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49 大輔、結果発表する

今回も少し長めです。

本日から2回更新することにしました。どちらも読んでくださると嬉しいです。いつも読んでくださってありがとうございます。


「ヴァンパイアには起こりの一族というものが3つ、ある。それ以外は派生一族と呼ばれている。ひとつはヴァンヘイデン、そしてアイスラー、残り一つがバングだ。すべてドイツで発生しているので、そこでウイルス感染したのだろうと考えている。私たちが本部、と呼ぶのはバング家の管理する組織のことだ。一族それぞれが好き勝手にしてきたことでバング家に迫害の目が向いたのがきっかけだった。このままではヴァンパイアが生き残る道が閉ざされる、とバング家が組織を起ち上げ、ヴァンパイアが人に紛れて生きていけるようにルールと厳格な処罰を設けた。以来、そのルールに沿って私たちは生き抜いてきた。いまでは本部の幹部にはそれぞれの一族から数名のヴァンパイアを派遣して、組織運営をしているので、あくまでも中立の立場になっているが、やはりその中でも力関係はあり、今はバング家の力がやや強くなっている。アランが人材育成に長けているおかげで、我が一族もそれに劣らず発言権はあるが、やはりその中での権力は弱い。そしてバング家は保守派だ。大輔の研究内容に眉を顰める程度で済めばいいが、下手をすれば潰しにかかる可能性もある」


つまり俺の命の危機ってわけだ。


「ついでだから言っておくが、ヴァンヘイデンの中でもいくつかの派生一族があり、ヘンリーは私の騎士ではあるが、アランの一族になる。私とアランは実は従兄弟で、昔から近しい間柄だし、アランの性格があれだから、そんなことも出来るが、普通は同じ一族内の派生一族でもあまり人の行き来はない。今回小百合が騎士になったのも、かなりの異例のことだ」


小百合が騎士になったのは狼のため、そして小百合はどこの一族に属しているのかもわからない感染者だったため、小百合自身が築いた派生一族だったからこそ出来た荒業ってわけだ。


「プロジェクトメンバーはヴァンヘイデンのものだが、派生一族は私のものではない。アランのものがほとんどだが、実はジョシュアはアランの一族ではない。あれは優秀なので、今回のメンバーに加えたが、ヴァンヘイデンの中でも途絶えた血筋のものだ」


「途絶えた血筋?」


軽く頷いて、逸朗は喉が渇いたと、呟いてベルを鳴らした。

すぐにゴードンがトレイに水差しをのせて部屋を訪れた。大切な坊ちゃんのことはなんでもお見通しだ。


「私が一族の長を殺した。ルールを冒したゆえに。本来なら一族すべての命を奪わなければならないが、かの一族には優秀なものが多かった。あまりにも惜しかったので私が引き受けた。だが、それを不服とする者もいて、離反者も多かった。残ったものの中にいたのがダンカンとジョシュアだ」


「それは本部からの命令で?」


「そうだ。ヴァンヘイデンの誰かがやらなければならない仕事で、そして私しか対抗できるだけの力を持っていなかった。造り手は敬愛されるべき対象で、それを弑した私は彼らからすれば憎むべき相手だ。離反するのも仕方がない。むしろ残るものがよくいたと、当時感心したものだよ」


寂しそうに呟いた逸朗の手を俺はぎゅっと握った。



翌々日の朝食後、全員が顔を揃えた。

といっても小百合と狼はいない。情報を共有するための話し合いに小百合も狼も参加を拒否したからだ。

ヘンリーとアラン、そしてダンカンが参加していた。

ダンカンは俺の護衛として参加必須だと伝えられたためで、本人は非常に面倒そうに俺の後ろに立っている。

アランは好奇心も露わに瞳を輝かせながら食後の珈琲を飲んでいるが、ヘンリーは妙に緊張した表情で視線を彷徨わせていた。

ゴードンが朝食の片づけを終え、全員分の紅茶をポットで準備してから、おもむろにダイニングチェアに優雅な姿勢で腰かけた。

それを合図として逸朗が低く囁くように話し始めた。


「プロジェクトメンバーに参加を求めていないのは今後、大輔の研究を進めるつもりがないからだということを先に伝えておく」


ざわりと部屋の空気が揺れる。


「まず現時点でわかったことを大輔から説明してもらおう」


一斉にヴァンパイアの視線が俺へと集中して、じっとりと手に汗を掻いた。


「まずヴァンパイアに成る原因としてウイルスがあるのを前提として仮説を立てました」


情けないほど声が上ずって、ん、ん、と喉を整える。ゴードンが紅茶のカップをすっと目の前に押し出してくれたので、有難くそれをこくりと一口飲んだ。


「ヴァンパイアと人の間にDNAにおける大きな差異はありませんでした」


余計なことは言わない。


「ヴァンパイアウイルスは生存にいくつかの条件があり、それを満たす宿主がなかなかないことで増殖を諦め、生き残りをかけるのに宿主のゲノムをいじったのだと思います。彼らの条件がなんのか、まだわかりませんが、ひとつ確かなことは血中でなければ彼らは生きられない、ということです。空気にも弱く、同じ体液でも血液以外ではどうやら死にます。おそらく宿主を生かすことに特化した能力を付け、感染力および増殖力には力を注がなかった結果ではないかと推察しています。そして血液成分のなにかをエネルギーとして生きているので、ヴァンパイアとしての能力、つまりウイルスの能力と置き換えてもいいでしょうが、使用する際にエネルギー不足となるので人の血液が必要になるのではないかと考えています」


ヴァンパイアと人の血液成分を分析すれば、なにが枯渇しているのか、すぐにわかるだろう。

そう思ってもすでに研究をやめるように言われているので、俺はそれを口にしない。


「彼らの驚嘆に値する修復能力は血液以外の体液にもあるようです。ウイルスが死んでもなお、その能力が消えることはないようです。もしくは血中でなければ感染力がなく、修復能力だけを有するのかもしれません。とにかくヴァンパイアの唾液で噛み傷を治すことができるのもそのおかげかと思います。けれどやはり血液が一番修復能力が高いのも疑いようがありません。つまりヴァンパイアの血は人にとっての万能薬でもあり、特効薬でもあるわけです。それが内臓などの疾患に効果があるのかはわかりません」


アランが息をのむのが分かって、俺は彼ににっこりと微笑んでみせた。

好奇心でいっぱいだった瞳が暗く光り、戸惑いを隠せない様子だった。


逸朗の部屋で強引に行った実験もどきの翌日、俺はマウスを使った実験をしていた。

麻酔を効かせたマウスの腹部にメスで傷をつけたあと、手元にあるヴァンパイアの血液を比較するように塗布していった。

それぞれ治り方にも修復のスピードにも大なり小なりの違いが出た。

それは想定内だったのだが、唯一想定外だったのは逸朗の血液だった。

そのスピードも修復後の傷の形状も何もかもが段違いの美しさと速さだった。

アランの血は綺麗には治すが、治るまでに少々の時間がかかった。

ヘンリーの血はうっすらと傷跡が残った。

ゴードンの血は治るスピードこそ普通だったが、傷口が火傷のケロイドのように跡が残った。

ダンカンの血は治るのも遅く、傷口も汚かった。

プロジェクトメンバーたちの血も似たり寄ったりで、レオの血が一番修復能力が高いように思えたが、それでもヘンリーよりは劣っていた。

俺の血で進化した逸朗のウイルスはその最大の能力である修復力をさらに特化させていると思われた。下手をしたら、身体に大きな風穴が開いたとしても即時修復可能なくらいに高い能力ではないだろうか、と俺は疑っている。だとしたら逸朗は不死だ。なにがあってもウイルスが彼の肉体をどこまでも再現して守っていくだろう。


そしてこれ以上の検証は必要ないと逸朗に通達され、俺は泣く泣く実験結果を破棄した。

残っているデータは俺の頭の中にしかない。


「ってことはヴィクトーはウィルの血を使って、病気か怪我かなにかを治したい、と思ってる、ってことか?ヴァンパイアの血を使って感染したりはないのか?」


それに対して俺は首を左右に振ることしかできない。ヴィクトーがなにを考えているかまでは俺にはわからない。ただ感染しないことだけは伝える。


「空気に触れた血液には感染力はなく、修復能力だけと推察するので、ヴィクトーさんが仮に逸朗の血液を使ってもヴァンパイアに成るとは考えにくいです」


俺の言葉に一番の衝撃を受けたのはアランのようだった。

驚愕に震える顎を、支えるように両手で顔を覆った彼は大きな息を深く吐いた。


「人の血を奪うだけの化け物かとずっと思ってきたが、救う道があるというのか…」


呟いた声音はささやかな安堵感に包まれていて、アランの目尻にうっすらと涙が光っていた。彼は彼で、ヴァンパイアと成ったことを後悔してきたことが偲ばれて、俺の胸がきゅんと痛んだ。


「アランの送り込んだ間諜からの話では地下に秘密の実験室があるとのことだった。何が行われているのか、探り出せなかったようだが、常に警備のものが地下の入り口を見張っているらしいので、相当隠したいことがあるのだと思う」


逸朗の言葉にアランが頷き、ヴィクトーの屋敷の見取り図らしきものをテーブルの上に広げた。

ヴァンパイアたちの作戦会議の始まりを意味するのがわかって、俺の出番は終わったのだと、ダイニングをあとにした。


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