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34 逸朗、血を頂く

「ウィル、ドアの前に飯を置いておくぞ。おまえさんはともかく大輔には食べさせてやれ、死ぬぞ」


こんこんこん、と遠慮がちなノックの後、ヘンリーの声が聞こえた。

俺の身体はぎしぎしと痛みを訴えている。

だるくて、痛くて、でも全身が甘くて、とけてしまいそうだ。

そんな俺をきつくきつく抱きしめていた逸朗は小さく舌打ちをした。


逸朗を嗾けるようにして抱かれて、どのくらいの時間を過ごしたのか、まったくわからない。厚いカーテンは閉じられまま、時間を知らせるものはヘンリーが定期的に運んでくる食事だけだった。それさえも何回か、わからない。

ひたすら裸で過ごし、ベッドからも動いていない。

逸朗に抱かれるだけの、濃密で濃厚な時間。


「なにか、食べられるか?」


いつもよりもずっと甘く蕩けてしまいそうな声で聞かれ、こくりと頷く。

にっこりと笑んで、しなやかに起き上がると、俺のために食事を取りに行った彼の均整の取れた美しい肢体を眺めながら、色濃く残る快感と痛みに、俺はほぅ、と息を吐いた。


紅茶とトースト、スコーンと果物、それだけが乗っているトレーを持って、逸朗はベッドへ戻ってきた。すぐに俺の額にキスを落とす。


起き上がるのも面倒で、俺は腹ばいのまま果物を口にした。

甘みの強いプラムが渇いた喉を鮮烈に潤していく。

零れた果汁が口元から喉へと一筋流れ、それを嬉しそうに逸朗が舐めとった。

くすぐったくって、身を捩りながらふふふ、と笑った。


プラムを食べ終えて、紅茶を飲んだ俺は


「それで、いつになったら俺の血を飲むの?」


と横でトーストを齧っていた逸朗に聞いた。

いつか言われるのでは、と思っていたらしい彼は迷ったように視線を彷徨わせる。

薄暗い部屋のあちこちに視線を飛ばして、はぁ、とため息をついた。


「覚悟は、いいのか?」


正直、血を飲んで進化するっていうこと自体、あまり信じてなくって、仮に進化したときにどんな変化を逸朗が遂げるのかもわからない俺は曖昧に頷いた。

血を捧げることで伴侶になれるなら、早くしてくれ、というのがリアルな気持ちだった。

いままで生きてきて、特別だと言われたこともなく、ひたすら平凡人生を歩んでいたから、自分に非凡なことが起きる現実にまったく思い至らなかったんだ。


小さく息を吐き、逸朗は俺を仰向けにした。

そして内股にそっと手を伸ばし、ゆっくりと指を這わす。

あまりにも艶めかしい動きにぞくぞくと快感が走った。思わず声が漏れる。


「痛みはない、はず」


「…ん」


「大輔、私の伴侶になってくれ」


言うが早いか、指でなぞっていた箇所に逸朗が口を寄せた。

ごく僅かな痛みの後、猛烈な歓喜と快感が俺の全身を包み、朦朧とする。

ごくごくと飲まれている音が耳に響き、それに合わせるように彼の身体が前後に揺れた。


気が遠くなる。


逸朗の髪に指を差し込み、失いそうになる自分を必死で保つ。

血が自分以外に流れていくのがわかった。身体が急激に冷えて、がたがたと震えだした。


それでも逸朗は止まらない。


恍惚とした意識の中、光に飛び込むような感覚を覚えたそのとき、乱暴にドアが開けられた。


「ウィル!!!そこまでだ!!!大輔が死ぬぞ!!!!!」


叫んだヘンリーがベッドから逸朗を引きずり落した。

がくりと俺が頽れる。


虚ろな瞳を深紅に爛々と光らせて、床にへたり込んだ逸朗は突然怒りを爆発させたかのように咆哮した。

俺の全身を甘く包むように血の匂いが充満して、いまだ流れていることを強烈に意識させている。それでもヘンリーは俺にシーツを被せ、逸朗を揺さぶった。

少しずつ咆哮がやんでいき、唐突に彼は意識を失った。


それを見て、俺も意識を手放した。

最後に感じたのは、ヘンリーが逸朗の唾液を俺の内股に丁寧な手つきで塗っていることだった。


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