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74 ジョシュア、大輔の騎士になる

だからゴードン様を怒らせちゃいけないって大輔さまが怖がるんだって…


ダンカンは燃え盛る塔の前で脇にヴィクトーを抱えたまま、呆然と崩れ落ちるさまを眺めていた。主屋の屋敷のほうは燃えてこそいないが、半壊状態になっている。

それもこれもゴードンが一人でやってのけた所業である。

ひと蹴りで壁が吹き飛び、ひと薙ぎすれば、その鋭い爪が壁を切り裂き、ひと殴りすれば家具ごと壁が粉砕する荒業で、声も立てずににこにこと黒い笑顔を浮かべながら屋敷を半壊にしていくゴードンの姿を見て、ジョシュアは呆気に取られて探しだしたヴィクトーを落とし、ダンカンは危うく捕らえたヴァンパイアを逃すところだった。


結局、ヴィクトー以外の証拠はちょっとした書類程度しか残っておらず、あまり大した収穫はなかったのだが、アメリカで行われたヴァンパイア狩りの半分はアイスラー家のヴァンパイアがクレモンと組んで行っていたことがわかる証拠書類があったので、これで追い込みをかけることにして、ゴードンは


「あとは憂さ晴らしですね。ツケはきちんと払っていただかなくては」


口元に浮かぶ真っ黒な微笑みを隠すこともなく宣うと嬉々として破壊活動に及んだのだ。


「それにしても蹴りだけで塔を半壊するとは思ってもなかったよ、非常識な人だね、彼は」


ジョシュアが大切そうに書類を抱え、かろうじて形を残している塔をダンカンの隣で眺めながら呟いた。燃え盛る炎が起こす上昇気流で、周囲に風が巻き、轟々と音を立てているが、その呟きはしっかりと耳に届いた。

ヴィクトーを抱えなおしたダンカンは、塔に火を放ったあとアイスラー家の車を拝借する、と言って消えていったゴードンがいるだろう、車庫のほうへ視線をやった。


「燃やす、必要って…」


「僕はなかったと思う。たぶん、八つ当たりだよ、思ったほどの収穫がなかったから…」


捕らえたものを縛り上げながら、呆気にとられた口調でジョシュアは言った。

生かしておかねば、と言っていたアイスラー家のヴァンパイアも塔の地下で逃げようもなく焼け死んだろうと思うと、ジョシュアはゴードンの激怒をあからさまに見た気がした。

いま、手元で縛られている彼らも生かしてはおかないのだろうか、と一抹の不安を胸に抱きながらも、彼はゴードンを待つしかない。


「だよな…スゲー半端ねぇ…」


意識を奪っておいたヴィクトーが僅かに身動ぎした感覚があって、ダンカンがもう一度締め落とす。すぐにくたりと全身から力が抜けたので、肩に担ぎなおした。


これはヴァンパイア狩りをされたヴァンヘイデン家の憤怒が起こしたことだと、知らしめるための所業だ。

そしてサー・ウィリアムの意に添わない婚姻で伴侶を拐かしたことを誤魔化そうとした償いでもある、と。


穏やかな表情のまま、ゴードンはヴァンヘイデン家の怒りを体現したのだ。


アイスラー家の高級車がふたりの前で停まり、ゴードンが中から手招きする。

無言のまま、一瞬視線を交わしたふたりはヴィクトーをトランクに突っ込むと車の後部座席に乗り込んだ。

どうやら縛り上げられたヴァンパイアは命拾いしたようだ、とゴードンに知られないようにジョシュアは安堵の息を吐いた。


「では、参りましょうか。飛行機は押さえましたので、ヴィクトーは荷物として扱いますね。空港についたら、ガレージでスーツケースに詰めます。あたなたちの日用品等は現地で買い揃えます。わたくしのものはすでに送っておりますので、ご心配なく」


そのとき大きな音を立てて、なんとか塔の形を保っていたものが崩れ落ちた。

それにちらりと視線をやって


「すっきり致しましたね、こんな屋敷、ないほうが美しいのです」


と素晴らしく美しい微笑みを浮かべた。

引き攣った愛想笑いをなんとかみせたふたりは、ゴードンには逆らわない、と固く心に誓い合った。



定例会を迎えた、その当日の朝。

俺が目を覚ますと、まだ深く眠ったままの逸朗に強く抱きしめられていた。

まったく身動きできないくらい抱かれているが、抜けようと暴れると余計にきつくホールドされることを学んでいるので、俺は逆に逸朗にくっついて囁く。


「苦しいよ、逸朗」


それから彼の整った唇に軽く自分のを合わせると、すぐに彼の腕の力が緩んだ。

よし、と俺はするりと抜けて、ガウンを着ると窓まで行った。

外はまだ夜明け前の気配が漂い、東の空がうっすらと赤く染まりつつあった。

シャワーを浴びようかと、踵を返そうとしたとき、プールサイドに人影が見えた気がした。

気になって俺は覗き込み、息をのんだ。すぐに走って階下に向かう。


「ジョシュア!」


男をひとり抱えたダンカンと、いかにもビジネスマン的な書類カバンを持ったジョシュアがプールサイドに立っていた。


「ダンカン!」


プールサイドに続くドアを大きく開け放ち、飛び出した俺を見たジョシュアが慌てたように駆け寄ってきた。

そして俺の前で唐突に跪く。

深く頭を下げて、感極まったように声を掠れさせた。


「大輔さま、ジョシュア・ツェペッシュ・ヴァンヘイデンはここに永遠の忠誠をお誓い申し上げます。いついかなるときもあなたの盾となり、剣となることを誓います。僕の命はあなたのために捧げます。その代わり…」


喉が詰まったようにぐぐっと唸り、


「あなたの、あなたの終生変わらぬ信頼を僕に与えてくださるよう、願い奉ります!」


言い切ると、さらに深く深く沈みこむ。

俺はヘンリーとは少し違うけれど、心からの誓いの言葉にとても感動していた。

そして無事に俺のもとに帰ってきて、騎士の誓いを立ててくれた彼のことが、本当に愛おしいと思った。

その横で呆れた顔でジョシュアを見ているダンカンにちらりと視線を送ったあと、俺はジョシュアを抱きしめた。ダンカンは冷めた眼をしつつ、珍しくもほわりと口元を緩めていた。


「ありがとう、嬉しいよ。これからも宜しくね」


震えていたジョシュアが、俺の言葉で泣き崩れた。


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