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28 逸朗、大輔が好きすぎる

本日逸朗くん、心の声です。


ヴァンパイアにとっての伴侶とはただの恋人とはまったく違う意味合いを持つ。

唯一無二の存在であり、伴侶となったものは髪の毛一本に至るまで、伴侶としたヴァンパイアのものである。

そしてヴァンパイアのものもすべて伴侶のものとなる。

それは個人的財産も地位も名誉も含めた、まさに何もかもすべてが伴侶に権利が発生する。

私は一族の中で、それなりの地位にあるのは実績もさることながら、長くヴァンパイアであり続けていることも大きい。

それだけ財産も作ってきたし、人脈も多くある。ヴァンパイアである限り、人と同じようには生きられない。けれど人に交じって生きるほうが生きやすい。

ならば存在を気取られないよう、人として生きなくてはならない。

私はまずヴァンパイア専門に扱うことのできる医療環境を整えた。怪我も治るし、病気もしない我らにほぼ医者は必要ないのだが、人の振りをして生きているからには病院とは縁が切れないもので、ただの病院へなにかの際に連れていかれては大変なことになるので、起ち上げは必須だったのだ。

現在それは世界的に権威ある財団として、巨大な病院を統括経営している状況にある。もちろん人も普通に扱う、ごく一般的な総合病院だ。

続いては時代に合わせた研究所を手掛けた。

ヴァンパイアであることを悟らせないためにはヴァンパイアがなんであるのかを正確に把握することが必須だと考えたからだ。

研究所に関しては日本をはじめ、イギリスとアメリカに拠点がある。それ自体は大きくはない。なぜなら私の私財を投じているため表立っての研究成果も必要がないのだ。

時折忘れたころにそれなりの研究成果を上げてはいるが、あまり世間から注目を浴びないように気を付けている。

タクシー会社の経営に関してはイギリスでのみ。

とくに必要ないと思っていたのだが、私の子、つまり私によってヴァンパイアと成った子を人の世界で生かすために、起ち上げた会社として存在している。

いまや彼は大々的に表舞台に立っているが、そろそろ引き上げどきではないかと私は懸念している。

どういった作用か、ヴァンパイアは見た目をある程度変化することができる。

彼も年々歳を重ねるように変化をつけてはいるが、それも少し無理が出てくるだけの年数が経ってきた。

どう対処するのか、興味深く見守っているところだ。


他にもいくつか、似たような理由で会社を起ち上げ、そのおかげで生活には困らない。

ただ仕事は多い。

複雑な事情をはらんでいるだけに煩雑でもある。


いままではそれでも問題なく処理してきた。


けれど、それがかなり難しい状況に、己自身で追い込んでしまっている。

大輔を伴侶としなければ、私はそばを離れるのも辛くなる。


ヴァンパイアは伴侶に己を刻み込む。

それは精神的な意味でも肉体的な意味でも、である。

身体を重ねただけでは伴侶とはならない。

私の場合、大輔は人なので、重ねた上に、さらに血を得なくてはならない。

ヴァンパイアの唾液には不思議な作用があり、噛んだ後に上顎の唾液腺から分泌される特殊な唾液を擦り込むことで噛み跡を治すことができる。

そのとき多少血中に入り込んだ唾液はドラッグのような作用で、意識を朦朧とさせる。

噛まれる直前までの記憶があっても、噛まれたことを意識せず、恍惚としたままことを終えるのだ。

けれど伴侶にはその傷を治すことはない。

表面が少しだけ閉じるような状態にまではもっていくが、決して記憶を飛ばすことも、治すこともしない。

いつでも伴侶は血の匂いをかすかに立ち昇らせ、そしてそのヴァンパイアの香りを身に纏ったままで居続けることになる。

するとそのふたつの香りがほかのヴァンパイアへと届き、それがだれの伴侶であるのか、を周囲に知らしめることになる。

決して手を出してはいけないものとして。

ヴァンパイア同士が伴侶となる場合は、もう少し複雑な状況になる。

お互いの血が毒になるのだから、飲むわけにはいかない。

そのため身体を重ねる際に、互いの身体に傷をつける。そして血を分けるようにお互いの傷へと己の血を擦り込む。

痛みと快感で、脳の中枢がマヒするような感覚が走り、それがまた堪らなく愛おしくなるそうだ、と聞いている。伴侶となればほとんどを共に過ごすことが多いヴァンパイアにとって、傷の再生よりも早くお互いを求めるので、結局常にふたつの血の匂いを周囲へとまくことになる。


人狼はほぼ人と変わりない。

狼からは血と小百合の匂いが色濃く漂い、小百合の身体には狼の匂いが染みついているかのようだ。それだけの時間、おそらく共に過ごしているのだろう。


大輔に私の匂いが染みついてもおかしくないくらいの時間を過ごしてはいる。

けれど伴侶としてないので大輔から漂う香りはまったく違うのだ。

血の匂いがない。

これから多くのヴァンパイアと大輔は時間を過ごすことになる。

そのためにも私の匂いを付けておかなければならないのはわかっている。

私の伴侶と知れれば、言葉にすることもなく、一族のヴァンパイアは大輔を私と同等のものとして扱うようになる。

私のすべてが大輔のものになるのだから。

だが、逆に言えば匂いがなければ、いくら私が伴侶だと警告を与えても、決してそれを認められることはない。

私にあれほど忠実なゴードンが大輔を軽んじるのにも訳がある。

大輔が本当の意味で伴侶となっていないからだ。


それがわかっていても、大輔を抱く勇気が出ない。


もう拒否されることはないだろう。

けれど私は怖かった。

一度抱いてしまえば、二度と離せなくなるのではないか、と。

それは精神的な意味でも肉体的な意味でもなく、物理的な距離という意味で。

あれから自由を奪ってしまうのではないか。

それによって嫌われてしまうのではないか。

それでもなお手放せなかったとき、私は大輔をどうしてしまうのだろうか?


そのとき私はどうなってしまうのだろうか?


この世のなにとも代えがたく胸の奥で燻り続ける欲求が、いまにも爆発しそうになりながら、私は大輔を抱くことができないでいる。


すべてを手にしたいのに、それが出来ない己の弱さが憎らしかった。


いつも読んでくださってありがとうございます。

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