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6 逸朗の告白

「人であったのはずいぶんと昔のことだ。そして我が一族は秘密が多い。多くは話すことができないが、私の判断で話せることはすべて大輔に話してしまいたいと思っている。それが私が大輔に示せる誠意のギリギリだと信じてほしい」


ふぅ、と息を小さく吐くと、逸朗は髪をかき上げた。


「私はヴァンパイアだ。はるか昔に造り手によって人から別種の生き物へと成った。ただおそらく大輔が思っているような化け物ではない。十字架も凶器にはならないし、もちろんニンニクも問題なく食べる。見ればわかるが太陽の光で燃えることもない。私にも信ずべき神がある。決して人以外のものになったつもりもない。ただ、人ならざるものであることは否定しない。人の血が必要であることも、否定できない」


伏せたままだった瞳を上げて、俺を覗き込む。

異様なまでの話の内容なのに、俺は何も思わなかった。ただ続きを聞きたかった。だから頷くだけで無言のまま逸朗を見つめ返した。


「死なないことはない、ただ死ぬにも苦労するほどには丈夫でもある。多少の怪我くらいはすぐに治るし、病気は基本的にはしない。ちぎれた程度ならあまり時間が経ってなければくっつく。ただし、その際に人の血がいる。常に欲するわけではないが、ある程度は定期的に必要とするのも確かだ」


「それって結構、普通に化け物だよね」


思ってもみなかった言葉が感情ものせずに自分の口から出たことに、少なからず驚愕して俺は慌てた。

ほんの少しだけ傷ついたような表情を一瞬浮かべて、それでも逸朗は先を続ける。


「確かにな。人ではない。その自覚はある」


「そんなことより、伴侶ってなに?400年ぶりってどういうこと?基本は一人なのに、一人じゃないとか、意味わかんない」


言いながらなぜか俺は泣きたくなってきた。

伴侶以外の言葉に疑問を呈してなかったはずなのに、次から次へと口をついて言葉が走る。


「ヴァンパイアはたった一人の伴侶を選ぶ。これは本能で、決して欲ではない。そして生涯をともに過ごすためにほとんどのものが伴侶をヴァンパイアへと造り変える。人であればずっとともにはあれないからだ、寿命が短いゆえ。ただこれは神の御業か、ヴァンパイアはこの世の理から外れるものとして神から忌み嫌われているらしい」


自嘲気味に軽く笑って


「よってヴァンパイアは生まれ変わることができない。魂が消えるのだ。おそらく人からヴァンパイアへと成ったときに。ヴァンパイアも死ぬことがある。伴侶と決め、仲間に造り変えても先に死なれては残されたものには地獄でしかない。本能からの叫びでなにものにも代えがたく求める相手を失えば、先を考えることすらできなくなる。求めても得られない死だけが希望なのだから。だから敢えて造り変えることなく、魂が生まれ変わるのを待つ者もいる。再び会えればそれでいい、少し一人で過ごすだけだとなんとか己を納得させながら、ひたすら伴侶の魂を探し続けるものが、いるんだ」


「それが、俺、なの?」


逸朗がゆっくりと首を横に振った。


「私の場合は少し違う。400年前に知り合った伴侶は、私の本能がそう告げただけで、伴侶にはならなかったんだ。伴侶とする前に失った、というべきか。だから二度と伴侶を迎えるつもりもなかった」


言って、逸朗は俺の手にそっと自分の手を添えた。


「大輔に出会うまでは……」


その言葉を耳にして目から一筋涙が流れたことに、俺はまったく気付かなかった。

少し躊躇いながら、逸朗は俺の頬に流れる涙を指で掬うように撫でた。

それで自分が泣いていたことを知って、俺は無造作に袖で顔を拭った。


「私もさすがに戸惑っているんだ。まさか伴侶が男とは想像もしていなかったから。けれど出会ってしまえば求めないわけにはいかない。すでに私は大輔以外のすべてものの存在はどうでもよくなっている。何を失おうとおまえだけは失えない。そして誰にも渡す気はない」


苦し気に、吐き出すように言葉を紡ぐ声ははっきりとした意思を伝えてくる。


「でも、俺、彼女、いますよ」


ぐぅ、と逸朗の喉が鳴る。乱暴に髪をかき上げて、俺のことをねめつけた。


「それは、今は、仕方ない、できればその女を殺してしまいたいが、大輔に嫌われたくもないから我慢する。でも私を拒まないでくれ。これから私はおまえを私のすべてを注いで愛していく。いつか受け入れてくれると希望をもって。だから今は我慢する」


そしてはぁ、と大きく息をついた。


「ということで、私の家に来ないか?」


「はぁ?」


逸朗を知ってからはじめてというくらいに大きく笑んで


「一緒に暮らすのさ」


と言い放った。

そりゃもう、半端ない攻撃力を持った笑顔で。


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