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58 エックハルトも窓からこんにちは

キリのいいところまで、と思ったら長くなりました。

最後まで読んでくださると嬉しいです。

ありがとうございます。

「なにが目的か、もうわけわからんが、とにかく小百合は狼を守ってくれ、証言してもらわんと困る。それから俺はアランと本部に探りを入れてくる。これだけの動きをあいつらが把握してないなんて絶対にないからな、だからウィルはゴードンと行ってくれ」


ヘンリーが指示を出し、それに全員が頷いた。

少数での探索、救出になる。大人数で動けばいい、というものでもないのだが、それでもいざというときのことを考えて、ヘンリーはアランの部隊を動かし、すでにヴィクトーの屋敷を包囲しておいた。

大輔がいるとしたら、まずそこだろう、と当たりを付けて。


「ヘリコプターの準備が整いました、坊ちゃん」


ゴードンの言葉で、一斉に動き出す。

小百合は狼を守るため、一旦ロンドン郊外の屋敷に移ることにした。そこは警備も万全の態勢で、かつ周囲になにもないことから敵の接近をいち早く察知できる。


ヘンリーはアランの車に乗り込み、本部へと向かう。


ウィルはゴードンとヘリコプターに乗るために、用意されたロンドン市内のヘリポートに向かった。


「いま助けに行く」


強い意志を込めて逸朗が呟き、きつく拳を握りしめた。




その数時間後…


「じゃ、まず、こっから出ようか」


暢気にミーナが提案すれば、相変わらずめろめろのダンカンが腰をくねらせながらにたにたと同意し、俺は早くその結論に到達してほしかった、と愚痴っていた。


「しばらくはエックハルトが戻ってこない、かな?」


聞いた俺に


「あの様子じゃ、わりとすぐに力技で収めちゃうかもしれないっすけどね」


とダンカンが答えた。


「でもさ、逆に考えたら、あの破壊された地下牢を見て、とっくの昔に遠くに逃げて、まだ屋敷内にいるなんて、考えもしない、とかないかな?」


「…それはあるかも」


ミーナの同意を得た俺はちょっと得意げにダンカンを見た。悔しそうに顔を歪めて、ちっと舌打ちを漏らされる。


「ここにいる限り、意外と安全だったりするかなぁ?」


と俺が言ったとき、だらしなくくねくねしていたダンカンが素早く立ち上がり、俺を背中に庇うように引っ張った。


窓からくつくつと笑う声が響き、ミーナがひっと息をのんだ。


「いやいやいや、あの地下牢を見たときはちょっと焦ったけどね。ここにいてくれたとは期待してもいいのかな、大輔くん」


窓を開けてゆったりと部屋の中に入ってきたのは招かれざる客、エックハルトだった。

ヴァンパイアってのは窓から入るのが好きなのだろうか、いつかの逸朗も俺の部屋に窓から来たな、とのんびり考えた。

緊張感の欠片もない、とすぐに気を引き締めたけれど、ちゃんとダンカンが護衛として仕事をする気があるのを見て、気が抜けてしまったのかもしれない。


「期待って、俺は全然、あんたのこと、大嫌いのままですけど」


ぴしりと部屋の空気が切り裂かれるような気配が漂い、それを打ち消すようにミーナが身を捩って笑い始めた。


「振られてやんの、散々色男とか言われてきたくせに、男に振られてやんの」


零れる笑いの合間に漏れる言葉が辛辣で、さらにエックハルトの機嫌は悪化していった。


「ミーナがお風呂に入りたがったんですよ、女の子ですからね、その気持ちはわかりますから。今から逃げようかと思っていたんですけど、別に快く解放してくれるなら、それでも俺はいいんです。そしたら少しはあんたを好きになれるかもしれませんよ」


「ふざけるな!」


「あんたと会ってから一度だってふざけてないですよ。嫌いなのも、逃げたいのも、出来るなら殴り倒したいと思ってるのも、全部本気です」


ダンカンの後ろにはいるけれど、絶対に負けない、と決めていた俺は臆することなく言いたいことを言ってやる。

微かにダンカンの肩が揺れているから、きっと彼も笑っているんだろう。

ミーナに至ってはすでに立っていることすらできないほどの大爆笑真っただ中だ。


「では、仕方ない。ジョシュアに譲るつもりだったが、おまえは私が直々に殺してやろう。サー・ウィリアムのためにも、残酷にな」


ぐっと身を屈めたかと思ったときにはエックハルトはダンカンの頭上にいた。

飛び上がって、そのまま踵を振り下ろしてくる。

笑っていたミーナも戦闘態勢に入っていたが、ダンカンはさらに早く、俺をミーナのほうへ突き飛ばすと、落ちてくる踵を頭突きで迎えた。

ばきりとはっきりと骨の折れる音が響き、俺はまたもや煽りすぎたかと自分に怒りが沸いた。


ダンカンが唸り、人化を解く。

瞳に赤い光が混じり、爪が凶器のように長く尖る。

牙がバキバキと生えて、極悪な表情でにやりと笑った。


床に降り立ったエックハルトにその鋭い爪で襲い掛かる。

それを難なく避けた彼はダンカンの腕を掴んで投げ飛ばした。

壁に激突寸前でくるりと態勢を整えたダンカンはそのまま壁を蹴り、エックハルトへ向かって跳んでいく。浮かべた表情は残虐までに楽しそうなものだった。


俺の眼には追えない速さで攻防が繰り広げられ、部屋のあちこちで戦塵が舞う中、ミーナは俺を背後に庇い、やはり人化を解いて警戒していた。


ベッドの天蓋が派手に破壊されたと思ったら、その瓦礫の上にいたのは無残なほど血まみれになったダンカンだった。

ちっとミーナが舌打ちを漏らし、じりじりとドアのほうへ俺を誘った。

逃げられるなら逃げろ、という意思表示だと受け取って、悠然とダンカンを見下ろしているエックハルトを視界に収めながら後退していく。


荒い息を吐きながら、立ち上がろうと藻掻くダンカンを踏みつけ、ほぼ無傷のエックハルトがねっとりと俺をねめつけた。


「ここまでくるとなんだか愛おしくなってくるよ、大輔くん」


手に入らないものはなかっただろう、男のセリフだな、と俺は奇妙に感心した。

欲しくてもものにできない、そのジレンマが恋情にも似た渇きを齎すのだろう。


にっこりと笑ったエックハルトはダンカンを踏み抜き、大きく跳躍した。

え?と思ったときには目の前にいたはずのミーナが吹き飛ばされており、俺はたった一人でエックハルトと対峙していた。


「この際、性別なんか関係なくなってくるな。私はおまえが本気で欲しい。これを愛というのならそうなんだろう、と錯覚してしまいそうになるほどだよ」


残忍な瞳に熱を込めて俺を見据え、驚くほど優しく、俺の髪に指を通す彼からは確かに俺への愛情を感じた。

ぞわりと嫌悪が背中を走った。きっと俺の眼には怯えた色が浮かんでいるのだろう。

視線が合って、とても満足そうにエックハルトが微笑んだ。


「このまま、おまえが私のものになれば、あれらを見逃してもいい」


顎で倒れているふたりを示す。

回復が間に合わないのか、それとも血が足りないのか、ミーナもダンカンも身動き一つできずにいた。


「でなければ、この場にいる、みなを殺す」


さらに、と俺の唇に指を当て


「サー・ウィリアムも殺すとしよう」


「あんたに彼を殺せるだけの力はない」


恐怖に負けそうになりながらも、逸朗を侮辱するような言葉は許せなかった。

触れたままの指におもいっきり噛みついてやる。

噛みちぎってやろうかと顎に力を入れたとき、エックハルトが俺の腰に手をまわし、ぐいっと強く抱きしめてきた。

噛んでいた指を離し、両手を彼の胸に当てて、抵抗する。

持てる力すべてで押しのけようとしたが、1ミリも抜け出すことができなかった。


「なるほど、なかなかの抱き心地。夢中になるのもわからなくはない。その勝気なところも面白い。このままともに帰って、私のものになれ、大輔」


「呼ぶな!俺の、名前を、勝手に、呼ぶな!」


エックハルトの腕の中で暴れたが、どれほどに抵抗しようともその拘束は緩まない。

むしろ愛おしむようにより強く抱きしめられるばかりで、俺は焦った。


女にモテない人生を嘆いていたら、男にモテるようになるなんて!


壁際まで追い詰められ、背中を固定された俺の顎を持ち上げたエックハルトはぺろりと自分の唇を舐めてから、ゆっくりと俺の顔に近付いてきた。

顔を背けたくても固定された顎にかかる力が強すぎる。身体全体を使って押さえつけられた手足も思うとおりに動かない。

万事休す、か!

逸朗への申し訳なさに、ぎゅっと目を閉じ、せめてもの抵抗の証にぐっと唇を一文字に閉じた。


いやだいやだいやだいやだ!


ぼろぼろと涙が流れ、息を止めて、全身で拒否していたとき、ふっと身体が解放された。


「そこまでにしてもらおうか」


降ってきた低い声。

耳に慣れた、張りのある甘やかな声、そしてスパイシーな香りがふわりと鼻孔を刺激して、俺は恐る恐る眼を開けた。


「逸朗…!」


「待たせたな、よく頑張った」


いつもの彼の手がくしゃりと頭を撫でたあと、部屋の隅まで飛ばされたエックハルトと逸朗が相対した。


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