2-1 闇のはじまり
どうしようか迷いましたが、やっぱり書くことにしました。
第二部です。20話で完結します。どうぞ宜しくお付き合いください。
陰と陽
光と影
裏と表
栄華と衰退
ものは必ず表裏一体でひとつと成す。
光があれば影があり、光が輝けば輝くほど影は濃く深くなるのが道理。
大輔の、みんな幸せで俺も幸せ精神は素晴らしいWIN-WINの関係だが、必ずしもそれは真理ではない。眼に見える範囲だけであれば容易くはないが、できなくもない。
が、眼の届かないところでなにが育つのかは、残念ながらその人次第である。
それを失念することは上に立つものとして、決してやってはならない愚行だが、ヴァンヘイデン家当主は浮かれると、すぐに大事なことが意識から飛ぶ傾向にある。
ましてや現状、どこにも懸念材料が見当たらないのだから、濃くなる影の恐怖に日々警戒する必要も感じてなかったとしても、致し方ないのかもしれない。
一番の懸念だったバング家はかつての極貧生活から、優雅なセレブ生活へと変貌したことにより、完全にヴァンヘイデン家の配下となることを厭わなくなった。
労せずとも潤う財布はヴァンヘイデン家から齎されているのだから、当然と言えば当然である。
あの気位高いレディ・マリアンもすっかり従順になり、ヴァンヘイデン家に頼んで、少しでも増やすための投資を習いはじめているくらいだった。
それは多少の損失を出しながらも、彼女としては上手くできているらしく、実に楽しそうに生活をしていると、ヘンリーのところに報告が上がっていた。
アイスラー家のヴァンパイアたちはゴードンの起こした破壊行為によって命を失ったものは気の毒だったが、そのときに生き残ったものたちはみな、エミリアに付いてシュナイダー家のものになっている。
もちろん、本部からの許可を得て正式に一族と認められているので、なんら代わりなく過ごしているようだった。
むしろロルフが当主であることで、安定した生活が送れているという報告がきていた。
無理難題を吹っ掛けられることもなくなり、ヴァンパイア筆頭3家がなくなって諜報活動も負わなくてよくなったので、のんびりと人と変わらず生きている。
魔術師に関しては魔術会のトップがすでにサー・ウィリアムの伴侶に骨抜きにされているので、当然反意を持つこともなく、ましてや新しく開設する学校の出資者でもあることから、完璧なまでの忠誠を誓う状態で、端からみれば見事に飼い慣らされた牙のない狼である。
健全に魔術だけを探求する組織になっていた。
狼といえば、人狼だが、彼らは元々が他種族のと交わりを拒否する種族なので、今までとあまり変わらない。
ただ、そのトップがやはりサー・ウィリアムの伴侶と友人関係にあり、ヴァンヘイデン家と交友があるわけでもなく、ヴァンパイアと親密なわけでもないが、やはり個人的な見方をすれば、今後なにがあってもヴァンパイアには逆らうことはないだろうと考えられる。
なにせ人狼のトップがヴァンパイアの伴侶なのだから。
だからこそヴァンヘイデン家は平和を享受し続けているのである。
だが、やはり強い光には、それに見合った闇が生まれてしまうのも、真理だった。
深い深い、真の暗闇。
いま、それが目覚め、ヴァンヘイデン家に仇為すために蠢きはじめたのかもしれない。
怨みを生まない処断など有り得ないのだと、学ぶべきときが近付いていた。
薄闇のなか、僅かに射す陽に銀髪を煌めかせながら男はベッドに横たわるものの肩に手を掛けた。
厚いカーテンが陽射しを遮っているだけなので、開ければ室内は明るく照らされるだろうに、この部屋の主がそれを良しとしないため、いつでも薄闇を纏った状態だった。
肩を軽く揺するが、起きる気配のないものに、焦れたように男は声をかけた。
「起きてくださいませ、やっと人手が集まりました。みなが待っております、バージル様」
掛けられた声に反応して、浮き上がるようにゆらりと起きた男がたっぷりとした金髪を優美にかきあげた。
闇のなかにうっすらと白磁の顔が能面のように浮かぶ。
その幽鬼に、起こした本人は見慣れているはずなのに、思わず短い悲鳴を漏らしていた。
それが面白かったのか、能面がにやりと口を歪めた。
「支度を頼む、ギヨム」
艶やかな甘い声が実に耳に心地よく響き、いつものことながらギヨムは彼の声を聞くと安堵する。
そして手を2度、叩いて侍女を呼んだ。
すぐに彼の身支度を調えるため、侍女たちが入室してきた。
ふわりとベッドから音もなく降り立ち、バージルは両手を大きく広げた。
甲斐甲斐しく世話をされているバージルを確認してから、ギヨムは退室し、待たせている仲間のところに向かう。
我が当主をやっと紹介できる。
高鳴る胸を抱くようにして、彼は足を早めた。
ギヨムはヴァンヘイデン家の遠戚だった。
元を辿ればサー・ウィリアムの造り手の血であると言えなくもない。いわば彼とはヴァンパイアの血で兄弟といっても差し支えないだろう。しかし彼は造り手の名を口にすることはなかった。
それほどギヨムにとって造り手は尊く愛すべきものだったからだ。よってヴァンヘイデン家のものである証明として一族始祖の名を口にして彼はヴァンヘイデンの名を冠していたのだが、ミーナを失ったことにより自暴自棄になった彼がした所業で、追放とされた。ウラド・ツェペッシュと同じようにギヨムの一族皆殺しでもおかしくはなかったのだが、ウラドほどの大量虐殺ではなかったことと、ヴァンパイアの迫害に繋がるほどの事態には至らなかったので、追放で済んだのだ。
その彼が当主を得ること事態が異常であった。
名を冠せない彼には名乗るべき一族がないのだから。
だからギヨムなのである。
以前はギヨム・オースティン・ヴァンヘイデンと名乗れたのに。
けれどこれからは違う。
忌々しいヴァンヘイデンの名など名乗りたくもないが、偉大なる王の名を持つ造り手の名前であるオースティンだけはどうしても冠したかった。
家名など糞食らえだ、とギヨムは思って鼻を鳴らした。
主も家名は名乗らない。
彼もまた名を棄てさせられた男なのだ。
だが、決起するときに家名がないのも面倒だ、と主が溢し、まさにこれから新たなる家名を冠する栄誉に賜る予定だった。
ギヨムは興奮で頬が染まった。
本部の認可など知ったことではない、と主が笑っていたことを思い出し、さらに彼は高揚する。
すでに本部はヴァンパイアのための組織ではない。ヴァンヘイデン家の不利にならないための監視組織に成り下がったのだから。
バージル・オースティン・ドナルド。
世界を支配する偉大なる王を意味する名。
本日これから主は名乗るのだ。
興奮しないでいられるわけがない。
漏れる笑みを抑えもせずにギヨムは己の名を口ずさんだ。
ギヨム・オースティン・ドナルド
なんという素晴らしい響きであろう。
己の名にうっとりと瞳を蕩けさせて、彼は仲間の集う部屋のドアを大仰に開けた。
いつも読んでくださり、ありがとうございます。
本当に嬉しいです。今日からもうひとつ連載を始めました。そちらも良かったら覗いてくださると本当に嬉しいです。https://ncode.syosetu.com/n0002gy/
「パン屋の娘、ある日突然救国の女神と呼ばれ、冷徹王子に溺愛される」




