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クリスマスイブなのだから!

 私は当麻を大事に可愛がろうと思った。

 父親に三度ほど殺されかけていた事実からではない。


 当麻が自分で覚えているだけで三度であるだけで、それ以上の回数、食べれば治ると言い張り、海老入りのスナックや料理を当麻に食べさせては病院送りにしていた男であるのだ。


 だからこそ叔母は、当麻の父との離婚は望むところだった、と言っている。

 当麻の父が自分を理解してくれないと言い張って浮気してくれた時には、裏切られたと思うよりも感謝ばっかりだったと彼女は言っているのである。


「今は誰だってアレルギーで人が死ぬって分かっているのに、子煩悩な父親のよくある失敗だって言って、彼が当麻にした行為を誰もが許すのよ。看護師である私こそがきちんと教えて上げれれば防げた事故だって。何度も言っているから、煩いと思う私の目を盗んで我が子を毒殺しようとする男でしかないのに!」


 ナオ君は当麻に闇があると冗談めかして笑うが、その通り、当麻は小さいのに生存サバイバルしてきた過去を持っている。そこにすぐ気が付くナオ君は凄いな、と惚れ直しちゃうが、彼は当麻にばっかり優しいのも少し悔しい。


 でも、と私は思い直した。

 当麻がナオ君から離れたくないと泣いたから、私と当麻はナオ君の家にお泊りできるのだからいいでしょう、と。ほら、今日はクリスマスイブなのよ。


 残念ながら、父もお泊り、であるけれども。


 しかし、私がお風呂を上がった後に知った状況で、私は父も当麻も大嫌いになってしまう感情を抑えられなくなった。だから、父親に大声を上げていた。


「どうして私がお父さんと一緒の部屋に寝ないとなのよ!」

「お前を加賀美と一緒にすることこそ出来ないだろうが!」


「え~。お父さんとナオ君で、私と当麻じゃないの?」


「ははは。そんな部屋割りなんかしたら、俺がお前の布団に潜り込むの確実じゃねえか。お前は俺を破滅させたいのか?」


 私は真後ろからの笑い声にほんの少し飛び上った。それから大好きな声の人に振り向いたのだが、彼は私の両肩を抑え付け、部屋の方へと押し込むばかりだ。


「ええ!お子様は寝ろってこと?でも今日は、だって。」


「今日はまだ終わってねえだろ。無駄に親父を煽るな。」


「う、うん。」


 私は素直にナオ君の言う事を聞くしかない。だってこれって、後で二人の時間を取ろうっていう、ナオ君の約束みたいなものよね。それで部屋に敷かれた布団を改めて見返したが、布団は一組しかない。


「お父さんと寝るのはヤダ!お父さんは大きいから狭いじゃない!お父さんとぎゅっとなるのはヤダ!私もナオ君の布団で当麻と一緒に寝たい!」


 布団の上に胡坐を組んでいた父は、さらに偉そうに腕を組んで顎を上げた。


「安心しろ。布団はお前ひとりで使えばいい。まだ俺は徹夜で見張りなんかいくらでもできるから大丈夫だ。」


「お父さん!もっと嫌よ!お父さんこそさっさと寝とぼけてしまって。」


「俺を寝かせてお前は何をする気だ!」


「だって今日はイブなのよ?せっかくのクリスマスイブなのよ?十七歳最後のクリスマスぐらい好きな人と過ごせるステキクリスマスが欲しいわ。」


「それは、今年だけは、って話か?」


「だって、来年は受験だし?」


 私は上目づかいで父に強請っていた。

 私的には、十七歳の今回も来年の十八歳だっても、恋人がいる限り素敵なクリスマスを夢見たい、そんな気持である。だが、そこまで父に暴露する必要はない。

 そうでしょう?

 けれど、私の父親であり、私の恋人の相棒で上司という男は、顔を歪めて鬼瓦みたいな怖い表情しか私に向けない。


「何よ。」


「いや。お前は家に帰る。家まで加賀美に送ってもらう。それはどうだ?」


 お母さんは今日は夜勤で家にいない。

 送ってもらった後、そうよ、お茶ぐらいならば!

 私は、お父さんありがとう、と叫び出しそうだった。


 が、私の恋人がそんな私自身を止めた。

 男友達にするように私の肩に腕を回し、しかし、男友達にはしないだろう甘い囁き声で私の耳をくすぐったのだ。


「ガキは口説く時間と場所が必要だろうが、俺はいつだって口説けるんだよ。」


 えっと、それってそれよね。

 お父さんの隙を見て、あなたは私を口説いてくれるってこと?


「大人しくします。ええ、ナオ君の家に泊まる。で、好きなだけ起きてナオ君の家でふらふらする事に決めた!」


 父は大きく舌打ちをして、顔を鬼瓦のようなものに変えた。

 ナオ君は猫みたいに喉を鳴らし、私の腰にビクビク響くような低くて素敵な笑い声を立てながら私の背中に手を当てて、私を部屋の中へと押しやった。


「あとでな。」


 私は全身がきゅんとなってしまって、気が付いたらぼんやりとしていた。

 お父さんがいなくなった、布団の真ん中に一人ぼっちで座り込んで。

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