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75話「絶望」

「退きなっ!」


 ルシオンをアイアンメイデンで拘束したセシリアが、横たわるカトレア目がけて駆け寄ってくる。

 その状況に、カトレアの護衛にあたっていた翡翠の剣のメンバーは絶望する。

 今はカトレアの治療が最優先であり、カトレアこそがこの場における唯一の希望なのだ。

 そんな状況において、先日カトレアに敗れたセシリアが凄まじい覇気を放ちながらこちらへ駆け寄ってきているこの状況は、最早絶望しかなかった……。


 しかし、ここで迷っている暇などない翡翠の剣のメンバーは、セシリアを迎え撃つべく剣を抜き構える。



「違うっ! あんたらじゃ間に合わないって言ってんだよ!」


 しかしセシリアは、そんな翡翠の剣には目もくれずカトレアに向かって魔法を展開する。



「や、やめるんだっ!」

「うるさいっ! 究極治癒(アルティメットヒール)!」


 そんな状況に、慌てて制止しようとする翡翠の剣のメンバー。

 しかしカトレアは、魔力を纏った右手で全員払い除けると、そのままカトレアに向かって治癒魔法を唱えたのである。

 しかもそれは、セシリアにしか扱えない治癒魔法の最上位。

 それにより、見る見るうちにカトレアの負った傷が癒えていくのであった。



「な、何故貴女が!?」

「私はこの子と直接戦ったから、この子の強さは重々分かってるんだよ。だからこそ、今ここであの化け物と戦えるのはこの子だけで、もしこの子がこのまま敗れるならアレジオールもお終いってことぐらい分かってる。……我ながら情けないと思うけど、今はこの子に頼るしかないんだ……!」


 まだ先の戦いの傷も癒えていないセシリアは、悔しさを滲ませながら全力でカトレアに向かって治癒魔法を施す。


 バリィイン!!


 するとその時、大きな金属の弾ける音が木霊する――。

 その音に驚いて振り向くと、それはルシオンがアイアンメイデンを力で粉砕する音であった。



「……ほう、変わった魔法を使う者もいるのだな」


 中から出てきたルシオンは、全身から血を流している。

 しかし、その溢れ出る魔力により見る見るうちにその傷は塞がっていく。


 しかし、セシリアはそれを見ても驚きはしない。

 己の最上級の攻撃であっても、ルシオンには通用しない事ぐらい初めから分かっていたかのように――。


 つまりセシリアの目的は、相手を倒す事ではなくただの時間稼ぎ。

 時間を稼ぎたかった理由の一つは、カトレアのもとへ駆けつけ治癒魔法を施すこと。

 そしてもう一つは――、



「うぉおおおお!!」

「てええええい!!」


 こうなる事を待っていたかのように、ルシオンに向かって別方向から凄まじい速度で斬り掛かる二人。

 それはセシリアと同じ五芒星に所属する、アックスと剣聖シリカであった。


 人類最高とも言える剣士の二人による同時攻撃。

 アックスの振るう大剣は激流を生み、シリカの放つ剣は黄金の光を纏った神速の一撃。

 その凄まじい攻撃は、ルシオンに躱す隙など与えない。


 ――しかし、それでもルシオンはその上を行く。


 手に握る剣でアックスの一撃を防ぐと、シリカの剣をその肩で受けつつ、腹部へ向けて蹴りを入れたのである。

 それは時間にして、一秒にも満たない一瞬の事であった。

 しかし今のルシオンには、それでも十分な時間であった。

 まるで自然に導き出されるように、即座に二人の同時攻撃を防いで見せたのである。


 そしてその結果、蹴られたシリカは大きく弾き飛ばされ、そして剣の力で劣ったアックスもまた、そのまま大きく弾き飛ばされてしまうのであった。



「……化け物ね」


 その光景に、セシリアは息を吞む――。

 セシリア同様、アックスとシリカの二人もまた傷が癒えていない状態ではあった。

 しかしそれでも、極致に達していると言われる二人の同時攻撃がこうも容易く防がれてしまったという事に、セシリアは驚きを隠せなかった。


 そして最悪な事に、まだカトレアの治癒は十分ではない。

 大きく斬り付けられたカトレアの身体を癒しきるには、もう暫く時間が必要なのであった。


 だが、ルシオンの視線は完全にこちらへと向けられている。

 Sランク冒険者、そして五芒星が束になっても敵わない化け物の存在に絶望が広がる――。



「――最後ぐらい、勇者らしい事をさせて貰おうか」

「――さて、困ったものですね」


 そんな絶望の中、ルシオンの前に立ちはだかる二人の男――。

 それは残りの五芒星である、カリムとホーキンスであった――。


 先の戦いで、より深い傷を負っていた二人の傷はまだ深い。

 当然まだ戦えるような状態ではなく、恐らく立っているのもやっとなレベルだろう。


 しかし二人は、それでもアレジオールという大国の五芒星を担うものなのだ。

 ここで自分達が負ければ、世界が滅ぶ――それが分かっているからこそ、二人は再び立ち上がったのである。



「おせぇぞ二人とも……」

「……相手は、強い……私達で、時間を稼ぐ……」


 そして同じく、先程の攻撃を受けよれよれになりながらも起き上がるアックスとシリカ。

 こうしてセシリアを除く五芒星の四人が、ルシオンという強大な敵の前に揃ったのであった。



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― 新着の感想 ―
[一言] 敵の敵は味方、の考え方かあ。 しかし、皆が揃っても、まだ足りない。 やはり主役が…
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