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69 ダンカンとジョシュアの再会

大輔が小百合とほのぼのタイムを満喫していた頃…


とある城の塔の中では久々の再会を果たしたもの同士が睨み合っていた。


「まさかこんなところにお前がいるとは、ね」


「それは僕のセリフだね」


変な敬語を使うのは目上の相手だけのダンカンが、ジョシュアには普通に話す。

かといって、そこに親愛の情が表れるわけではない。


「なに?相変わらず妖怪女好きが出現して、エミリアの色香に迷わされた感じなわけ?」


「ぐっ…」


ジョシュアの鋭い見解に一言の弁明もできなくなる。

まさにその通りだ。

あの零れそうな胸が、歩いているうちに零れるのでは、と期待し、車に乗り込むときに身を屈めたら零れるのでは、と期待し、なにもなくても零れることを期待し続けたダンカンは気付けば塔に入れられていた。

巧妙な罠だった、とひとりで合点するが、その実なんということはない、


「さ、ここが私の部屋よ」


という嘘に、尻尾を振り振り入ったら塔だった、というだけの話だ。

ダンカンが愚かすぎる、というなんとも情けない結末である。


そして入った塔の隣の部屋にジョシュアがいたのだった。


「お前こそエミリア様の色香に参ったんだろ?」


悔し紛れに言ってみれば、心底馬鹿にしたように鼻で笑い、


「エックハルトに売られたのさ」


と自虐気味に呟いた。

どちらもどちらの、バカさ加減である。

バング家へご注進したあと、ヴィクトーの屋敷の混乱を知り、ジョシュアはかねてより


「なにかあったときは我が屋敷に参れ、すべては段取りしてある」


というエックハルトの言葉を多少疑いながらも従った結果、ここに閉じ込められた。

監禁ではあるが、待遇は悪くない。

塔の中は自由に歩けるし、図書室もあるのでジョシュアには天国のようだ。ネット環境も悪くはないので、助けを呼ぶこと以外は普段の生活が送れている。

もっともここにいれば、食事の用意も掃除も身の回りの世話もメイドがしてくれるので、いつもよりは王侯貴族になったような気分になれる。

さすがに風呂の世話と着替えの世話まではさせてはないが…


ちらりとダンカンを見て、メイドを男性の使用人に変えなくては危険じゃないか、と不安になった。


「おい、妖怪女好き」


ぶっきらぼうに呼ばれて、ダンカンは眉を上げて抗議する。


「僕のメイドに手を出すなよ」


渋く言ってはみたが、メイドの単語に大反応しているダンカンをみて、注意したことすら失敗だったかと脳内反省した。


「マジで、メイド?メイドちゃんが付くの?なに、ここ、天国?もしかして俺、天国に来ちゃった?!」


「おまえにメイドが付くかは知らない。とにかく僕のメイドには関わるな」


「メイドちゃん、名前なにちゃんかなぁ…可愛いかなぁ…ぐふふふ」


すでに頭の中はお花畑状態のダンカンにいくら言っても無駄である。

ジョシュアは深いため息をつきながら、それでも孤独ではなくなったことに無意識に安堵している自分に気付き、少なからず驚いた。

そんなセンチメンタルな感情を、いまだに持ち合わせていたなんて、と絶句した。


騒がしいくらい賑やかな雰囲気を作っているダンカンに、煩いから部屋から出ていけ、とは言えないことにジョシュアはひとり戸惑っていた。


考えてみれば、逸朗の絶望を願うがあまり、伴侶を迎えるのを心待ちにし、そのときまで疑われることなく、だが心を許すこともなく毎日を緊張の綱渡り状態で過ごしてきたジョシュアにとって、大輔と関わった、この1か月弱の生活はとても伸びやかに楽に呼吸のできる日々だったと思った。

大輔の素直で率直な性格に、知らず知らずジョシュアは絆され、いつの間にやら弟のように思っている自分がいたのだ。


今更ながらに殺したくはなかったし、それ以前に薬を盛ってまでエックハルトに引き渡すような真似をしたくはなかった、と気付いた。

彼が助けられたとわかったとき、自分でも意外なほど安堵していたのだ。


僕は大輔さまに救われていたのかもしれない…


そう思い至ったとき、ジョシュアは彼の騎士になりたいと、ヴァンパイアに成ったばかりのときに感じた血への渇望並みに熱望した。彼の盾となり剣となり、いついかなるときも己の命を賭して守ると誓いたい。

そして願わくば彼の信頼を賜りたい、と。


今更だ、本当に今更…あまりにも都合のいい、こんな最低な思いを抱いてはいけない。


何度も己に言い聞かせ、焦げ付くような思いで諦めようとした、このタイミングでこれからの生涯すべてをかけてでも仕えたいと願った彼の護衛が目の前に現れたのはなんとも皮肉なことだった。


しかもエミリアの色香に惑わされたバカな男が、ジョシュアの熱望する彼を放り出しての結末だ。

ダンカンの存在を有難く思う反面、ジョシュアは殺気にも似た怒りを覚えた。


「大輔さまはどうした?妖怪女好き」


本に視線を落としたまま、一向にページを捲らないジョシュアをダンカンは見遣った。


「俺が屋敷を出るときは泣いてたな」


「…なんで?!」


僅かに語気が荒くなる。


「ウィリアム様が大輔さまにヤキモチを妬かせようとして、大当たりしたから?」


「なんだ、それ、くだらない!」


逸朗にまで腹が立ったかのように、ジョシュアが舌打ちを漏らした。

意外なものを眼にしたとダンカンは思った。

確かに大輔はジョシュアに懐いていたし、実際ダンカンも大輔のことを逸朗の伴侶としてだけでなく、仕える主として気に入ってはいたが、ジョシュアが彼を快く思うとまでは思っていなかったので、多少は驚いたが、顔には表さないようにした。


「仕方ないだろう、ウィリアム様は舞い上がっておられる。大輔さまを伴侶に迎えて以来、イカれまくっているからな、完全におかしい」


そしてダンカンはミーナに毎晩電話をしていること、そのあとに自分の部屋にまで来て話を聞くので、面倒に思ってデータを渡したことを説明した。

話を聞いたジョシュアは呆れたように、長いため息を吐き、お気の毒に、と大輔を慮った。


「お前、大輔さまに、仕えたい、のか?」


ダンカンにしては遠慮がちに問う。

それに鋭く睨むが、すぐに瞳を伏せて、力なく頷いた。


「今更だろう、自分でもバカだなって思う。でも大輔さまと過ごした日々が生きてる実感を教えてくれたんだ。いくら僕が忠誠を誓ったって、たぶん、信頼を賜ることはできないと…」


ジョシュアの言葉に食い気味にダンカンが言い放った。


「そんなことはないな、大輔さまはお前のこと、待ってると思う」


思わぬ言葉にジョシュアがぱっと顔を上げる。

ダンカンが常にない真摯な表情を浮かべて、彼の肩をぽんと叩いた。


「騎士になりたいって言うのを待ってると思う」


「…本当か?」


「あぁ、今だって、気にされてると思うぞ。だって大輔さまだからな」


言って、かかか、とダンカンは笑った。


ジョシュアの淀んで沈んだ心に一筋の光が射した気がした。

ぽろりと思わぬ涙が流れ、まだ泣ける自分に驚いた。


そうか、大輔さまといると人間だったころの感情を思い出すんだ…


そしてそれが己を救うのか、と気付き、ジョシュアはすぐにでも彼のもとに跪きたい衝動に駆られた。そのためにはここから脱出しなくてはならない。

しかし戻るにしてもタイミングを考える必要がある。

ヴァンヘイデン家の有利になるときを狙い、効果的に己の身を使わなくてはならない。

多少の土産を持ち帰らなければ、騎士となる資格すら得られない。


「ダンカン、相談がある」


「はいよ」


軽く応えるダンカンにジョシュアは今後についての考えを話し始めた。


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