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39 本当に俺の血は特別製?

逸朗の熱はすでに下がっていた。

触れるとひんやりする額で、それは一目瞭然にわかる。

咲き誇る薔薇のような頬も今は色もなく、落ち着いた白磁に変わっていた。

俺はいまだに目覚めない逸朗に、かなり焦れていた。

穏やかで緩い呼吸がゆっくりと彼の胸を微かに上下させているのだけが、逸朗が生きている、と実感できるものだった。

胸に手を置いておけば、ごくたまにとくり、と心臓が動くのも、俺を安心させた。


「早く起きてよ、逸朗さん」


指で彫刻のように整った鼻をなぞる。

そのまま唇へと移し、指だけでは足らずに、自分の唇を柔らかく押し付けた。

いつもなら返ってくるキスは、ない。


哀しくなって、俺は逸朗の首筋に舌を這わせた。

全身で逸朗を感じたい、と身体全体を添わせるように横たわる。


余すとこなく接して、彼のスパイシーな香りを胸いっぱいに堪能した。


「もう少し、遊んでも、バレないかな?」


動かない彼に焦れた俺は、ちょっと大胆になってみる。

逸朗の服をなんとか脱がし、自分も全裸になった。

額からはじめ、キスを次から次へと落としていく。

俺の身体が熱を持ち始めて、急に恥ずかしくなって、彼にしがみついた。

ひんやりとした体温が滾り始めた俺の感情ごと、ゆったりと落ち着かせていく。


ほぅ、と息を吐いてから、逸朗の唇へキスをした。


「もう待てないかも、このまま襲っちゃっても、文句、言わないよね」


彼の胸に顔を埋めて、俺は呟いた。


「…文句は言わないが、記憶にないのは惜しい気もする」


掠れた声が降ってきて、俺は慌てて顔を上げた。

くつくつと笑う逸朗が、愛でるように俺を見つめていた。瞳がかすかに深紅に光っている。


「逸朗さん!!!」


むしゃぶりつくように彼の顔中にキスをする。

それを受け止めながら


「心配をかけたようだな、すまない」


と詫びた。まったく悪びれもせず言うので、それが詫びだとは俺は気付かなかったが。


「もう、逸朗、と呼べ。さんはいらない。伴侶なのだから」


くしゃりと俺の頭を撫でる、その仕草に俺は顔を歪めた。

懐かしさに、どれほど求めていたかを思い出して泣きそうだった。


「どうなの?もう苦しくない?痛くない?」


矢継ぎ早に質問する俺を優しく抱きしめると


「どこが変わったのか、わからない。が、妙に力が漲っている感覚はある」


とだけ言った。

その声が聞こえたのか、ゴードンが慌てた様子で部屋に飛び込んできた。

ノックもしないなんて…と俺は驚愕した。


あのゴードンが、ノックもしないで、部屋に入るって、明日は地球滅亡の日?


「坊ちゃん!!!」


「ゴードンか、心配をかけてすまない。だが、ノックもないのは些かどうかと思うぞ」


軽口を叩くように言った逸朗に、常から笑顔以外見せないゴードンの顔が崩れた。

泣くのか?泣いちゃうのか?とちょっと期待した俺の視線に気付いたのか、ふいに顔を背けて、申し訳ありません、と呟いた。


「ウィル!」


続いてヘンリーが駆け寄ってくる。

本当にヴァンパイアってのは耳がいいのか?それともダンカンから知らせでも入ったのか?疑問に思いながら、俺は自分が全裸であることに思い至って、慌ててシーツを被った。


「ヘンリーにも心配かけたな」


「それより、どうだ?」


興味津々のヘンリーの瞳が怪しくエメラルドに光る。

ゴードンも気になるのか、ヘンリーの横に直立不動に立っていた。


「どうもこうも、よくわからない。苦しかったが、恐れていた飢えはなかった」


逸朗が掌を握ったり開いたりして


「今はただかなり力が漲っているのを感じる。今ならひとりで一国くらい、落とせそうな気がする」


おいおいおいおい、なんて危ない発想をするんだ!

と心の中だけでツッコんでおく。


「試しにどこか落としてみるか?」


にやりと笑ったヘンリーに逸朗は楽し気にそれもいいな、と笑った。


おいおいおいおいおいおいおい、ヴァンパイアっておかしいぞ!

と、やっぱり俺は心の中だけでツッコんだ。


不穏なやり取りとは裏腹に、久々に穏やかな空気が屋敷全体を包み込んでいるかのようだった。



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