表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/130

12 ヴァンパイアはウイルスで…?

「ねぇ、やっぱり俺の血が欲しかったりする?」


いい加減唇が腫れて痛みを感じてきていた俺は少し離れた瞬間を狙って聞いた。

抱き寄せていた腕の力を抜いて、逸朗は俺を覗き込む。そして軽く首を振った。


「ちゃんと知っておかないといけないことがあるなら、教えて。おんなじことして、逸朗さんを傷付けたくないんだ」


「そう、思ってくれるのか?」


「うん、好きかどうかもわからないけど、逸朗さんが傷付くと俺のここが痛い」


言って、逸朗の胸に手を当てる。

そこにあるはずの心臓からは鼓動が伝わってこない。けれど、しばらくするとか細くとくん、と一度だけ動くのが分かった。

極端に心臓の動きが少ないんだ、とひとつ新しい発見をして気分がよくなる。


「あ、それから彼女とは別れるようにする。じゃないと会っちゃうし。彼女のことは好きだけど、今の逸朗さんへの気持ちと比べるとちょっと違う気もするし」


逸朗の指が俺の髪を漉き始める。

それが気持ちよくって、俺は思わず目を細めた。


「それに、一緒に住むんだから、やっぱり彼女とは別れておいたほうがいいのかな、って。彼女には悪いけど、死ぬよりはましじゃない?」


逸朗のあの姿に恐怖はないが、彼女の命の危険を感じるには十分すぎるほどの刺激はあった。このまま一緒に住むことを受け入れるなら、彼女のためにも俺と距離があったほうがいい。


逸朗の身体が少し強張り、柔らかく俺を抱きしめた。そして額にキスを落とすとふわりと笑った。


「少しはヴァンパイアの習性を勉強したとみえる」


「うん、だから教えて。必要なことは全部」


「そうだな、私にとってもそのほうがいいだろう」


そして名残惜し気に俺を離すと、半身を起こし、ベッドサイドに置いてあった水差しからグラスに水を入れて渡してくれた。

受け取って、こくりと一口飲む。冷たい水が喉を流れていく感覚が気持ちいい。


「これは私の説で、立証されているわけではない。それは承知しておいてくれ」


俺から返されたグラスから逸朗も水を飲んだ。


「私はヴァンパイアに成る要素としてウイルスを考えている。ヴァンパイアウイルスというものがあったとして我々をみると、実に説明がつきやすいんだ。そのウイルスは感染と同時に遺伝子を書き換える。それも一晩で、だ。その際にかなりの痛みと空腹を覚える。飢えも渇きも耐えられないかと思うほどに。そして痛みが治まって、飢えと渇きだけが残されたとき、この姿になり、血を欲する。異常なまでに、だ」


「じゃ、もともとの姿は違うってわけ?」


「いや、人であった時の面影はあるが、ヴァンパイアはみな一様に背が高くなり、美しい」


「じゃ、俺もヴァンパイアになったらイケメンになれるわけだ」


ふふふ、と逸朗が笑い、いまでも十分可愛いが、と呟いた。


「あのときほど血を欲することはない。あとは怪我を治すときか。常の状態で血を欲することはないが、修復をする際にはどうやら人の血をエネルギーとする必要があるようだ。あとは己の独占欲を満たすために伴侶の血を求めることがあるが、相手が人であった場合のみだな。ヴァンパイアはヴァンパイアの血を飲むことができない。毒なんだ」


「毒…」


「死ぬことはないが、かなり苦しむ。ヴァンパイアの掟に背いたものに対する拷問に使用する程度には苦しい毒だ」


拷問、という聞きなれない言葉に驚く俺の鼻に逸朗はそっとキスをした。


「しかもこのウイルスには意思がある。活動期と休眠期があり、ウイルスがヴァンパイアに相応しいと判断しない限り、感染することはできない。感染するにはヴァンパイアの血が必要だ。活動期であれば感染可能だが、休眠期であれば仮に感染してもどうやら人の免疫には勝てない。ヴァンパイアには成らない。人に感染させたことのあるヴァンパイアを造り手と呼び、造り手は敬愛すべき対象となる。だから伴侶を感染させるときは己が敬愛するヴァンパイアに頼むことが多い。敬愛されたいわけではなく、ただ愛されたいだけだからな」


「ウイルス…か」


遺伝子書き換えを一晩でやってしまうほどのウイルスが存在すること自体が信じられない。けれど俺の目の前にその奇跡がある。

修復時にエネルギーが必要となるのはウイルス自体が免疫系に作用して、修復をしているからなのだろうか。それともウイルスそのものが免疫細胞化するのだろうか。


「ただ、大輔が伴侶を受け入れてくれた時は血を分けてほしい」


言って、俺の内股を指さした。


「ここの、血が欲しいんだ」


自分の脚を見下ろして、あぁ、と納得する。

心臓から流れる大きな動脈が走る、その場所はおそらくどこよりも濃い味がするのだろう。


「いいだろうか?」


伺う逸朗に俺は頷いて許可した。途端に花が咲き誇るように逸朗は破顔した。

心臓がどくん、と大きく跳ねる。


あぁ、俺は気付きたくないだけで、すでに毛細血管まで囚われてしまっているんだ、と頭でなく心で理解してしまった。


逸朗にはまだ言わないけれど……


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ