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2-19 2回目の緊急定例会

いつものカフェの奥。

定例会専用室にはすでにルカがリディアと座って珈琲を飲んでいた。リディアはさらにドライフルーツとナッツのキャラメルタルトを頬張っている。


だから大輔が中に入ったときにはキャラメルの甘く香ばしい匂いが漂い、緊張が解けていくようだった。


狼は今回の定例会は欠席だった。

バージルの事件の事後処理的な扱いもあって、関わりの少なかった人狼は開催だけは知らせたが、出欠に関しては問わなかった。


「短期間で何回も呼び出して、ごめんね」


大輔はまず謝って、椅子に座った。そしてリディアに笑みを向けて


「リディアは今日も元気そうだね」


と言った。タルトを咀嚼していた彼女は頬を赤らめながら、ぺこりと頭を下げた。


「ルカのおかげでなんとか解決したよ。本当に助かった。あれがなかったらどのくらいの被害かもわからないくらいだったから、ヴァンパイアとしては感謝してもしきれないくらいだ」


今度はルカが赤面して俯いた。

僅かにみえる口許がゆるゆるに緩んで、にへらとしているのが見えて、大輔はふふふ、と笑んだ。


「バージルは拘束の?」


それにはふるりと首を振って大輔は応えた。


「ではあれを…」


今度は頷いて肯定する。


あのあと気を失ったので大輔はバージルがどうなったのかを知らない。

逸朗から朽ちた、と一言聞いただけだった。


それは実際に正しい。


バージルはエネルギーを吐き出している間、いままでを取り返すように年を取っていったのだ。身体から筋肉が削げ落ち、皮膚から張りがなくなり、深く皺が刻まれ、どんどん老いていった。最終的にはミイラのようになり、最後の糸を吐き終わったときに、細かな砂に還ったように崩れた。

あとにはそれを縫い留めていた土の槍が木に刺さっており、その木の根本にはこんもりとした砂の山ができていた。


陽射しが高くなり、庭園を燦々と照らしはじめると、その砂もきらきらと煌めきながら風に舞って消えていった。


壮絶ながらも荘厳な美しさだったという。


「俺も詳細は聞いてないんだけど、もういない、てのは確かだから」


たくさんの命を喪ったと大輔は項垂れる。

救えたものも多かったが、やはり失くしたものの数をつい考えてしまう。


「ありがとうございました。犠牲になった魔術師もこれで安眠できます」


ルカがテーブルの上に置いていた大輔の手を優しく握りしめた。彼の大輔を見つめる瞳にはただ感謝の念だけが宿っている。


「ルカのおかげだよ。あの秘密の魔法陣に助けられた」


その言葉を聞いたルカは嬉しいそうに破顔してから、周囲を窺うように見渡した。

そして内緒なんですけど、と小声で話し出した。


「ウィリアム様から大輔さまに指輪を差し上げたい、と言われたときにひとつだけ条件を出したんです」


そこまで話してルカはもう一度ドアを警戒したが、安心したのか、また続けた。


「ウィリアム様が魔法陣をひとつ刻印してくれたら、彼の条件の魔法陣を彫ります、て」


聞いていた大輔の瞳が艶やかに煌めく。


「じゃ、秘密の魔法陣は逸朗が?」


「そうです、だからウィリアム様の名前じゃないと発動しないんですよ。図案と指輪を送って彫るように頼みました。それを彫り終わってから僕のところでウィリアム様の、あの…」


「あぁ、うん、ワケわかんないやつね」


ルカがにこりと微笑む。


「はい!それは僕が彫って、ウィリアム様の指輪と一緒にはめたあと発動するようにしておきました。あまり意味のあるものだとは思わないんですけど、ウィリアム様には重要なんでしょうか?」


「さぁ、それはわかんない。逸朗の考えてること、て意外とわかりにくいから。でも今回は助かったなぁ!」


絶体絶命のギリギリアウトな状況だった。

あのとき、大輔は伴侶の名前を呼ぶことで彼を傍に来させないようにしたいだけだった。

それが思わぬ結果を導いて、こうしてルカと笑っていられる。


「ちなみにあれって、どういう魔法陣なの?」


珈琲を飲みかけてるときに大輔が聞いたので、慌てたルカはこほんこほん、と、咳き込んだ。

ごめん、と大輔は謝りながらハンカチを手渡す。

ルカはそれを断ってポケットから自分のを出して口を拭いた。


「あれは2度は使えないですから、絶体絶命のとき、と言ったんですけど、触れたものを術者が求めている武器にするものです。銃のような複雑なものは無理ですけど、剣とか槍とか、斬る、打つ、叩く、くらいのものならなんでも形にできるように設計しました」


なるほど、と大輔は納得した。

バージルを固定することだけを考えていたので、形になっただけでなく、あれに向かって飛んでいったのだ、と大輔はホッとした。

もしもあのとき手元に剣があっても彼には扱いようもなかっただろう。

確かにその場に必要なものが必要な形で具現化してくれた、と感謝した。


「それだけじゃないよ、ちゃんと俺の意図を組んで適切な形で役立ったから」


それを聞いてルカの顔が輝いた。

彼はいつまで経っても自信がない。これほどの天才だと、ひとつ間違えばかなりの危険人物に成りかねないほどの天才だというのに、猫背でおどおどしている。

魔術会のトップにいても自信のなさは変わらないが、彼は革新的な魔術を次から次へと開発している。そしてそれは異端だと反目するものも影にはいるだろう。


確かに危ういものは多い。

今回のことでヴァンパイアサイドから魔術師に対する恐怖が生まれたのは間違いないだろう。

決して侮れる相手ではなくなっている。

ヴァンヘイデン家へ忠誠を誓ったことを快く思わない魔術師もいるだろう。

それがいつ反旗を翻すのかもわからない。


眼前のルカは開発も得意だが、それを共用して教えるのもまた巧い。魔術師がヴァンパイアにとって簡単に勝てる相手ではなくなりつつある。

さらに人狼に拘束のスタンプを与えている事実もある。

今まで最強種として君臨していたつもりのヴァンパイアに天敵が突然ふたつも生まれてしまったのだ。パニックにならないほうがおかしい。


だけど、と思って大輔は眼を輝かす。


仲良くしてれば、そんな心配することないじゃん?


本部に訴えてくるヴァンパイアがいたら、そう言ってやるつもりの大輔はそれぞれが得意分野を伸ばしていけば、こうして助け合うこともできるんだ、と素晴らしい前例ができたことを単純に喜んでいた。

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