16 彼女の心
そろそろ付き合って1年を迎える。
初めて会ったのは合コン。
特別行きたかったわけでもないのに、人数合わせと言われて連れ去られた私の前に大輔が座ったのがきっかけ。
自己紹介が終わり、それぞれで盛り上がりをみせる中、私は一人だけつまらなそうにしていたんだと思う。
ただひたすら食べて、飲んで。
「美味しそうに食べるよね、いいね」
と大輔が声をかけてくれたのが、今思えば恋に落ちた瞬間だったと思う。
その一言で私と大輔は一気に意気投合した。
取り留めのない話を次から次へと話す私に、にこにこしたまま絶妙な相槌を打って聞いてくれた大輔に、私はもう夢中になった。
大学に入って、あれほど楽しかった合コンはなかったと思う。
酔った勢いでないことを確認したくて、その日は携帯番号だけやりとりしたけれど、翌朝起きた瞬間から大輔が恋しくて、すぐにメールをした。
付き合って、だけ。
大輔からは、いいよ、だけ。
とっても短いメールのやり取りから私たちの時間は始まったんだ。
付き合い始めてすぐは毎日会いたかった。
毎日毎日会いたくて、毎日毎日短いメールを送った。
なにしてる?
どこにいる?
なに食べた?
どうしてる?
大輔はそのメールに短い返事をしてくれた。
最後に必ず、可愛いね、の言葉を添えて。
初めてキスをしたのは私の部屋だった。
私が観逃した映画のDVDが発売されたからと買ってきてくれた大輔とクライマックスのキスシーンに合わせるように唇を合わせた。
泣きそうなくらい幸せで、実際私は少しだけ泣いた。
大輔はずっと抱きしめた私の背中を優しく撫でてくれていた。
そのころになると私からのメールが減った。
好きな気持ちに変化はなかったけれど、愛されてる自信がついたんだと思う。
頻繁にやり取りする必要はない気がしたんだ。
はじめて大輔に抱かれたのは彼の部屋だった。
それは彼の誕生日で、プレゼントに手料理が食べたいって言われたから、材料をもって作りに行った時だった。
ふたりともあんまり余裕がなくって、ロマンチックなことはまったくなかったけれど、あまりにもうまく進めなくて、途中ふたりで大笑いしたことだけは記憶している。
それでも幸せだった。
彼のすべてを手にした気分で、世界で一番、私が幸せだって思った。
このころからメールの最後に踊っていた、可愛いね、の言葉がなくなった。
さらにお互いが簡素なメールをやり取りするようになっていた。
それでも会えば、間違いなく愛されていると感じたし、はじめて会った時から変わらない大輔でいてくれてると思っていた。
でもいつも会いたいというのは私だった。
そんなことに不満も不安もなかったからこそ、大輔から突然届いたメールに心が壊れた。
珍しく長いメール。
ごめんね、このまま付き合うのが難しくなったんだ。
いまでも君のことが好きだし、大切だと思ってる。
でもそれは付き合い続けるためには弱すぎる気持ちだって気付いちゃったんだ。
本当にごめん。
だから別れたい。
君をもっと傷付けてしまう前に別れてほしい。
ごめんなさい。
なにが彼に起きたのか、理解できないまま、私は最後に会った日を思い返す。
引っ越しをするんだ、と言った彼。
帰るというと名残惜しそうにキスをしてくれた彼。
熱を帯びた唇が今も私の脳裏に焼き付いているのに……
別れたくない。
正直にそう言いたいのに、天邪鬼な私は言えなくって。
りょ。
就活で時間取れないからちょうどよかった。
と返信した。
簡素で簡潔。
今までと変わらない、私のメール。
叫びたいことも、別れたくないことも、好きだということも、なにもかも伝えないまま。
なにより私に素敵な時間をくれたことに、ありがとう、って言いたかったのに。
ありがとう。
それが大輔からの最後のメール。
全身の水分が涙に変わったかと思うほど私は泣いて、泣いて、泣いた。




