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余談12 ミーナの伴侶と初恋1

相変わらずミーナの話になると長くなりますが、最後までお付き合いください。

いつもありがとうございます。

いつもなら昼過ぎまでは自室から出てこない、いかにもヴァンパイアらしい生活をしているミーナが携帯を手に軽やかにサロンへと乱入してきた。


アランもまた携帯に眼を落とし、興奮したのか、鼻の穴がいっぱいまで広がっていた。


穏やかな朝の陽射しがサロンに広がり、そこここに飾られたクリスタルがきらきらと反射している。中央に置かれたテーブルはガラス製のアンティークで、凝った金メッキ細工が見事であった。

すべてに光が当たって、飛び込んだミーナはそこに天使を、いや神を見た気がした。

アランの柔らかな金髪までもが光を含んで、それそのものが煜くようだったのだ。

美しさに一瞬ぼうっとしたミーナにアランが興奮して叫んだ。


「見たか?!」


それ以上の言葉が頭に浮かばないのか、手に持った携帯を振り回し、アランが彼女を見つめた。

彼の声で現実に戻ってきたミーナは慌ててアランの傍まで駆け寄った。


「アラン様も見たのね!」


ふたりの手にした携帯にはゴードンからの緊急メールが表示されていた。


「すぐに探索しなきゃ!」


「これは急務だよな!」


顔を見合せて意気投合しているところに、悠然とシモンが現れて、同じメールが届いた携帯をテーブルのうえに置いた。

どうやら人ながら特別枠に招待されたらしい、とアランは思ってゴードンと盛り上がって珍しく笑っていた己の執事を思い出した。


「本当にウィリアム様は面白いことをなさいます」


その口調に幾分か、ゴードンへの妬みを感じ取ったアランは不満げに下唇を付き出した。


「なんか、俺に言いたそうだな」


「とんでもございません。我が主は優等生でございますから、下僕(しもべ)としては大変楽をさせていただいております」


慇懃に言って、頭を垂れる。

が、その表情には嘲笑がうっすらと浮いていた。


「そんなことはないぞ、俺だって、やるときはやっている」


憤慨してアランが腕を組んだが、


「ウィリアム様が関わったときだけは行動的でございますけどね」


の執事の言葉にがくりと肩を落とした。

確かにアランは動かない。

否、動けない。

一族を護るために動かない選択を敢えてしているが、シモンとしては常に主が定位置にあることで、実に単調な仕事になっていた。

比べて逸朗は、とくに伴侶を迎えてからかなり自由に動き回っているので、ゴードンはその度に尻拭いに奔走している。

しかしシモンからすれば主に振り回されているゴードンがとても愉しそうに見えて羨ましいのだ。


「今回もウィル絡みだから、俺は行くぞ!」


憮然として言い放つとアランは勢いよく立ち上がった。それに嬉しそうにシモンは笑って


「どうぞ行ってらっしゃいませ」


と恭しく一礼をした。


ミーナと話し合ったアランは居城を中心にしてアランは南下、ミーナは北上しながら探索することになった。


ミーナはまずパリへ。

アランはオルレアンへ。


ふたりは勇ましくもバイクにひらりと跨がった。

ライダースーツ姿のミーナはその見事なボディラインを露にして長い髪を纏めるとフルフェイスのメットを被った。

アランが彼女の雄々しくも優美なスタイルに見惚れていたので、ふたりの視線が一瞬絡み合った。

そしてふたりともが愉しそうに微笑み、互いに親指を立てた。


あのウィルが伴侶を伴って新婚旅行に行くならどこを選ぶだろうか、と考えながら。


けれどこれが思いもよらない運命の出会いを引き寄せるとは、このとき誰も予想すらしていなかった。


アランは順調にバイクを飛ばし、ヴィシーまで下ってきたが、逸朗の気配はまったくなかった。それを言うなら大輔のあの独特な甘い匂いも感じない。

路肩に寄ってバイクを停めると、アランは定期報告としてゴードンにヴィシーにもいないことを送信した。

ついでに黒く塗り潰された地図を確認する。

どうやらフランスではないようだ、と思いつつも、意外と盲点で南フランスでバカンスの可能性も否めないしな、と考え直した。


再度バイクに跨がり、次はリヨンまで向かってみよう、と走り出した。


一方その頃…


ミーナは学会終了後に大輔が逸朗と過ごしたパリの屋敷の前にいた。思い出の地を巡ったりするかもしれないと、思ったのだ。


もしくはあの大輔さまだもの、籠りっぱなしでパリを観光してない!とかなんとか言って口直し観光するかもしれないし。


と考えながらバイクを路上駐車して歩いていたときだった。


「まさか、ミーナか?」


突然名前を呼ばれ、ミーナの身体は硬直した。

パリに知り合いはいない。

いたとしても遥か昔に鬼籍に入ってしまったものばかりである。

アランの屋敷に針子として奉公してからほとんど外に出ずにいたので、ヴァンパイアの知り合いも少なかった。

顔見知りになるのは騎士として屋敷を護るヴァンパイアぐらいである。


けれどミーナには己の名を気軽に呼んだ男の声に聞き覚えがあった。そしてそれはこのまま逃げ出したいほど逢いたくないものでもあった。


振り向こうか、無視しようか、悩む彼女に追い討ちをかけるように男は肩に手を置いた。


「やっぱりミーナだ。懐かしい。逢いたかったよ。まさか生きてるとは有難い」


そして彼の胸に抱き締められた。

記憶にある胸板、ほんのり薫るチョコレートに似た匂い、そして視界の端で揺れる毛色の変わった淡い銀髪。

きっと視線を上げたら、そこには耀くサファイアのような碧眼があるだろう。

それを確認するのが恐ろしくて、ミーナは身動きができなかった。静かな、けれど歓喜に満ちた柔らかな声が降ってくる。


「あのまま死に絶えていたらどうしようかと思ってた。ずっと探してたんだよ」


そして朗らかに笑い、彼は当たり前のようにミーナに口付けた。

それを払うことすらできずに、ミーナは我慢した。

快活な彼女らしくもなく、蛇に睨まれた蛙のようだった。


「今までどうしてたのか、話が聞きたいよ、僕の伴侶」


その瞬間、ミーナの膝から力が抜けた。

伴侶と恋人の違いをずっと書きたいと思っていました。

書き始めることができて本当に嬉しいです。


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