ちびおの闇
なつきたちが仲良く買い物に出掛けるや、俺の脇で転がって寝ていた当麻がパッと目を開けた。
それだけでなく、彼は物凄い勢いでトイレへと駆けこんだのである。
「子供って奴は、全く。」
当麻の子供めいた行動に口元を綻ばせながら、彼が必死に読んでいた図鑑を軽く開いた。
――ゴンズイは毒があるの。
――スベスベマンジュウガニには毒があるの。
――ミノカサゴには毒があるんだよ。
「毒シリーズばっかりだな、あの子は。海の怖いものはサメやウツボこそじゃないのか?」
トイレからうわーんという、子供らしい泣き声が響いた。
俺は何だろうと駆け付けてみると、トイレを失敗したらしき当麻がお尻を丸出しの姿で、必死で自分が汚したトイレの床をトイレットペーパーで拭いていたのだ。
「どうしたの?」
「ウンチがでるから座ったのに、おしっこも出ちゃいました。」
俺は何が起きたのか一瞬で理解した。
「仕方ねぇよ。男の持ち物は一筋縄でいかないようにできているんだ。」
当麻の頭を撫でた。
当麻は再びうわーんと泣いて俺に抱きついて来たが、こら、お前、その手はおしっこを拭いていた手じゃねえか!
「やばいな。がきはやべえ。」
この着ているスウェットも洗濯機に入れる事になるな。
俺は乾いた笑いを上げながら当麻を抱き上げた。
「ぼ、ぼくはやばいの?」
「ああ、可愛くてやべえな。ここを片付けたら風呂に入るか。」
「お、怒らないの?」
「言っただろ。男の持ち物は一筋縄じゃ行かないって。こんなんは単なる事故だろうが。」
「僕は悪い子じゃない?」
「悪い子だと困るのか?」
「お父さんは悪い子だったから海の毒で死んだんだって。」
俺は当麻をぎゅうと抱きしめた。
こいつには本当に闇があったのか、と。
「幼稚園でミチちゃんが言ってた。」
「――海の毒で死んだのは、もしかして、ミチちゃんのお父さん?」
当麻はうんうんと首を上下させた。
俺は当麻から闇が消えると良いなと思いながら、少し乱暴に当麻を振り回した。