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24 はじめまして、狼さん

中に入ると意外と狭い廊下が続き、突き当りに階段があった。

それ以外には何もない。廊下の壁にも装飾はなく、実にシンプルな蔦の柄の壁紙が張ってあるだけの空間だ。二人並んでは歩けないほど狭い廊下だったので、逸朗は俺を前に押して、先に行くように促した。

迷いようもないので、真っ直ぐに階段へと向う。


これもまた古いだけが自慢ではないか、という階段を上り、2階へ行く。

ところが上がりきったところには驚くほど美しく整備された広間があった。


暖炉があり、ダイニングテーブルセットの上にはすでにアフタヌーンティの準備が出来ている。

夏なので火の入っていない暖炉の前には心地よさそうな肘掛け椅子があって、ヘンリーが座っていた。

そして暖炉の上にはどうみてもルノワールではないかと思われる風景画の小作品が3つ飾ってある。

窓が小さいためか、部屋自体に開放感はないのだが、妙に落ち着く空間だった。

そしてダイニングテーブルには小百合と、会ったことのない落ち着いた雰囲気の男が座って楽しそうに身を寄せるように紅茶を飲んでいた。

とくに特徴はない。40歳前後だろうか、長い黒髪を無造作に後ろに垂らし、メリハリのない平面顔の、アジア系。肌の色が少し濃いので、東南アジア系にも見える。

手足が無駄に長く、宇宙人をみるかのような違和感を覚える。隣にいる小百合の耀きのせいか、全体的にくすんだ印象を受ける男だった。

やわらかな印象のあの笑顔は油断できない感じだな、と少しだけ警戒を忘れない。


あの人が「狼」って人なのかな?


そう思って、階段を上がってきた逸朗に視線を送った。

その視線を受けて、逸朗はちらりとふたりを一瞥してから、軽く頷いてみせた。


狼が逸朗に気付き、とても親しみやすそうに、さらに口元をほころばせて


「先に頂いてしまってすまないね。それからあの子の解放には感謝してるんだ、ほんとうにありがとう」


と小百合に寄りかかるように座ったまま礼をした。


「いや、こちらとしても狼に来てもらって有難いと思っている」


淡々と感情もなく言い切った逸朗は、俺の背中を押して、奥にある階段へと促した。

どうやら俺を紹介する気はないらしい、と判断して、俺は小さく目礼だけして彼らの後ろを通り過ぎようとした。


「あら、せっかくなのに、紹介はしてくださらないの?」


「するつもりはないし、その必要もない」


小百合の言葉ににべもなく逸朗は答え、隣の狼はくつくつと苦笑を漏らした。


「ずいぶんと大事にしていると小百合から聞いてはいたけど、まさに箱入りだね」


「そうでしょ、そのくせまだ伴侶にもできないのよ」


ふたりの、内緒話には些か大きすぎる会話にヘンリーがははは、と笑った。

あからさまにムッとした逸朗は、俺の肩に手を置いて、くるりとふたりのほうに向かせた。


「大輔という。とくに関わることはないかと思うが、覚えておいて損はない。それから伴侶にはしてないが、伴侶であることは間違いない。扱いには気を付けたほうがいいと、警告しておく」


低く響くように言い切って、俺と一緒に3階へあがった。


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