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86話「回想」

「グォオオオ!!」


 悪魔の力を開放するバアル。

 自分より一回り大きいロッドンが小さく見える程、魔力の解放と共に全身が悪魔の姿となり巨大化する。


 そしてバアルは、ここへやってくる前に神龍より与えられた力の効果を実感する。

 自身の魔力、そして身体能力までもが、飛躍的に向上しているのが体感として伝わってくるのだ。


 だが、それでも足りなかった――。

 かつての友、ロッドンの纏う魔力は、今のバアルの魔力を優に上回っているのである。


 そもそも、魔法を得意とはしていなかったはずのロッドン。

 しかし今では、まるで無限とさえ思える膨大な魔力をその身に纏っているのであった。


 ――どうやら俺と、同じってわけだな。


 こんな事を出来るのは、この世界において神ぐらいだ。

 つまり今のロッドンには、神龍すらも上回る程の力を持つ神の力が宿っているという事になる――。



「――はは、気付いたか。今の俺には、神より授かりし力がある。……まぁ、俺としては、こんな状態でお前と戦うのは本意ではないのだが、残念ながらお前と普通にやっても勝てるはずがないからな」


 だからすまんなと、一気にその力を開放するロッドン。

 全身から黒い魔力の波動を解き放ち、その威力だけで大地がひび割れる。


 ロッドンが行ったのはただ一つ。

 それは、魔力による身体強化だ。


 ただし、その無限とも言える魔力による身体強化は、魔王であるイザベラ――いや、それを超えてミレイラすらも凌駕する程の圧倒的な力であった。



「行くぞぉおおお!!」


 有り得ない速度で接近してきたロッドンは、手にした大剣でバアル目がけて斬り付ける。

 咄嗟にバアルも防御をするも、その防御の上から問答無用で斬り付けられてしまう。



「グォオオオオ!!」


 すぐに自己再生を始めるも、激しい痛みがバアルを襲う――。

 だがロッドンは、かつての友相手だろうと容赦はしなかった。


 今の攻撃が有効であった事を悟ったロッドンは、立て続けに大剣を何度も振るう。

 バアルは何度も身体を斬られながらも、捨て身で反撃に出る。

 しかし、放つ攻撃の全てが当たることなく、難なく躱されてしまうのであった。


 ドゴォオオオン!


 そして間もなくして、一方的に何度も攻撃を受け続けたバアルは、そのまま為すすべなく倒れた。


 バアルの巨体が倒れた衝撃で、荒野を揺らす。

 まさにあっという間の決着だった。二人の力の差は、まさしく圧倒的だった――。



「――覚悟は決めていたが、悲しいものだな」


 勝利を確信したロッドンは、最後に倒れるバアルへそう告げる。

 遥か遠くの高みへと登って行ってしまったかつての友が、自分の手でこうも簡単に倒れてしまったことに虚しさを感じながら――。



 ◇



『……俺、は……』


 気が付くとバアルは、どこまでも続く暗闇の中にいた――。

 その重たく圧し掛かるような暗闇に、意識がどんどん吸い込まれていくようだった。


 ――そうだ、俺はロッドンに負けたのだ。


 朦朧とする中、バアルは自身がかつての友に負けたことを理解する。

 その力の差は、あまりにも圧倒的であった。


 ロッドンがこの様子なら、レラジェやカレン、それにイザベラ様も無事ではいられないだろう――。


 自分達の敗北。それはすなわち、この世界の混沌を意味する。


 バアルは、イザベラ様と共に過ごしたあの港町での日々を思い出す――。


 バアルも最初は、人間など全て滅ぼしてしまうのが最善だと思っていた。

 しかし、争いで命を落としていくのは魔族だけではない事を知った。


 魔族も人も、そこには平等に悲しみだけが存在した――。


 だからこそ、何のために争っているのか。

 そして、魔族の将来を守るためにはどうしたら良いか。

 その答えとして、考え抜いたイザベラ様は融和の道を選んだのだと、バアルは本当の意味で理解する事ができたのだ。


 港町で暮らす人間達は、魔族である自分達の事を快く受け入れてくれていた。

 もちろん、一部では拒絶する者も現れたが、それでも魔族と人とが共に手と手を取り合い生活する事ができていたのだ。


 イザベラ様の思い描く未来が、たしかにそこにあったのだ。

 だからこそ、バアルは改めてそのイザベラ様の信念の支えになりたいと、強く思えたのである。


 共に滅ぼし合うだけが道ではないと、滅ぼし合ってきたからこそ辿り着けたのだと――。


 だが一方で、ロッドンの一隊に起きた悲劇はバアルも耳にしていた。

 そして、まだ若い才能を全て失ってしまった悲しみがロッドンを変えてしまった事も――。


 その気持ちは、バアルにも痛いほどよく分かった。

 だからこそ、ロッドンの信念を否定する事など出来るはずもなかったのだ。


 どっちが正しいかすぐに答えが出せるのならば、争い自体生まれない。

 だからこそ、お互いの信念を賭けてロッドンと戦い、そしてバアルは敗れたのだ――。


 バアルは、生まれて初めて死の訪れを直感する――。


 色々と心残りだが、どうしようもない事はある。

 そんな、認めたくない諦めの気持ちに支配されるように、バアルの意識は暗闇の中へと吸い込まれていくのであった――。


 だがその時だった――。



 ”バアル”



 突然脳裏に、バアルのよく知る声が聞こえてくる。



 ”お前はまだやれる――”



 それは、バアルがこの身を捧げると誓った唯一の存在の声だった――。



『そう、だ……まだ、死ねない……』



 ここで散っては、残されたイザベラ様を困らせてしまうではないか。

 だからバアルは、まだ死ねないのだ。


 神がなんだ。

 そんなよく分からないものに、この世界を――イザベラ様の描く未来を、邪魔されるわけにはいかないのだ――――!!


 その強い気持ちが、バアルを再び奮い立たせる。

 強く脈打つ鼓動が、バアルの意識を暗闇から解き放つ――。



「ま、て……ロッドン……」


 そしてバアルは、立ち去ろうとするロッドンに向かって、再び立ち上がったのであった。

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