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11 はじめてのキス

「すまない、ウィルは休ませている。俺から話をする」


シャワーを浴びてきた俺をソファに座らせ、コーヒーを用意したヘンリーが俺の前に座った。そして少しだけ迷うように視線を揺らしてから


「俺たちは異常に独占欲が強いんだ。しかも獣並みの鼻を持つから、自分のものに違う匂いがついてるだけで理性を失うこともあるんだよ」


と説明を始めた。


「正直、ウィルがこうなるのは見たことなかったからな、結構驚いたんだが、まぁ大輔に対する執着が半端ないのはわかってたから、帰ってくるのを待っててよかったよ」


軽く笑って


「じゃなかったら、おまえさん、たぶん、生きてなかったな」


と冗談のような真実を、俺に突き付けた。


「俺に、彼女の匂いがついてたから、嫉妬したってこと?」


「簡単に言えばそう」


「じゃ、さっきの姿が本当の?」


「そうだな、本能を隠さない本来の姿ってことになるな」


流れるような銀髪、血を飲んだ直後のような真っ赤な唇、怪しく光る深紅の瞳、人ならざる白磁の肌、そして本能のまま求める荒々しいまでの魂。

なんて雄々しく美しく、危険な生き物だっただろう。


陶然と思い出す。


「怖かったよな、ウィルもそれをかなり気にしてて、な」


とのヘンリーの言葉を、俺は不思議なものとして捉えた。

怖い?

囚われ、命の危険をも感じながら恐怖は全くなかった自分を思い返す。


「怖くない。めっちゃ綺麗だと思った」


呟く自分の声に、どうしようもない渇きを感じた。

砂漠で水を求めるような渇き。

海の中で空気を求めるような渇き。

人が生きていくうえで必要なものを、ただ求める渇き。


それを感じ取ったのだろうか、ヘンリーが皮肉な笑みを口元に浮かべた。


「じゃ、大輔には責任を取ってもらうかな、悪いがウィルの部屋に行ってご機嫌でもとってきてくれよ」


「あぁ、うん」


立ち上がり、ふと疑問が沸いた。


「ねぇ、そのウィルって彼の?」


「あぁ、もともとの名前だな。いまは逸朗だったか?」


「うん、逸朗…さん」


「じゃ、逸朗を頼む」


くつくつと笑い、ヘンリーは帰っていった。

俺は言われたまま、逸朗の部屋へと足を運んだ。

小さくノックをしたあと、応えもなく入る。


薄闇の中、部屋の中央にあるクィーンサイズのベッドに人が寝ている形がうっすらと見えたので、俺はベッドサイドまで進んだ。

仰向けに横になっている逸朗は顔が見えないように片腕で覆っていた。

入ってきたのは足音で分かっているはずなのに、反応がない。


投げ出した長い脚が俺を拒否するように曲げられ、くるりと背中を向けられた。

ちりりと胸の奥が痛む。


「一緒に、寝ても、いい?」


声が掠れる。

心の渇きが喉をはりつかせているかのように。


逸朗の肩がぴくりと動いた。

無言が了承だと受け取って、俺はゆっくりとベッドに上がる。

そして人を装った美しき獣の背中に縋るように体を寄せた。


「ごめんなさい、俺、知らなくて…」


逸朗の背中は冷たい。

氷のような冷たさでなく、ほんのりと生暖かいというか、蛇の体温に近い気がする。でもそれがとても気持ちよく、俺はそっと頬を寄せた。


「……怖く、ないのか?」


震えている。

逸朗が、生き物として絶対的強者に位置するだろう逸朗が震えていた。

その事実に俺は奥底から湧き上がる歓喜で頬が緩んだ。


「怖くない。綺麗だと思っちゃった」


俺は小さく笑った。

この喜びはなんだろう、嬉しくって声まで弾む。いつの間にかあれほど感じていた渇きもなくなっている。


思いがけない言葉を聞いたのか、逸朗はゆっくり俺のほうに身体を向けた。そして触れたら消えてしまうのではないかと疑うように、指先だけを俺の唇に当てる。


その指に俺はキスをする。

それが自然なことのように思えたから。

逸朗はびくりと震え、すぐに立ち直って俺の顔を両手で包み込んだ。


「逸朗さん、俺はまだ受け入れる準備ができてない」


逸朗の瞳が不安げに揺れた。


「でも、今は逸朗さんとキスがしたい」


その瞬間、逸朗から沸き立つような欲望が燃え上がり、うっすらと唇が開いた。そして片手を俺の腰へと回すと強く抱き寄せ、最大限の優しさと荒々しさをもって唇を重ねてきた。

冷たい唇。

脈の感じない体に俺は腕を巻き付け、逸朗の髪に指を這わせた。

ぞくぞくとした快感に支配されたまま、俺は逸朗の舌を受け入れた。


やっと…やっとここまで進めました。

頑張れ!逸朗!!

まだまだ続きますがよろしくお願いします。

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