14 ヴァンパイア同士の会話
どうやら俺はソファに横になったまま眠ってしまったらしい。
カーテンの開け放たれたままの窓から入り込む大きく傾いた日差しで、随分と寝たのだとわかった。
ふと視線をソファの向かい側にやると、ヘンリーがにたにたと口元を歪めて座っていた。
「ヘンリーさん?」
驚いて、起き上がろうとした俺の肩をそっと優しく押し返す手があり、見上げたら逸朗が穏やかな笑みを浮かべていた。
どうやら俺は逸朗の膝枕で眠っていたらしい。
「重くない?」
「ちっとも。そのままでいてくれ」
幸せそうに目を細めて微笑んでから、ヘンリーに鋭い視線を送った。
「起きてすぐの大輔が俺の名前を呼んだからって睨むことはないだろう、今にも俺を殺してやるって眼付きだぞ」
にたにたした口元は変わらないままヘンリーが牽制した。
俺の顔が瞬間、紅潮する。
「どうせ死なないんだから、多少の殺されかけるくらい構わないだろう」
さすがの絶対零度。
返されたセリフだけで俺なら死ねます。
「それで、ゴードンからは?」
「定期連絡はあった。やはりアメリカだったそうだが、とくに問題があるとは思えないらしい。ただ、どうやらやつら、マイアミあたりの若いのを狩ってるようだぞ」
「ヴァンパイア狩り?目的は?」
盛大に眉を顰めて、低く唸るように逸朗は問う。
不穏な話に俺は少し身動ぎをして、起きる意思を伝えたが、逸朗はぐっと手に力を入れて、ホールドしてしまった。
聞かないふりをして、やり過ごすしかなさそうだ。
「わからん。実際狩られてるのは確からしいが、それが魔術師の仕業なのかはまだ証拠がつかめないとか、言ってたな。まぁ、俺からすれば証拠をつかませない時点であいつらが怪しいんだけどな」
「確かに」
どうやら魔術師というのは狡猾らしい。
逸朗の冷たい指がもてあそぶように俺の首筋を撫でている。それも無意識らしく、くすぐったくって身を捩って見上げても、逸朗は気付かない。
「どうする?」
ヘンリーは逸朗の指示を待った。真剣な顔をして、もたれていたソファから背筋を伸ばして体を起こした。それを見やってからひとつ、ふむと頷いて、逸朗は突然俺の額にキスをした。
「放っておく。マイアミの造り手は…」
「アルバートだ」
「なら構わない。あれはまだ短いし、質も悪い。もともと駆除対象だと思っていたから、好都合だと思うことにする」
短い、というのはヴァンパイアに成った年数のことだろうか?
質が悪い、というのは性格のこと?それともウイルスのことだろうか?
ウイルスにも何種かあるのか?
「言いたい放題だな。だがそう悠長にもしていられないぞ。アルバートがかなりお怒りだそうで、本部にも苦情が来てる」
「面倒な……」
「なにより目的がわからない。俺らを狩ってどうする?何も益がない。危険なだけでな」
「どんな状況だと?」
「遺体がない。唯一見つかった遺体は無傷にもかかわらず、一滴の血もなかったそうだ」
それをどうみるか、ヘンリーが独り言のように呟いた。
ヴァンパイアの血は同種にとっての毒だと聞いたばかりだった俺は、それ以外の生き物に何かしらの作用があるのか?と考えた。
聞かないふりって意外とできないもんだな、と心の中で笑いながら。
何を聞いても多面的思考をしてしまうのは理系あるあるだから仕方ない。
「それはちょっと興味深い」
獰猛な唸りを思わせる低い声。俺に話しかける甘い声と同じとは思えずに、俺は首筋を触っていた逸朗の手を掴んだ。ほんの少しだけ指先が熱くなっている。
「私が直接行きたいくらいだが、今は難しい。アルバートに指揮させて究明といこうか。その間になんらかの抗争があったとしても本部と切り離して、アルバートが勝手に動いたことにする。あとは責任をあれに取らせればいい」
「それが妥当か、承知した。ゴードンにはアルバートに動くよう影で嗾けてさっさと帰れ、と伝えておくよ」
その言葉で二人の会話は終わりをみせ、ヘンリーは颯爽と帰っていった。




