40 ヘンリー、骨が折れる
晴れて伴侶となれた俺はやっとプロジェクトメンバーに会う許可が下りた。
といっても逸朗は相変わらずの嫉妬ぶりで、むしろもうプロジェクト自体をなくてしまえばいい、と声高に宣っていたが……
内股に残っている噛み傷は皮膚表面だけが薄く膜で覆われたような状態になっていて、逸朗が舐めるだけで、すぐに出血した。
あれ以来、一度も意識を失うほど飲まれることはなかったけれど、身体を重ねるたびに、ほんの少しを舐めるのが儀式のようになっていた。
だから俺の身体からは妙に甘ったるい血の匂いが、彼のスパイシーな香りとともにいつでも漂っている。
だからこそ意味があるんだ、とヘンリーが言い、逸朗は満足げに頷いていた。
伴侶となって以来、ゴードンの態度がすっかり変わった。
まったく俺の執事として動き、決して逆らわず、そしてどこまでも守る姿勢をみせた。
相変わらずの冷たさはあるものの、大事なものである、と認識させてもらう程度には改善があった、というべきだろうか。
大事な坊ちゃんとは並ぶべくもないが、大事に守るべきものであることは間違いない、とゴードンが考えて行動しているようだった。
小百合も俺を「大輔さま」と呼ぶようになったことで、同じ騎士であるはずのヘンリーが呼び捨てのままなのが、不思議だった俺は逸朗に聞いた。
「あれはもう、礼儀を知らない野蛮人だと思うしかない。私のこともウィル、だからな」
無表情に言っていた。
すぐ横でヘンリーが大笑いしていた。
「大輔さまって呼んだっていいぜ?」
ヘンリーが座っていた椅子から軽やかに立ち上がると、俺の前に跪き、右手を取った。
そして丁寧な態度で頭を下げると、俺の手の甲にキスをした。
実に不愉快そうにそれを見て、逸朗はヘンリーの手を叩き、俺の手を取った。
「触るな、淑女に対する礼などいらん。大輔は男だし、なによりおまえが触れば汚れる」
「なんだよ、ちゃんと忠誠を誓うって言ってんのに」
「それはいるが、触れることは許さん」
「本当に心が狭いね、ウィルはさ」
いたずらに成功した子供のように、グリーンの瞳を輝かせてウインクしたヘンリーは立ち上がってわざとらしく俺の頭をくしゃりと撫でた。
いつものことながら乱暴な撫で方だな、って思っただけだったのに、俺の頭に乗せていたヘンリーの腕がぼきりと折れる音が響いて、俺は本能的な恐怖で固まった。
「ッてぇ!」
「触るなと警告はした」
絶対零度の声音で、今にもヘンリーを射殺しそうな瞳を赤く光らせた逸朗が低く唸った。
すぐにゴードンがワイングラスを持ってヘンリーへと渡す。
赤ワインに少量の人の血が混ぜてあるもので、ヴァンパイアの治療薬として、常にストックがあるらしい。
皮膚から飛び出していた骨をもとの位置に強引に戻したヘンリーは受け取ったワインを一気に煽った。逆再生をしているかのように裂けた皮膚が綺麗に治り、骨がごきりと付く音が響いた。それでも痛みは残るらしく、盛大に顔を歪めている。
「逸朗、それは、ちょっとやりすぎじゃない?」
恐る恐る言う俺の髪を優しく漉きながら
「そのような認識ではほかのヴァンパイアに会わすことはできないな」
と蕩けるような微笑みを浮かべて逸朗が言った。
どうせこの程度、すぐに治るのだから罰にもならん、と呟きながらヘンリーを睨みつけ、すぐにワインを持ってきたゴードンに対しても手際が良すぎる、と文句を垂れた。
「独占欲もここまでくると異常だな」
まだ痛みがあるのか、腕を摩りながらガンバレ、と小声で呟いた。
いや、なにを、頑張れと?
甘い笑みを口元に張り付けた逸朗を見つめながら、伴侶になったのは早計だったのでは?と少しだけ憂慮した。




