のようにパクパクさせている。

クレモンが震える指でケンジを指し、テーブルを掴まないと座っていられないほど動揺した態度で金切り声を上げた。


「しょ、しょ、証拠はあるのか!」


サスペンスで言う、まさに自白のトリガー、名台詞、証拠はあるのか。

本当にその場になると言うんだな、とケンジはこんなときなのに妙に感心してしまった。


「もちろん、証拠もなしに、若輩の僕が発言できるわけもないですよ」


「!」


「宜しければ、この場に提出しますよ」


飄々と言ってのけ、ケンジはスマホを手に取った。


「待ちなさい。証拠提出はあとから頼む。まずは議題を先に進めたい」


あまりの衝撃に呼吸も出来ない様子のクレモンを叱咤するように扇でテーブルを叩くと、マリアンが静かにケンジを静止させた。


「第二の議題を…」


「待ってください!それでは人狼に対してあまりにも失礼な扱いではないですか!」


ケンジが声を荒げる。が、マリアンは態度を改める気はない。


「人狼の、その件に関してはヴァンヘイデン家からも人狼からもこの場ではじめて出た話。精査するのは後になるのは仕方のないこと。まずは上がっている議題から片付けていくのが筋というもの。それもわからずこの場にいるのはそれぞれ当主を担っている立場としてはいかがであろうか」


冷酷冷静に突き詰められ、ケンジは唸りをあげることしかできない。


「ならばヴァンヘイデン家からもこのことに関して、のちほどきちんと議題にあげてもらうよう、進言する」


アランが淡々と言って、やっとケンジは承知しました、と頷いた。


「では、クレモン殿、第二の議題を」


マリアンの助け舟に息を吹き返したクレモンが次の議題を口にした。


「では第二の議題、ヴァンヘイデン家がアイスラー家を壊滅した件に関して!」


今度は正真正銘の悲鳴がエミリアの口から発せられた。


ここでこのカードを切るか…


さすがのアランも思わずため息をついてしまった。


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