死体を盗んだ
一日目
私はまだ自分のやった事が信じられない。
でも、彼は私の部屋にいて、私だけのものになった。
闘病していた彼は私だけが支えで、私にとっても彼が支えだった。
では、あなたがいなくなったこの後は私は?
そう考えたら彼を自宅に連れ去ることしか考えられなくなった。
病院だもの。
遺体を入れる袋はある。
私には車もある。
はは、火事場の馬鹿力って本当だ。
いいえ、これだけ彼が弱っていたのね。
彼の身体は小さくとっても軽くなっていて、ちがう、私と一緒に帰りたいからあなたは自分の身体を軽くしてくれたのね。
二日目
翌日の病院は大騒ぎだ。
みんなして彼を探している。
彼を放っておいた妻という女と子供が泣いているが、私は彼等には何とも思わなかった。
昨日までは、彼女達の姿を見るたびに胸が張り裂けていたのに。
今の私の胸は平安この上ない。
彼が家にいるからね。
「君が~さん?」
名前を呼ばれて振り向けば、見ず知らずの男性だったが、ああ、私が溜息を吐くほどに素敵な人だった。
私を振り向かせるなんて!あなたは私を愛しているの?
「何か気が付いた事があったら連絡をください。」
ああ連絡が欲しいなんて!彼を家に呼んであげよう!
ああ!でも、部屋が綺麗じゃないわ!
私は急いで家に帰った。
そして、私の部屋を臭くしてくれた原因を抱き上げた。
どこに捨てようか?
ああ、もうぐちゃぐちゃしてきている。
目の前の公園でいいわね。
「お父さん?どうしたの、急に大きな溜息なんかして。お仕事で嫌な事件なんかがあったの?」
私は一緒に歩く隣の父の顔が、夜道の暗さだけのせいじゃなくて、十歳老けた様になっている事に驚いた。
私がナオ君と付き合っている事が負担なのかしら。
でも、付き合っていると言っても、ナオ君が私に恋人らしい振る舞いをした事は一度もなく、私が望む「付き合っている」というシチェーションに付き合ってくれているだけにしか感じない。
「あいつはシチェーションプレイが好きだけど、なあ。」
お父さん!!!
「なあ、なつき。事情聴取に来た刑事が自分に惚れたから一緒に邪魔な死体を公園に捨ててくれたって、死体を盗んで捨てた女が言い張っていてさ。いくらあいつでもきっついだろうって帰したけどね、あいつは落ち込んでいたか?」
「――全然。」
ただし、私は父の言葉で落ち込んだ。
ナオ君には、ぜんぜん、恋人と思われていないのかもって。