29 こんなんだけど、ヘンリーは騎士でした
「いつチームメンバーと会えるのかなぁ」
逸朗は書斎で仕事をしていたので、俺は暇を持て余してゴードンが淹れてくれた紅茶を飲みながら、暖炉の前の心地よさそうな肘掛け椅子に座っているヘンリーに話しかけた。
頭の後ろで手を組んで、ぐぐっと背中を伸ばしてから、くるりと俺のほうを向いた。
「まだじゃね?大輔が伴侶になる前に会わせるのはないんじゃないか?」
「なんで?」
「あ…俺に説明させるのか?」
面倒そうに大声で言う。おそらく階上の逸朗に向けての言葉だと思う。
「伴侶ってのはさ、ただ付き合ってるのとは違うわけよ。俺らにとって絶対に手を出しちゃいけない人っていうか…まぁ、大輔がウィルの伴侶になれば、ウィルと同等のもんになれるっていうか…そんな感じなんだって」
「同等?」
「ああ、そうだ。同等。つまりさ、ゴードンはウィルの忠実な執事だろ?」
ゴードンは逸朗の執事で、確かに敬愛していて、とても忠実だ。
でもあれほど俺を伴侶として扱うように注意しても、ゴードンの俺に対する態度は変わらない。それが不思議でもあった。
「だけど、おまえさんのことはウィルと同じようには扱ってない、だろ?」
俺のすぐ横でアフタヌーンティの準備をしているゴードンをちらりと横目で見ながら、小さく頷く。
「これで伴侶になれば、ゴードンもウィルと大輔を同等のものとして扱うようになる、な?」
「さようでございます」
些か不満そうではあったが、ヘンリーの言葉にゴードンは頷く。
「同じで、俺はウィルの騎士だ。大輔が伴侶になれば、俺はこの命を賭してでもおまえさんを守るし、忠誠も誓う。そういうことなんだよ、同等ってのは」
「それって、つまり?」
ヘンリーは仕方ないな、と苦笑を漏らして立ち上がると、すたすたと迷うことなく俺の前に来て跪いた。
胸に手を当て、軽く頭を下げる。
そして普段からは考えられないような魅力的な低い声ではっきりと誓った。
「結城大輔さま、フィリップ・ヘンリー・ヴァンヘイデンはここに永遠の忠誠をお誓い申し上げる。いついかなるときもあなたの盾となり、剣となろう。私の命はあなたのために捧げよう。その代わりあなたの変わらぬ信頼を私にお与えくださるよう、願い奉る」
俺は奇妙な感動を受けて動けなくなった。
すぐにヘンリーがにかっと破顔し、こういうこった、と言って、俺の頭をくしゃりと撫でた。逸朗と違って幾分荒々しく、首がぐらんぐらんする。
「伴侶になれば、大輔は苦労なく俺を手に入れられるってことだな」
かかか、と大きく笑ってヘンリーはふらりと居間を出て行った。
そばにいたゴードンに視線を送ると
「もちろん大輔さまがお望みであろうとなかろうと、わたくしも同様に心からお仕え申し上げる所存でございますよ」
と感情もなく言った。
「逆に、伴侶でなければ大輔さまはただの人でございます。坊ちゃんがいかに大切になさろうと、ほかのヴァンパイアにとっては少々特殊な血液バッグと変わりません。わたくしどもは坊ちゃんに忠実でございますので、大輔さまをそのような扱いだけはしないようにしておりますが、ほかのものがどのような態度にでるかまでは、わかりかねます。ですので、プロジェクトメンバーとの面会は先延ばしになっているのでございます」
血液バッグ、とはっきり言われ、俺に衝撃が走った。
逸朗もゴードンもヘンリーもあまり人の血を欲している感じがなかったので、すっかり失念していたけれど、俺にとってヴァンパイアは間違いなく捕食者なんだ。
「聞いてもいい?」
「答えられることとそうでないこととございますが、それでもよろしければお伺い致します」
手際よくスコーンを皿に盛ったあと、クロテッドクリームとイチゴジャムを添えて俺の前に提供してくれた。
「ヴァンパイアってやっぱり日常的に血を飲むの?逸朗さんは怪我した時とかくらいだって言ってたけど」
「……それもまた個体差があろうかと存じますが」
半分になったカップに紅茶を足してくれたゴードンは俺の横の椅子をひいて座った。
「血はヴァンパイアにとってのカンフル剤とでも申し上げれば宜しいでしょうか。食事ではございません。食事に関しては人と同じように食べておりますので。もっとも人と同じ程度の生活を送るならばさほど食べなくとも問題ないのですが、ヴァンパイアとしての動きを致しますと、人の血がなければ長くは動けません。坊ちゃんもわたくしも、おそらくヘンリーに関しましても今は戦の時ではございませんので、人の血を必要としておりません。けれど今後必要としないかについては存じ上げません」
そして…と珍しく言い淀んで
「ほかのヴァンパイアが血を欲してないとも考えておりません。常日頃からヴァンパイアであることに誇りを持ち、いつでもそのパフォーマンスを満足にできるよう、心がけているものもおりますので、大輔さまがほかの人間同様に危険があるのは否めません」
だからダンカンが警護しなくてはならないし、プロジェクトメンバーにも会わせてもらえないんだ、と酷く納得した。
やはり違う生き物なのだと、幾ばくかの寂寥感に包まれた。




